1:遺憾の魔獣リグレット(後編)
外へと出れば、ランプを持って、「どこだ?」と探す村人達の声が幾つも聞こえてくる。
「たぶん、ここから近くの祀りの祠にいると思います。この距離だと、そこくらいしか意外性のある逃げ場無いと思いますから」
「場所、案内していただけますか?」
「分かりました!」
口頭で青年に案内され、たどり着いたのは明かりがいくつも灯った洞窟だった。
「あ、君!」
洞窟の中でうずくまっていた少年を青年が発見すると、少年は青年とフェイトを睨みつけた。逃げ出そうとした少年の手首をフェイトが掴み、そのまま少年を持ち上げる。
「村の人には言わないから。どうして、女性のフリをしていたの?」
あいも変わらずのフェイトの対応に、少年が困った顔をし、口をすぼめた。
「お前、変なヤツだな」
「うん。たまに言われる。それより、事情を聞かせて?」
「俺も、祀られるのが嫌で逃げ出しましたから、気持ち良く分かります」
青年が、少年の思いを感じ取り、優しく言ったのだが。少年はケロッとした表情で青年を見る。
「つかお前誰?」
がくんと肩を落とした青年だったが、「そりゃそうですよね」と苦笑いで返した。改めて笑みを作り直し、青年は自己紹介を始めた。
「はじめまして、ライトレットです。あなたと同じ村で、俺が祀り子で選ばれるんじゃないかって村人達から言われていまして。それで、今日村からこっそりと逃げ出した時、追ってくる村人達から俺を救ってくれたのが彼女です」
「え、あれって村人さんだったんですか!? 申し訳無い……けれど、どうして祀り子と言うだけでそんな?」
「この村では、10年に一度、魔物が動き出すんです。ですから、魔物に1人、男の祀り子を捧げます。それはすなわち、祀り子に魔法陣を描いた服を着せ、祀り子を魔物に食べさせてその間に封じるのです」
フェイトは顔をしかめる。祀る子だと言うのに、方法はとても残虐で、神々しさがまるで無いと。
「ソレは表向きの話だぞライト」
少年の訂正に、ライトレットは、「え?」とマヌケな顔をする。
「毎年神が選ぶとか村人は言ってたが、俺様は親父から聞いた。村人は気に食わない男を毎年神が選んだとかって理由にさせてるって」
「嘘!?」
少年は嘘じゃないと言う代わりに、首をゆっくりと横に振る。
「村長と、村長にゴマをすってる奴等の会話を親父が偶然聞いちまったらしい。だから、親父は殺された。この村のヤツ等に。そんで、親父は自分の不器用な性格が子供にも遺伝してるんじゃないかって、生まれてすぐ性転換の魔法をかけて、俺様にその事情を小さい頃から何度も言っていた」
「なのにどうしてあの時、魔法を解いてしまったの?」
「好きで解いたんじゃない。あの魔法は、バレてしまうとそれから10分後に解けちまうんだ」
「そうだったんだ……」
「俺、結構嫌われてたんですね」
事実を知ったライトレットは「はぁ」と、涙目になってその場にしゃがんでしまった。「まぁ、お前を狙ったのは俺様をだますためだと思うけどな」と、フォローする少年の言葉もライトレットの耳には入ってこない。
「ちなみに、その魔物って何て言う名前なの?」
「リグレットって言う強そうなヤツだよ」
その名称を聞き、フェイトが「おっ?」と口角を上げて持ち上げていた少年を地べたに置くと、腰にかけているカバンから紙を取り出してパラパラと捲り始めた。少年が立ち上がり、フェイトの隣に立って紙を見ると、驚いた表情でフェイトの顔を見た。
「お前まさか……」
笑顔でフェイトが両手に拳を作って闘士を燃やした。しゃがんで土を指先でいじっていたライトレットも思わず立ち上がり、「え?」と声をもらした。
「それじゃあ2人共待ってて、行ってくる!!」
少年が止める間も無く、フェイトは洞窟の奥へと走って行ってしまった。この場にいても仕方ない。「待てよ!!」と、少年がフェイトを追いかけると、今度は、「お、置いてかないで下さーい!」と、青年が2人を追いかけて行った。
・ ・ ・
少年達が奥へと向かうと、額に短い角と、ピンク色の毛をした魔獣リグレットに、刀を向けるフェイトがいた。
「あなたの運命、今変えてみせましょう!!」
フェイトがそう言った後、リグレットへと物怖じせず飛び込んでいった。
だが、前傾姿勢でリグレットへと飛び込んで行き、刀を振うるが、血は全く出てこない。地肌が硬いのか? とリグレットを凝視していた少年だったが、彼女の力は強く、金属音も響かない様子を見ると、地肌はさほど固くなさそうだ。
そこで、少年はあることに気づいた。彼女がいくら刀を下ろしても血が飛ばない。 それは彼女が刀の刃を向けていないことからだった。
「お、おまっ! 刃逆だぞ!?」
「知ってます!」
少年に声をかけられ、彼女の注意がそれた。その瞬間に、リグレットが彼女を頭で突き飛ばしてしまった。
「うっ……」
「ったく、生易しいヤツめ!」
少年が走ってフェイトの元へ向かい、「長期戦になりそうだな、使え!!」と、魔法で大きな盾に変身した。
「ありがとう! 行きます! ……これで最後!!」
はああああ! と力を貯めて刀を真上から落とすと、地震が起きたかの轟音を響かせ、魔獣は静かにひれ伏せた。
少年が元の姿に戻り、ちょんちょんと指先でリグレットをつついてみるが、ピクリとも動かない。
「大丈夫だよ。この子はもう悪さをしないから」
しばらくすると、リグレットは小さなけものに変身した。フェイトがリグレットを撫でると、それにこたえるようにリグレットがスリスリと肌を寄せる。
フェイトの笑顔に、少年はツンと顔をそむけ、少し頬を赤くさせると、「あっそ」とだけ返答した。
「あ!!」
微笑ましくしていたフェイトだったが、途端に立ち上がると顔を桃色にして少年を見る。
「そう言えば……私のこの服、洗ってくれたよね。ありがとう。とっても良い香りがするよ」
「サービスするって言っただろ。それに、ちょっと臭かったし」
ずんずんと少年の前にフェイトがやって来る。お礼を言われるとばかり思っていた少年は、フェイトにドヤ顔を見せたが、予想とは裏腹にその顔にお熱いビンタをされてしまった。
「何でだよ!?」
「汗臭くてごめんなさいね! もう、行こっ!!」
フェイトはリグレットを抱えると、少年に背を向け、次にライトレットに視線を向けて言った。
こればかりはレディに対してはなぁ……と感じ取ったライトレットは、苦笑いしながらフェイトにうなずいた。
「ま、待て! お前等、まさか村に!?」
「私は戻りませんっ! とりあえず、ギルドへ行ってこの子を預けてきます!!」
「そうか、んじゃ好都合だな。俺様も連れてってくれ!!」
「何であなたなんかと一緒に! 本当の名前も名乗らないような、へ、変態と!!」
少年はなんで名前を名乗らないくらいで変態なんだ? と疑問は持ったものの、腹の虫がおさまらないらしいフェイトを見て、言うことをきくことにした。
「俺様はミコト。よろしくな、フェイト」
悪気もなく笑顔で差し出される手に、フェイトはギョッとして1歩後ろへと下がった。その時フェイトの真後ろにいたライトレットにぶつかり、ライトレットが、「大丈夫ですか?」とフェイトの手に触れると、「あ、すみません!」と顔をうっすら赤らめてそらす。
「それと、ついでに俺も連れてってくれたらなぁ……って、思うのですが」
顔をそらしながらも、ライトレットは、しおらしくフェイトに言った。
「いや、誰も連れてくとは……」
「よしよし! んじゃこれから3人旅だな、よろしく!!」
強引にライトレットとフェイトの手をにぎってブンブン上下に振り、ミコトはゆかいに笑い飛ばしている。
「ど、どうしてそうなるの……?」
フェイトはリグレットをぬいぐるみのように抱きしめたまま、その場にしゃがみこんだ。
(1:遺憾の魔獣リグレット(後編)了)




