18:研究者カイル(後編)
1人外へ出て行くと、心地よい風がカイルの髪を揺らした。
「……だが、意外だったな。あの小娘が彼女の代わりに身を捧げようなんつったのは」
ノートパソコンを開き、フェイトのその場面を何度も見直す。
パソコン上では肉体無き彼女は映らない。当たり前の話ではあるが、それでも何度も見返していた。フェイトの弱りきった姿を。
今度は口を閉じた状態で、呆れ声を鼻から出してパソコンを閉じた。
この前も、本来は放っておけば良かったものをつい手を出してしまったせいで、アントニーに目を付けられてしまった。
涙もろいは、なの字も持ち合わせない程だが、カイルは情深かった。ドッキリ村を血の海にしろと言われた時の不快感はとてつもなく大きく、その危機から救ってくれたフェイト一行への感謝もとてつもなく大きかった。
それはミサの時もである。母子の危険を偶然だとしても、見てしまったからには、放っておくことなど出来やしなかった。運ぶ際は2人の安静のみを考えていて、なるべく人体に負担にならない程の安静魔法をかけ、すぐさまトカイの病院へと連れて行った。フェイトやベンには彼女の場所は知ってもらうべきだろう。そう思ってフェイト達の元に現れたはいいが、傷を回復したのはいささかかやりすぎだったらしい。
首をごきごきと鳴らしながら歩く。もういっそこの首の違和感も魔法で治せば良いのではと言う考えが浮かぶかもしれないが、彼は軍隊達への密かな反抗の意も込め、自らの体を実験台にし、膨大な魔力を自身の体内に含ませてしまった為、自身の魔法で傷を回復するのは自然治癒と言う形しか出来無い。
その代わり、魔法発動をしても魔力を相手に感じさせず、自然治癒のスピードもとても早いと言う利点がある。自身でも、化物の様な体を持ってしまったものだと己の行為にほとほと呆れた。
だが、これで間違ってなかったとも感じていた。好きでなったわけでは無いものの、こうして自分は生き物を改造する立場になってしまった。
レークだって、大勢の軍隊共の言葉に逆らえらえない自分の手で、体を改造しているのだ。それでいて、自分は生身の人間だなんて。その方が理不尽だろう。
「もうそろそろ変わらないといけないか」
重たそうなまぶたを必死に上げ、目の前の村を見た。カイルがやって来たのはフェイト一行の向かうコモード村だ。
カイルはどうしてもこの目で確かめたかった。フェイトの瞳に映った彼女が、本当にサチなのかを。
しかしもう夕暮れ時である。ディスプレイを見れば、フェイト達は道行く小さな魔物から逃げたり、追い払ったりするので随分と道草を食ってしまったらしく、今日はひとまずこの村の宿屋に着いたら一休みするらしい。それならば好都合と、カイルは一足先に宿屋に泊まった。
「そう言えば、ここ最近シャワーばっかで風呂入ってなかったな」
あくまでも清潔主義の彼は、部屋に入るとすぐにお湯を溜めた。そこでしまったと頭を押さえる。
「入浴剤忘れたわーマジダルい。ってか入浴剤が来いよ。いっつも愛用してやってんだから。来い、俺のひのき湯入浴剤」
眠気を抑えようと何とか独り言で誤魔化してみるものの、とろんと今にも閉じそうな重たいまぶたで見つめた先はベッドだ。目の前にある睡魔と言う名の欲に駆り立てられ、お湯を出す勢いを小さくした。
その後、ベッドの方へと歩み寄り、そのまま寝転がるとすぐに目を閉じてしまった。ちなみに、彼がしっかりと床に着いて眠ったのは1週間以来である。
水は少量ながらも、着々とたまっていく。水かさと睡魔の勝負は、徐々に水かさが追い上げていった。
(18:研究者カイル(後編)了)




