15:セカイの華世界(前編)
「何が良かれと思ってだ。ああ言うタイプのクソガキは1度言って言うこと聞くタイプじゃねーだろ! コイツアイツに続けざまで2回もぶっ倒されてん
じゃんか。お・ま・え・の・せ・い・で!!」
ミコトの契約の力がまだ発動していることで、アントニーは珍しくライトレットにすり寄って泣きついてしまった。
ミコトの能力は人の心の記憶を見たり、心に干渉することだ。ただし、この力には相手や自身の心を痛める副作用がある。メリットよりデメリットの強い能力だ。
「何泣いてんだ。大の大人が情け無い」
追い討ちをかけるような言葉の匠。ミコトの言葉に、アントニーがその場に崩れ落ちて泣き出す始末。誰も望まないビフォーとアフター。普段はアントニーもこんなことぐらいで泣きはしないのだが、やはりミコトは原因が自分であることに気づかない。
きぃきぃと兎のように泣きつくアントニーに、同情したライトレットとリグレットが、なぐさめるようにアントニーを撫でた。
「……ミコト、君?」
「……起きる時の顔、4割だったぞ。ブス加減」
魔法の衝撃から起きてすぐのミコトの一言に、フェイトはミコトから離れてライトレットの元へ行くと、アントニーに並んでわんわんと泣き出してしまった。今のミコトの一言は、きっと能力を発動していなかったとしても泣けるだろう。
「んだよ……」
ミコトはしかめっ面を見せつけたが、キドとサチの映像を思い出すと、更に表情をくもらせた。
「あれ? ミコトさんどうかしたんですか……?」
恐る恐る聴くライトレットに、「黙れドM」と、にらみを効かせて言うと、ライトレットはフェイトとアントニーを抱きしめ、陣を組んで泣き崩れる。
サチは既に死んでいる。フェイトにその事実を伝えるべきなのか、ミコトは冴えない頭で考える。
「いや、けど……」
今思えば、ミコトが見たのはあくまで紙1枚と、根拠のない伝聞だ。もしかすれば、サチがどこかで生きているのかもしれない。 ミコトはそんな現実逃避のような甘い考えを持ち合わせてみる。
途端に頭をかきむしって後悔する。なぜ、あそこで感情に任せてあの場所から去ってしまったのだろうと。あの先を見れば、嫌でもサチの死体を見ることが出来たのだ。
仮にサチが死んでしまっていたとして、それをフェイトに話してなど見れば、フェイトは一体どうなるだろう?
ギルドに所属して、多くの危険と隣り合わせの状況になってまで会いたかった彼女が死んでしまったと分かってしまえば、フェイトは立ち直れなくなってしまうかもしれない。そうなると、1番困ってしまうのはミコトだ。
行く当てもない。
頼れる人間もいない。
フェイトを失ってしまうのが怖い。
恐らく、アントニーやライトレット、そして魔獣であるリグレットも同じに違いない。しかし、彼等は素直に甘えられることが出来、恐らく全員本音を言うことが出来る。
自分は威張ってばかりで何も進展しない。フェイトが傷ついてしまうくらいなら、真実をずっと口にしない方が良いのかもしれない。
自分の弱さと醜さにミコトはやるせ無くなり、目の前にある石を強く蹴り飛ばしてしまった。そしてその場にしゃがみこんでもう1度頭をかきむしる。後ろのメンバーは皆泣き崩れているため、叫んだりでもしない限り、誰も自分のことなど気にもとめないだろう。 そんな甘い考えを前提として、3人の目の前で大胆な行動をする。
折角フェイトとの仲が少し近づいたと思って意気揚々としていたと言うのに、自分のメンタルは豆腐か? と自問自答するミコト。
契約の力が重要部位だからと言って、必ずしも使用者が強くなれる訳ではない。先程言った通り、ミコトの能力は特に心に大きく負担がかかる。たとえそれが、自分自身であっても。
がしゃん。頭を両手で押さえるミコトの耳に入ってきた窓ガラスの割れる効果音。直後聞こえて来たのは、多くの男性達の捕まえろと言う声。
「……やっべ」
即座にミコトが立ち上がると、同時に契約の効果が切れていつものミコトのに戻る。ミコトは泣き崩れる全員を急いで叩き起こそうとした。
「て、テメェ等ずらかるぞ!!」
盗人の様な言葉で3人を促すが、3人はゆっくりと涙を拭き、状況が理解出来無いと言いたげな表情でミコトを見る。
「馬鹿っ、早くしろって!」
「……あれ? さっきより怒られてもなんか辛くない」
「テメェ今まで随分と言いたい放題言ってくれたな! ただでさえ赤い俺の目が」
「知らん!!」
飛び跳ねてミコトがアントニーの口をつねると、フェイトをもう1度横抱きして驚くフェイト達を無視してホテルから逃げようとする。
だが、ミコトとフェイトの目の前にキドの心理の中で見た時と同じ様な格好をした兵士達が2人の目の前に立ちはだかった。
後ろを振り向けば、アントニーやライトレットの方にも多くの軍人が包囲し、ミコトやアントニー達はゆっくりと後ろへと下がり、ミコトとアントニーの背中が軽くぶつかる。
「どうすんの? 多分これお前のせいでしょ?」
「い、いや。俺様は悪くない」
「……まぁ良いや。この手の装備だけ重ねた奴等なら、俺達だけでも充分倒せると思うよ。殺っちゃう? 殺っちゃう?」
呟くようにミコトにたずねたアントニーの言葉を、フェイトは聞き逃さなかった。
「いけません! 私達が何をやらかしたのかよく分かりませんが、大人しく投降しましょう! 話し合えば、皆さんきっと分かってくれます!!」
フェイトはミコトから強引に降り、両手を上げた。フェイトがそうと決めれば、男性陣は否定など出来やしない。全員渋々両手をゆっくりと上げると、フェイトの肩に乗っかるリグレットも短い両手を上げた。
「お前等、一体何しとん? さっさと道を開きぃ」
兵隊の奥の方から聞こえて来た凛と響く声。兵隊はざわざわとしながらも、道を従順に開けていく。女性が自ら前に出ようとすると、上流階級らしき兵隊が女性を前に出すのをためらっていた。
「早く道を開けんか。せやないと、打ち首やで」
背の高い軍人達に囲まれていて女性の姿はフェイト達には見えなかったが、兵士達の背より華奢な手をその兵士の首元に当てると、道を開けた軍人達の中からやっとのことで姿を見せた。
ぱっつんの前髪に姫カットの横髪の平安美人の様な長い髪を、後ろでお団子に束ねた真っ赤な髪と瞳の綺麗な女性。兵士達を言葉1つで動かしていたため、階級の高い女性か、騎士の団長でも務めているのかとフェイト達は想像していた。フェイト達の予想と反し、格好は素材の柔らかそうで動きやすそうなジーパンに、硬派なジャケットを羽織い、中には薄緑色のキャミソールを来ているだけだ。 見た目のみではとても多くの軍人を動かせる位の人間とは判断できないだろう。その上、口調が何故か関西弁。フェイトは首を傾げた。
そんなフェイトの後ろにいるアントニーが、小さくしゃがんでフェイトのコートにしがみついている。
「さっき部屋に石入れたのって誰や?」
「石?」
事情を知らないフェイトは首を傾げたが、ミコトは視線をゆっくりと横の方へとそらした。
「お前さんか」
目の動きを捕らえた女性に驚き、ミコトは女性を2度見した。ミコトの失礼な対応も気にせず、女性はニコリと笑った。
「さっきはホンマに助かったわ、ありがとう!!」
想定外な言葉に、フェイト、ミコト、ライトレットの3人が、「え?」と言った。リグレットも合わせるかのように、「きゅ?」と鳴く。
「ちなみに君等、ウチが誰か知っとる?」
女性の質問に、フェイトはミコトやライトレットと顔を見合わせ、3人共首を横に振った。
「そっかぁ。まぁ、君等はまだ若いしな。……けど、お前さんは知っとるよな? お嬢ちゃんの後ろでちいちゃく丸まっとる貴様は」
ビクッとアントニーが震えているのが、フェイトには分かった。
アントニーは長らくあの森に閉じ込められていたはず。となると、彼女は彼の森の中へ入り、その後彼と出逢ったと言うのだろうか? フェイトは彼女の底知れぬ頑丈さに感心した。
「そら覚えてるに決まっとるよなぁ。……あの結界からどうやって出てきたん? ボケ兎」
その口調に疑問を覚える。フェイト達ですら入り口の結界の存在や彼が因幡ウサギであることには気づかなかったと言うのに、なぜ彼女が知っているのか。そしてアントニーのこの怯えよう。まさかとフェイトは女性の方を見た。
「あんたを出させまいと結界を張ったのに、優しい人達に助けてもらって良かったなぁ。姉さんは嬉しいでぇ。……アントニー」
「……ね、姉さん。姉さんには手出して無いんだからそろそろ許してくれても……」
フェイトのコートを伝って立ち上がり、フェイトの肩からアントニーが顔を覗かせた。
「えっと、お姉さん……?」
姉弟の間に挟まれ、フェイト達は気まずそうに女性の方を見た。
(15:セカイの華世界(前編)了)




