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19:溺死の女神セドナ(前編)

 カイルが眠りについて十数分後。道中に魔物に出くわしながらも、ギルド討伐リストには入っていないことから、フェイト達はあえて無駄な戦いはさけてきた。


 狩りや自らの腕鳴らしのため、偶然襲ってきた魔物を殺してしまうのはこの世界ではよくあることだ。むしろ、殺生を人生で1度もしない旅人の方が希少だろう。フェイトは師匠から殺生はなるべくしないようにと言われており、何より本人自身も殺生をすることが嫌だった。


 なので、どれ程他人から見て無様でも、魔物に出会うと逃げ回り、追い払い、場合によっては餌を投げた隙に走ってその場を去った。だからこそ、他の者に比べて道草を食うことが多かった。


「お前、その性格だと早死するぜ?」


 口を尖らせ、フェイトはミコトにどう返せばいいのか困った表情で見た。


 そんなフェイトの後ろから太い腕が現れたかと思えば、その腕はフェイトのあごにそえられ、そのままミコトの方を向いていた顔が前に持っていかれる。


「うふっ、じゃあフェイトちゃんが歩かなければ良い話でしょ?」


 あごを持ち上げていた手を離し、アントニーはフェイトの前に回ると、ニコリと微笑んでフェイトをお姫様抱っこして持ち上げた。


「一件落着、小銭の巾着!!」


「は? 何言ってんだお前」


「皆さん、財布の紐はゆるめちゃいけませんよ」


 手で銃をつくり、それをミコトのいる反対方向に向け、「バキューン」と言うと、その腕を上に挙げてみせた。見せかけの銃を撃ったのは林の奥。


 その林の奥から現れたのは、ゴロツキ達であった。


「……テメェ等、財布の紐はきっちりむすんだか?」


 突然のゴロツキの登場。フェイトは唐突な展開に苦笑いした。


「こっちのセリフじゃボケっ!  ……いや、むすばなくてもいいけどな!!」


 ゴロツキ達が果敢にアントニーに飛び交うが、足を軽く浮かせて宙に円を描くと、スピード強化及び空中移動の可能な”かぜのいた”が発動され、アントニーは瞬時に後ろに下がった。


 アントニー1人をほとんどのゴロツキが狙ったので、ゴロツキ達は重ね重ねに積まれてしまった。数人のゴロツキは、重なった仲間をどうにかさせようと仲間の元に寄ったり、どうしたら良いか分からず狼狽える者のみだった。


 この時点では、フェイト達への敵意は重なっている人間以外は無さそうだ。


「んだよ。俺様達が出る幕も無く弱かったじゃねーか。行こうぜ」


「って言うか、俺が飛べばフェイトちゃんも俺も汚れないね! 何でそんな単純なことに気づかなかったんだろう!!」


「あ、あの……」


 困惑するフェイトをよそに、男性陣3人は顔を見合わせると、皆うなずいた。


「ずらかるぞ!!」


 アントニーの掛け声で、3人は急いでコモード村へと一目散に逃げ出した。


 ・ ・ ・


 コモード村に着いた時には、ミコトとライトレットは肩で息をしていた。


 対するアントニーは、涼しい顔をしながらハーモニカを吹く。いつの間に!? と言う皆の表情もスルーして。


「フェイトちゃん、どうだった? 俺のラブソング!!」


「あまりの不協和音にめまいがしました……」


 アントニーは目を点にして、口をバッテンにさせると、数分硬直した。


 硬直した体がゆっくりと動き出したかと思えば、アントニーは心変わりをした。


「リサイクルショップに売って来る!!」


「ええええっ!!?」


「オークションの方が良いんじゃね? 女子高生が吹きましたって書いといてよ」


「学生のロマンですよね……!」


 ミコトの発言に、ライトレットがなぜか嬉しそうに言った。


「こらこら。嘘はいけないよ諸君。まぁ、間を取ってネットショップでサクッと売っとくか。それはそうと、ホテルへ行こうフェイトちゃん」


 アントニーはあごに手をそえてキメ顔を言葉通りに決める。そしてフェイトの方を見ると同時にフェイトに猛烈な蹴りをお見舞いされ、丁度宿屋の目の前へと飛ばされた。


「男女分けの2人分の部屋、さっさと予約して下さい。宿屋でね」


 足で飛ばしたというのに、フェイトはなぜか両手をパンパンと叩いて振るっていた。そんなフェイトの真後ろからぼそりと聞こえてくるのは、「羨ましいなぁ……」と言うヘタレな声だ。


「よし、私達も行こうかミコト君」


「現実逃避すんなよ? ライトレ……」


「吾輩はトイレットもタブレットも知らないのだぞよ」


 フェイトは謎の一言をミコトに言い残し、まだ起き上がらないアントニーの横腹を蹴り転がして強引に道を開けると、宿屋の中へと入っていった。


 ・ ・ ・


 外観の様子だと、宿屋は小さく、せいぜい3階までしか無さそうだ。これでは2部屋分も空いていない確率もある。フェイトはその際どこで野宿をしようかまで考えていた。


「あの、こちらに泊まりたいのですが、空いていますか?」


「ええ空いております。お名前を」


 村娘が紙とペンを差し出したその時、上の階から男性の泊り客が駆け下りてくると、何やら言葉も発せられない程に、慌てている様子だった。


 村娘が困ったように男性を見ていたが、男性は階段を指差している。


 フェイトが、村娘に両手の平を見せてうなずくと、2階へと駆け上がっていく。


 駆け上がることに必死だったフェイトの視界には入らかなったが、フェイトが階段を駆け登った靴裏には、水が何度も跳ね落ちていた。階段を駆け上がるとやっと気づいた。


 廊下一面に溢れ、階段に流れる水の存在に。


 しかし、水がどこから流れているのか分からない。フェイトは1つひとつの扉の隙間に目を向けた。


 やがて、1つの扉の隙間からやけに水がこぼれているのに気づく。


 扉を蹴り壊そうと考えてみたが、そうすると恐らく水が一気に放出され、宿屋が大変なことになってしまうだろう。だからと言って窓を壊せば、水どころか破片が飛び出すはずだ。万が一村人に当たっては一大事である。


 フェイトは水の圧力でビクビクと震える扉に耳を当てた。ごぽごぽと言う水の音の奥に、なぜか男性のいびきが聞こえる。


「……水の中で、寝てるの?」


 フェイトはまさかと苦笑いする。おもむろにリグレットがフェイトの肩から腕へと移動してきた。やっとのことでカバンにたどり着き、カバンから契約リストを取り出してフェイトの腕にパシッと当てる。


 フェイトが紙を見ると、「あ~あ」と納得した。


「ドリ、契約者フェイトを守るため、その力いざ開かん!」


 フェイトは部屋の前で叫んだ。が、叫んだ後ですぐに気づく。


「でもこれ、私も寝ないと意味ないよね?」


 フェイトの質問に、リグレットはこくこくと頷いた。足元が水たまりの場所で寝れるだろうかとフェイトは首をひねったが、仕方ないので部屋の扉の前に寄りかかって座り、目をつぶってみた。


 すぐにとはいかなかったが、トカイのホテルに止まっても十分な睡眠を取れず、クラブの時からずっと動き詰めだったため、フェイトが夢の世界に入るのは容易(ようい)なことであった。


(19:溺死の女神セドナ(前編)了)

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