15:セカイの華世界(後編)
女性からの指示により、ホテルから、大きなビルの屋上へと場所を変えたフェイト一行。物珍しそうに見ていたフェイトだったが、女性の話を聞いて驚く。
「トカイのクラブの方なんですか!?」
「そうやで」
平然とした様子でアントニーの姉、ソレイユは答えた。
クラブとは、女性が男性を言葉や料理などでもてなし、癒す場所。セカイ中の女性が憧れる華世界である。
だが同時に、一度入ると顔がセカイ中に知られてしまい、芸能人同様なかなかそのままの姿では外を出歩きづらくなる職業でもある。アントニー同様に美しい見た目をした彼女には相応しい職業であり、その美しさと対極的な気さくさが男女問わず慕われているため、トカイの王女と並ぶ程の信頼を寄せられ、クラブ内での階級も頂点にある。……と、姉に媚を売るかのようにアントニーが説明する。
だが、それはある意味森から出られなかったアントニーと同じ様な境遇とも言える。
更に、ソレイユは異性と口づけなどをすることまで、許されない。彼女はアントニー以上に不憫とも言える。
「で、さっき言ってた結界はアンタが?」
兵士達に囲まれた時はほとんど喋らなかったミコトが、ソレイユをアンタ呼ばわりする。フェイトがミコトの頭を軽く叩くが、ソレイユは、「ええよええよ」と寛容に微笑む。
「実際事実やしな。あんなフェイトちゃん、コイツは」
「言わないで、他の奴には言っていいけどフェイトちゃんには!」
「いいやいかん! お前はその内化けの皮がはがれてこのフェイトちゃんにまで手を出すのが見えみえなんや、フェイトちゃん!!」
止めようとするアントニーをミコトとライトレットが目を光らせて止める。醜い男を蹴落とそうとする2人の醜い男によって、3人の男が醜い争いを繰り広げる。
「アントニーは、クラブの子のスカートを何度もめくってるんやで」
「……は?」
フェイトが想像していたものとは少し質が違ったらしく、フェイトはふぬけた表情をソレイユに見せた。
ソレイユもフェイトの反応が想像していたものとは違ったようで、フェイトの胸倉を掴んでブンブンと振り、「しっかりしぃや!!」と闘魂注入のビンタを1発入れた。
「ちょ、ちょっと姉さん! フェイトちゃんいじめないで!!」
「ウチの子達をいじめまくってたお前が言うなや!!」
ソレイユの半ギレの返しにアントニーは、「きぃ……」と鳴くと、しゅんと小さくなる。
「ウチにとってはな、どんなに階級が下であろうと、クラブの子は皆ウチの子同然なんや。そもそも、純潔な少女がスカートめくられたら普通に傷つくやろ! そうやんな、なぁ!?」
ソレイユの勢いに圧され、フェイトはただ無言でうなずいた。
「ほれ見ろ!!」
「うなずかせてた気がするんだけど……お言葉ですがお姉様。だからって俺をあんな長いこと封じなくても……」
ふてくされた顔でソレイユに反論するアントニー。スカートをめくること自体は確かにフェイトもいけないと感じるが、そんなもの思春期の男子ならよくやることじゃないかと、当然のように偏見を浮かべる。その行為だけで数十年もあの森へ閉じ込め、尻尾まで切ってしまうとは。フェイトにしてみればそんなソレイユの行動の方が恐ろしくてならなかった。
「ホンマにそう思うとるんか?」
ソレイユがやけに冷静になると、赤い瞳がもう1つの赤い瞳を捕らえた。
「うん」
「数年で出してみぃ。お前はきっといつまでも変わらず適当に過ごしてたに違いない。お前を本気で出そうとしてくれる良い人でもおれば、お前はきっと少しは変わるに違いない」
ソレイユはそう言うと、チラリとフェイトの方を見て、すぐさまアントニーに視線を移した。
「そして今、お前はここにおる。こんな多くの仲間に囲まれてな」
「……姉さん」
アントニーは感動していたが、「うん?」と途中で眉をひそめた。
「ねぇ、それと俺の尻尾切ったのって関係無くない?」
「関係無いな」
即答されたことでアントニーがズッコケた。
「そもそも、お前の尻尾が切られていたことも知らへんし。……第一、同じ半々獣の、それもお前と血の繋がっているウチが、お前にそんな非情な事するわけ無いやろ」
「じゃあ誰が!?」
「知らん」
2度目の即答に、アントニーがもう1度ズッコケた。今度は倒れるだけでなく、倒れた後に片足を少し浮かせてピクピクさせる念の入れようだ。
「そんで、話を君の方へと戻すけど」
「警備の人が、アントニーらしき男を見たっちゅうから、ウチはお前が本物か確認する為に、1人でこの格好であのホテルへと入った。内緒でな? その時、偶然ウチをお気に入りにして下さっとる人と出会って。その人にちょっと話そうと連れてかれて、体を狙われそうになったん」
「まーなるほどな。で、その時ちょーど俺様の素晴らしいシュートがアンタ等の窓に当たって、アンタはちょーどいた兵隊に救ってもらった」
「うん。ちょっとせっかちな説明やけど、大体そんな感じやな」
得意げにうんうんとうなずくミコトに、ソレイユは真顔で続ける。
「それは感謝するけど、結局のところ窓を割ったのはお前さん達やろ」
ソレイユの言葉に、フェイト達が冷や汗を流す。得意げだったミコトが、表情を見せまいと、ゆっくりと頭を垂れる。
「窓を割っておいて、逃げようとしたのはこっちとしても見過ごせんわな。こちとら金を払う気は無いんや。たんとここで働いてもらわな」
「すみませんソレイユさん! あの、私にはそのようなこと出来る顔も胸も」
フェイトが土下座すると、そのフェイトの頭の前で、ソレイユが手の平を1つ向けた。
「割ったのはお前さんだったよな? ミコト君」
「は……?」
ミコトは嫌な予感をゾクゾクと全身で感じた。ミコトは1歩いっぽ、後ろへ下がると、立ち上がったアントニーがミコトを後ろから捕まえた。
「俺の過去の汚名を返上するためにも、行くんだ。男だろ?」
「男はそんな華のある仕事なんていらないぜ……?」
首をふるふると横に振って抵抗するが、未だ土下座を続けるフェイトを見ると、強く断ることも出来なかった。
「大丈夫や。正直言ってお前さん、フェイトちゃんより可愛いで?」
土下座をしていたフェイトが、正直すぎるソレイユの言葉に、思わず宙に少し浮かべていた頭を、力無くゴツンと鈍い音を立てて地面にぶつけた。
「……分かった。お前が1人でやることが怖いってんなら、俺も手伝う。なぁ、ライトレット?」
「お、俺も!?」
「むさいどころはいらへ」
ソレイユの言葉も聞かずに、アントニーがライトレットを強引に連れてくると、男3人で陣を組み、何やらかけ声を上げ始めてしまった為、ソレイユはもう何も言うまいと開きかけた口を閉じた。
(15:セカイの華世界(後編)了)




