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21:下僕契約とレプティリアン(前編)

 ミコトとライトレットが契約部屋から2人を何とか連れ出した後、十数分間に渡り、フェイトとアントニーはお互い言葉を失ってしまっていた。2人の様子に、いなくなってしまったカイル。


 契約が完了すると、部屋の中だけでなく、外側の扉にも光が薄らと現れる。そこからして、カイルが契約をされる前に逃げ出した訳で無いことは分かった。


 フェイトの赤くなる顔が、ミコトに嫌な予感を感じさせる。どちらにせよ、自分から確信を突いてみないと、2人はまだこの状態を貫き通すのだろう。


「……あの男、お前のどこに契約したんだ?」


 ミコトの質問に過剰な程に反応すると、途端に顔全体を真っ赤にさせる。 単純すぎるその反応に、ミコトは深く溜息を吐いた。


 以前のミコトなら、この状況で吐かれるため息は呆れ感情だった。今のミコトは、呆れとは違う複雑な感情にさいなまれている。とうとうミコトまで口を閉ざしてしまった。ライトレットと、ライトレットの膝の上に座るリグレットは3人を心配そうに見つめる。


「きゅるる」


 リグレットが途端にライトレットの服をグイグイ引っ張り、ライトレットの視線が自分に向くと、短い両手を数回上に挙げた。ライトレットが試しに立ち上がると、今度はフェイトの方へ片手を伸ばし、ライトレットをフェイトの前まで歩かせた。


 次にフェイトの服をグイグイ引っ張り、フェイトの視線も自分に向けると、今度は片手を契約の部屋に指す。


「……どうしたのリグレット。もう、契約……は、したでしょう?」


 それでもリグレットは扉の方を何度も指した。何か物でも落ちているのだろうかと、ライトレットからリグレットを預かって歩いて行く。リグレットはライトレットの方を見ると、手でカウンターを何度も指した。


「まさか、契約?」


 リグレットに命令されてしまったため、ライトレットは仕方なくギルドカウンターへと行き、契約のために扉を開いてもらった。


 扉の前に来た途端にその扉が開かれたことで、フェイトがかなり驚いていたが、リグレットは中を何度も指す。


「えっ? もうあのお兄さんはいないんだよ。契約もしたし……うん」


 そこまで言うと、またフェイトが顔を赤らめる。


 しびれを切らしたリグレットが、フェイトの腕の中からよじ登って首の後ろに回ると、多少強引ながらも、首元に弱火の炎を吐き出し、フェイトは思わずその痛みから部屋の中へと入ってしまった。


 リグレットも中に入ると、扉は閉められてしまった。フェイトは目を見開いて首元に手を当てる。


「リグレット……!?」


 リグレットがフェイトに向かって飛びつくと、そのままフェイトの唇に口づけをした。あまりに突然の出来事に、フェイトがまたもや固まってしまう。


 頭をうつむかせている男子2人が気づく様子も無いため、ライトレットが中へと入っていき、フェイトの背中を叩くと、フェイトがハッとして急いで部屋から出た。


 ライトレットがギルド店員に呼ばれて走って行くと、何やら紙を持ってフェイトとリグレットの元へ戻ってくる。紙を流し見していたライトレットだが、その文面の内容に、リグレットを2度見した。


「……フェイトさん。あの、突然ですけど、リグレットさんの契約の力、見せてくれませんか?」


「え……?」


 フェイトがリグレットの方を見ると、こくこくと頷く。口のキスとは言え、小さい魔獣のメス。フェイトの心はまだ冷静な方であった。むしろ、リグレットとの契約によって、カイルとの契約の衝撃が緩和されたような気すらしていた。


「リグレット、契約者フェイトを守るため、その力いざ開かん!!」


 リグレットが光に包まれると、光はフェイトの肩から離れ、フェイトの目の前にやって来る。


 光が妙に大きいなとフェイトが不思議そうに見つめていたが、光が弾けて消えると、光の中から現れたのは額に角の生え、長い髪を三つ編みで結っている女性が現れた。


挿絵(By みてみん)


「……何で?」


 驚きを通り越して呆気(あっけ)に取られるフェイトも気にせず、女性はその姿を見てきゃっきゃと喜び、フェイトに抱きついた。


「あー!!」


 アントニーとミコトが大声を上げ、互いに女性を指差してフェイトと女性の元へとやって来る。


「フェイト、フェイト! やっとフェイトと喋れるよ!!」


 嬉しそうにフェイトに頬をすり寄せる女性に、恐るおそるフェイトがたずねた。


「……もしかして、リグレット、さん?」


「あったりー!!」


 そう言ってまた頬をすり寄せ始めると、アントニーとミコトがリグレットをフェイトから強引に外そうとする。


「あん? レディに気安く触れないでくれる?」


 アントニーとミコトににらみを効かせてリグレットが言うと、2人は、「きゅるるる……」と完敗の声を上げる。


 そんな様子を見ていたライトレットが、あきれ気味に微笑んでいた。


「相思相愛!? えへへ、フェイト大好き!!」


 ギュッと抱きしめるリグレットを見て、にらまれた男性2人はきゅるきゅる言って悔しそうに、はたまた羨ましそうに見つめた。


「……けれど、あのですね、えーっと……何て言いますか、ここまではというか。ちょっとだけ小さいリグレットが恋しくなってきたと言いますか」


 若干顔を青くさせ、フェイトは糸目になって言った。


「そうか……うん、分かった。これは契約の力を発動させてる時しか出来ないんだもんね。私、寂しくなるけど、戻るよ。で、でも! 話したいって思ったら、すぐに契約発動してね!!」


 フェイトは青ざめた顔のままで、力無く肯定すると、契約の力を解いた。


 リグレットをこの一瞬で嫌いになった訳ではないが、想像していた仲の良さと若干ニュアンスが違った。フェイトのショックは大きい。


「重要部位に、契約したんでしょう。あの様子だと、口なのかなぁ?」


 アントニーが怒りで血管の浮き出る顔をフェイトに向けた。


「いや、されたの間違いかな……」


「あのメス(じゅう)……次変わったらフルボッコにしてやる」


「オイオイ物騒な……」


 ミコトの不穏な発言に、フェイトがつっこんだ。


「まぁでも、リグレットさんのおかげで皆さんなんか元気出たみたいじゃないですか。ねっ?」


 ライトレットの言葉を聞いて、フェイトが成程と納得した。もしかしたら、あの時契約をし直してくれたのは、彼女なりの計らいだったのかもしれない。そう思うと、先程までのリグレットへの恐怖がだいぶ晴れ、リグレットへの好感度が元の状態まで近づいていった。


「1度契約してても契約し直せるんだ……知らなかったよ」


 アントニーは頬をふくらませてフェイトをにらむ。その表情は可愛らしくもあるのだが、申し訳なさが上回り、フェイトは苦笑いする。


「その契約部位より重要になる場合のみなんだけどね」


「じゃあ俺も」


「あの……あんまりそんな立て続けに契約されるのは」


「そ、そうだぜ。お前オリジナリティ欲しいんだろ!? オリジナリティ俺様も大事だと思うぜ!!」


 必死すぎるミコトと、困り気味のフェイトが目に良く入る。アントニーはふくらました頬を人差し指で潰すと、「はいはい」と溜息混じりに答えた。


 安堵するミコトの様子が(しゃく)(さわ)るが、わざわざ下僕契約で口にする必要は無いと冷静に考える。婚儀の際に最終的にはキスをするのだから、別に早まる必要はない。


 あくまでも、アントニーは常にプラス思考であった。


 そこまで考えると、さっきカイルがキスをしたことに傷ついていた自分に馬鹿らしさを感じる。ここまで行くと、アントニーは悟りを開けそうな気がしてきていた。


「……将来お坊さんになれるかな」


「なるのか? じゃあ頭ツルツルだな」


「止めとくわ」


 アントニーとミコトの無意味な会話も終わる頃、フェイトとライトレットはギルドカウンターに仲良く2人並んでいた。


「セドナですが、連れて行きますか? それとも施設へと」


 すると、セドナがフェイトにしがみつき、ふるふると首を振る。フェイトを見上げると、訴えかけるような瞳をした。


「……あの、こちらに今日1日だけでも住まわせていただくことは出来ないでしょうか?」


 フェイトの言葉に、ギルド店員も、男性陣も、セドナも驚きの表情でフェイトを見た。


「私……どうしても、あなたのお父さんが、あなたを探しにここへ来るような気がしてならないの。お父さんが、あなたを心配しているのなら。だから、1日だけここで待っていて欲しい。お父さんが来なかったら、私達と一緒に旅をしましょう」


 セドナが涙目になりながら、フェイトにうなずくと、カウンターに移動して頭を下げた。


「分かりました。彼女をお預かりいたします」


「よろしくお願いします」


 フェイトが深く頭を下げて外へと出て行く姿を、セドナは寂しそうに見つめる。


「……セドナ」


 セドナを呼ぶ声にセドナが振り向くと、先程のギルド店員が、魔法を解き、元の姿を現した。


「……お父さん……!?」


 姿こそ人間そのものであったもの、水色の髪と瞳が物語っている。 振り向いたセドナの瞳に映った憎く、懐かしい顔は、まさにセドナの父親であった。


「……すまなかった」


 父親は頭を下げる。顔を上げると、事情を話し始めた。


「お前を救ってくれる心優しい誰かの手によって、いつかここに来るだろうと思って、ずっと待っていた。そして、その心優しい誰かの元でお前が幸せに過ごせていけたのなら。それを見届けられれば私は十分だった」


「お父さん……」


「それだと言うのに、まさか、せっかく身を削って倒したお前を、こんな父親に渡そうとは」


 男は苦笑いしていたが、ゆっくりとセドナの方へ目を向けた。


「……私でも、良いのか?」


挿絵(By みてみん)


 父親の情け無い質問に、セドナは口を開かない。 代わりに、その小さな体で父親の胸へと飛び込んでいった。


(21:下僕契約とレプティリアン(前編)了)

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