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16:セカイの華世界(後編)

 この話には以下のキャラクターが出てきます。


ソレイユ

挿絵(By みてみん)

 ソレイユの提案により、ライトレットとミコトは言葉を一時的に魔法で声を変えてお客様の話し相手になった。アントニーは結局フェイトと同じような服を着せられた後、フェイトと共にソレイユに別の場所へと連れて来られていた。


「聞いたところ、アンタ等今ギルドやっとるんやって?」


「は、はい……」


「理由は詳しく聞くつもり無いから安心しぃ。こちとら他人の事情にズケズケ干渉するつもりはあらへん」


「んで、早速丁度ええわ。最近、ウチの大風呂になんや変な歌声が聞こえるって言うらしいんよ。コレってなんかの化物とちゃうかな?」


 フェイトはカバンの中からギルドリストを取り出すと、ソレイユが、「ちゃうちゃう」とフェイトに手を振った。


「歌声がただ聞こえるだけで、実際に見えるワケでもあらへん。せやから、ウチ等はあくまで依頼はしとらんけど、みんな風呂に入るたびに女の歌声が聞こえるって言うて、風呂に入らななるもんやから……」


「姉さんは聞こえないの?」


「聞こえるけど、そんな気にするほどの声でも無いと思うんよ。てか、なんや寂しそうでなぁ。救って欲しいんや」


「目に見えないけど声が聞こえるんですか……」

 

 フェイトは討伐リストの紙束をしまい、契約能力一覧の紙を見通す。


「あ。いけるかもしれません。イアカットプリーストさんの力がありますから」


「え? 俺の前に契約したお坊さん? その人ここにいなくない?」


「はい。イアカットプリーストさんは、以前アントニーさんと出会う前に契約した亡霊で、現在は成仏していらっしゃるので。そういう場合は、契約は契約者が破棄しなければ能力は契約者に受け継がれます。それと……これも」


 フェイトは、イアカットプリーストと契約した際に、イアカットプリーストが残していったゴーグルとヘッドフォンを取り出した。


「これで、音をこのゴーグルに文字や記号となって表示してくれるらしいんです」


「何かむつかしそうだねぇ~」


「説明書が面倒やったら、とりあえずやってみるが吉や。一応、フェイトちゃんとお前が入った後に、敵が逃げられない様に結界が発動する様にはこっちでしておいたから。思う存分働いといて。ウチはみんなの様子見てくるわ」


 のんきに去っていくソレイユに、フェイトは深く頭を下げて礼を言った。残された二人が目を見合わせて頷くと、急いで風呂場へと向かった。


 風呂場の正面扉には立ち入り禁止の張り紙が丁寧に六枚ある引き戸全てに1枚ずつ貼り付けられていた。フェイトが扉を開けて、一応更衣室や女性風呂に人が居ない事を確認すると、アントニーに向けて手招きする。 


 他の人間に見つからない内に急いで閉め、即座に風呂場の扉に手をかける。


 2人が風呂場に入ると扉に至らず、窓や排水口までも、穴という穴を全て封じ込んだ薄ピンクの光の膜が現れた。恐らくこれがソレイユの言っていた結界なのだろう。


「あなたの運命、今変えてみせましょう」


 フェイトは表情を引き締めると、「イアカットプリースト、契約者フェイトを守る為、その力、いざ開かん」と発した後、ゴーグルとイヤフォンを付けて目を凝らす。声が聞こえてきた瞬間、フェイトのゴーグルにその声からデータ化した女性らしきシルエットが現れた。


 ソレイユの話を聞いた時点では、相手はあくまで言葉を投げかけるだけで、こちらに攻撃を仕掛ける確率は低いだろう。帯に刀を差してはいるものの、フェイトは手に取る気は無い。


 その様子を見て、アントニーも両腕を組んでフェイトの視線の先を探って適当な空間を見つめる。


 シルエットが徐々に色を帯びると、電子的な色合いであるものの、女性に色が付き、金髪の美しい女性の顔が見えてきた。見た目は前髪を左右に分けており、肩まで付かない程の金髪だ。


「あなたは誰?」


 フェイトが女性に尋ねるが、女性はフェイトの質問は無視して彼女はただただ美しい声で歌を歌う。声を聞けば聞くほど、どこかで聞いたことがあるような感覚を覚える。ぼそぼそとした歌声を、今度は必死に聞き取った。


 いつ、誰の声だったかを考えていると、フェイトの記憶力より先に、ゴーグル状に詳細な情報が現れた。


「……あなた、あの時歌っていた!」


 ゴーグルに文字となって映し出された情報には、女性に矢印を指し、イアカットプリーストの鼓膜に響かせる美しい歌姫シルフィードと映し出されていた。


「シルフィード!!」


 フェイトに名前を呼ばれたことから、シルフィードがハッとしてフェイトの方を見た。怯えだしたシルフィードが大口を開けると、ゴーグルに円状の超音波のような物が映し出され、こちらに向かって徐々に輪が広がっていく。


「くっ……!」


 即座にフェイトは声の方を見た。アントニーが両耳を押さえて苦しそうに頭を振っている。自分には彼女の声を聞いても普通の女性の叫び声にしか聞こえないのは、契約によって連動するこの道具が影響しているのだろう。


 そんなフェイトに対し、アントニーは生身の状態で、視界に相手の姿も映らない。なるべく温厚に解決したかったフェイトだが、アントニーがこれ以上苦しむ姿も見たくない。フェイトは刀を抜いてシルフィードの元へと向かった。


 シルフィードはフェイトに攻撃が効かないと気付かずに、フェイトが近づけば近づく程、叫び声を上げていく。


 フェイトのヘッドフォンには音声調節機能が自動的に働くため、叫べば叫ぶ程、体力を無駄に消耗するだけだ。彼女を本気で恐れたシルフィードが、頭を抱えて悲鳴にも似た歌を唄い、フェイトから逃げ惑い始めてしまう。


挿絵(By みてみん)


「うっ」


 鈍い声が聞こえてきたと思うと、アントニーがその場に倒れ、両耳から血を流し始めてしまった。


 駄目だ、このままではアントニーが死んでしまう。そう思うと、フェイトは目玉の行き所を見失ってしまいそうになる。


 だが、シルフィードの動きは素早く、精神も不安定だ。彼女の歌を止めることは出来無い。


「やめて! 貴方の美しい声で、これ以上人を傷つけたりしないで!!」


 フェイトの叫び声は、広い風呂場に幾つも反響する。シルフィードは、フェイトの言葉を聞くと動きをピタッと止め、辺りを見渡した。視界に入ったのはシルフィードの歌によって両耳から血を流し、気を失っているアントニーだ。


 ゴーグルには、“ターゲット行動及び思考停止。Hit chance!!(ヒットチャンス!!)と、文字にして映し出されていた。


 だが、彼女はただフェイトに怯えて逃げていただけ。フェイトが彼女に刀を向ける道理は無いと、フェイトは静かに刀をしまった。その代わり、必死の思いでシルフィードに語りかける。


「お願い! あなたの声はそんな風に人を怖がらせるためにあるはず無いわ。だから、だから……」


 フェイトは1度俯き、両手拳を強く握る。やがて、バッと顔を上げると、シルフィードに叫んだ。


「歌って! あなたの美しい声で、今度は人を癒すために!!」


 フェイトの言葉に、シルフィードがビクッと震えた。


「……私は」


 初めて悲鳴や歌以外の言葉を発したシルフィードにフェイトが少し驚いたものの、真剣な表情になって頷いた。


「私は、何を歌えばいいのか分からない……。昔は私の歌を聞いてみんな笑ってくれていたのに、今はみんな、私の歌を聴いても怯える人ばかり。ここの人だってそう」


「そんなこと無い! だって、あなた前にも私達のいる時に歌ってくれたでしょう!? その時の歌声は、私はとても素敵だと感じたの。姿が見えなかったけれど、その姿を見たいって思っていた」


 フェイトはゆっくりとシルフィードに近づいていき、ガクガクと震えるシルフィードを優しく抱きしめて包み込んだ。


「だから、今こうしてあなたを見ることが出来て、私は、とても嬉しい。なのに……」


 フェイトは、アントニーの方を見つめた。


「私は、どんな風に歌えば良いの……?」


 フェイトから離れ、シルフィードは俯いて悲しそうに言った。


 すると、フェイトのヘッドフォンに、以前女性が歌った曲が流れ出し、ゴーグルには、画面いっぱいいっぱいの大文字で“sing!!”と映し出されている。


挿絵(By みてみん)


 文字に従い、フェイトは少し気恥かしそうに歌い始めた。不器用ながらも可愛らしい声でたどたどしく。


 シルフィードは驚いて目を見開いていたが、くすりと微笑むと、フェイトにつられて歌を歌い始めた。


 2人の周りに淡く、白い光が現れると、その光がたちまちクラブの建物を(おお)いつくす。建物を覆った光から流れ出す美しい歌声と、その歌声について行く必死な歌声に、建物の外にいた人々も感動を覚え、皆建物の中へと入っていく。結界も光によって砕け散って消えた。直後、風呂場に男女構わず入っていった。癒しを誘う美しい歌声が、アントニーの貫かれた鼓膜すら治し、アントニーが起き上がった。


 驚くことに、見えるのだ。


 見えるはずのないシルフィードが、フェイトの正面に立って楽しそうに声高らかに歌うその幸せそうな姿が。


「ふふっ」


 そんな2人に思わず吹き出し、2人の下へと行くと、アントニーも声合わせて綺麗なテノールを響かせる。


 ミコトやライトレットも、徐々に増えていく声の数々を探ろうと、風呂場の方へと向かった。人混みを掻き分けて向かえば、そこでは多くの人間が、その歌を歌っていた。


「なんじゃこりゃ……」


 驚いた後、ミコトは顔を引きつらせる。一方、ライトレットは微笑みをこぼすと、フェイトの隣へと向かい、合唱団の一員へと加わった。


「あはっ、なんやあの人とっても楽しそうやんなぁ。やっぱりフェイトちゃん凄いわ~なぁ?」


 いつの間にか傍観者の1人となっていたソレイユが、ミコトに笑顔で問いかける。呆れながらも、フェイトから視線をそらせずにいたミコトは、「へ?」とソレイユに返す。


「もっと歌う人が増えたら、あの人もっと楽しなると思うでぇ?」


  焦らすようなソレイユの言葉にミコトが口を尖らせて睨みつけたが、やがて吹っ切れたように大きく溜息を吐く。


「しゃあねぇ!!」


 ミコトはソレイユの手首を握り、フェイト達の輪の中へと入っていった。


(16:セカイの華世界(後編)了)

音の精霊シルフィード


挿絵(By みてみん)

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