3:いたずら好きの因幡ウサギ(後編)
ゆっくりとフェイトがまぶたを開く。2つの目に映るのは2人の男性、ミコトとライトレットであった。
「あの人はっ!?」
「あの人? どの人だよ。って言うか、俺様達もいつの間にか外に出されちまっててさぁ」
ミコトが親指を差すと、視線の先には始めにフェイト達が意気揚々と入っていた森の入口があった。
「因幡ウサギの正体が分からないのも理解出来ますね……」
「面倒なモンは後回しにして別のとこ行こうぜ。ああもうびちょびちょじゃねーかよ! まじねーわ」
「……ううん。面倒なモノこそ早く解決してあげるべきなんです。行ってきます!!」
フェイトは呼び止めようとした2人の声も聞かず森へと入っていく。男性陣2人も入っていこうとすると、今度は矢の雨が降り注ぎ、一時的なバリアでは通り抜けられそうにも無かった。
「ミコトさん、盾に変わってもらえますか?」
「おうよ!」
ミコトが盾に変身し、その盾を持ち上げて矢を防ぎながら、ライトレットはフェイトのいるであろう奥の方へと急いで向かった。
フェイトの方も高速の足と、刃を向けて振り回した剣によって矢の攻撃を防ぎ、森の奥へとやって来た。
「どこにいるんですか!?」
辺りを見渡し、八重歯をむき出しにして叫ぶ。
「あらら、またやって来ちゃった」
後ろから声が聞こえると、そのままフェイトの腰に激しい蹴りを入れられ、フェイトはその場に倒れ込んで乙女座りになってその声の先を見つめた。
「せっかく助けてあげたのに。イケナイ子。……けれど、結構好きかも。どう、ここで2人で暮らすって言うのも?」
青年がしゃがみ、フェイトのあごに手をそえて、ぼそりと呟く。フェイトはその言葉を聞き、眉間にシワを寄せると青年の頬を叩いた。
「……何で?」
目を丸くして青年はフェイトを呆然と見つめる。
「それじゃあ何の解決にもなりません。目をそらしちゃ駄目です。運命はきっと変えられますよ。そしたら、あなたの見える世界ももっと広くなるはずなんです」
「口先だけなら簡単だよ。けれどね、俺はもうここからは出られないんだ。何度も挑戦したけれど、入口には結界が張られて、ずっとずっと、ここで1人きり」
ただただ、フェイトは悲しそうな表情で青年を見上げた。
「でも1人だと暇でしょ? だからあえて因幡の噂を流して、人を呼んではこうして暇をつぶしていたんだ。そう言うこと。さぁ、もうお帰り」
「要するに、結界を外せばいいんですよね!! ときましょう!!!」
「は、はぁ!?」
意表を突かれた青年が目を見開いてフェイトを凝視した。その表情からはそんなことが出来るものかと言う否定的な感情がよく見て取れる。
遅れて登場してきたライトレットがぜーはー肩で息をしながら盾を横に置くと、ミコトが元の姿に戻った。
「ミコト君、この紙見て」
カバンを開けるとリグレットが飛び出し、フェイトの肩に座る。フェイトが紙を取り出すとミコトに湿気を帯びてしまったリストを手渡した。
「で?」
「それは契約した子の使える能力なの。それで、結界を解く感じのって無いかな?」
どれどれとミコトが視線を落としていくと、「おっ」と声を上げる。
「そいつ」
ミコトが指差すと、それはフェイトの肩の上にいるリグレットであった。
「小さいけど大丈夫かなぁ……よしっ! リグレット、契約者フェイトを守るため、その力いざ開かん!!」
リグレットを光が覆い、リグレットは姿を大きく変えた!!
……かと、誰もが考えを過ぎらせたが、その期待を大きく裏切り、リグレットは両手を曲げ、マッスルポーズをしただけだった。
「か~わ~い~い!!」
フェイトがスリスリとリグレットに肌をすり寄せていると、「か~わ~い~い!! じゃ、ねぇよ!!!」とフェイトの頭を殴ってフェイトの腕をつかんで強引に入口へと戻っていった。
ミコトに背中をバシッと叩かれると、フェイトが仕方なさそうに目の前のフェイトには見えない結界の近くに行き、リグレットを両手に乗せて手を伸ばす。
「きゅるるるるっ!」
可愛いらしい鳴き声を上げ、リグレットは口元から光の赤い炎を出した。
すると、今までフェイト達には見えなかった結界が光になってドロドロと溶け落ちていくのが分かった。
結界が全て溶け落ちると、青年がヒョイと前に出てそっと結界のある場所に触れる。以前まであった世界を遮断する壁が、こんないとも簡単に壊されてしまうなんて。青年は驚きのあまり動きが止まってしまう。
「良かったですねウサギさん」
青年の前と周りこみ、フェイトはニコリと笑う。
「ウサギ!? コイツがウサギだってのかよ!!」
「……耳も尻尾もないのですが……」
ガヤ2人の声など聞かず、青年は、「運命を変えてくれてありがとう。フェイトちゃん」と笑い返した。
「それじゃあ、運命を変えてくれたお礼に俺も君のお仲間になってあげよう。俺の名前はアントニー。よろしくね?」
「お仲間? え、えっと……あなたも?」
戸惑いを隠せないフェイトの反応に不服そうな表情をしたアントニーが、フェイトをお姫様抱っこで持ち上げ、「早速ギルドで契約してこよう! 口ね、口!!」と張り切って歩き出してしまった。
「いや! く、口だけはご勘弁をっ!!」
「君に捧げよう、血も骨も肉体も!!」
後ろからマイペースに歩くミコトとライトレットはそれを呆然と眺めている。
「アイツ重いな」
「ですね」
「お前の次に」
「ええっ!? 俺あんな風に見えてます!?」
「なぁお前等ー、契約するのは勝手だけどさ、もう疲れたから宿泊まろうぜー?」
「それじゃあ、宿に着いたらゆっくりお見合いしましょ、フェイトちゃん!」
「誰かっ!! 誰か助けてえええええ!!!」
フェイトの心からのヘルプを呼ぶ叫び声は、青々とし、虹のかかった美しい空に溶けこんで消えていってしまった。
(3:いたずら好きの因幡ウサギ(後編)了)




