12:狂犬バトルドッグ(後編)
フェイト達は急いで病院の中へ入ると、ベンがミサについて受付嬢に聞いていた。
「ミサ様でしたら……現在20階の223号室におられます」
受付嬢から情報を聞くと、ベンが頭を下げ、エレベーターやエスカレータを探す。しかし。どこもかしこも人で埋め尽くされている。非常階段を見つけると階段を急いでかけ上がっていった。ベンを追いかけ、フェイト、ミコト、ライトレットも、階段をかけ上がって行った。
そんな中、1人受付に残っていたアントニーが、受付嬢に話を続ける。
「来た人って白髪の女性でしたか?」
「いいえ、黒髪に白い髪の混じった男性でしたが」
アントニーが話を聞き、視線を斜め上にそらして何やら考え出す。
「ああそうですか。有難う御座いまし」
「あ、あの……」
「はい?」
受付嬢達はアントニーを見て何やらこそこそと話し始めた。やがて、女性達がアントニーを一気に視線で捕まえる。
「この後、お時間ありますか?」
綺麗な女性達の期待のまなざしがいくつもアントニーに突き刺さる。アントニーは言葉の意味にすぐ気づくと、ウインクを1つして、女性陣をシビれさせる。
「な・い・よ♪」
そう言って手を振ると、アントニーは階段を段飛ばしで進み、「待っててねフェイトちゃーん!!」と大きな声で言った。
階段から聞こえて来た異様な声に、受付嬢の1人がしかめっ面をし、「要するに女いんじゃねぇかよ」と呟いた。
・ ・ ・
アントニーがあっと言う間に20階にたどり着き、室内を見て回ると、番号の部屋を探し始める。受付嬢の言っていた番号と同じ部屋を見つけると、すぐさま中へと入っていった。
中にはもちろんフェイト達がいる。1番奥、窓際のベッドを見れば、ベッドの中で穏やかに眠るミサがおり、その隣に椅子に座るベンがいた。
「どこへ行ってたのアントニーさん」
フェイトは両手を腰に当ててアントニーを見上げる。リスのようにムスっと頬を膨らますその姿はとても愛おしく、アントニーが思わず抱きしめようとする。それを、フェイトはアントニーをよけてアントニーの腰を蹴り、ライトレットと衝突させ、余計な効果音を出させないようにした。腕を組んでその様子を見るミコトは、どこかあきれ気味だ。
アントニーのフェイト愛やイタズラ心のせいで、ここ最近ミコトまでフェイトやエルルからの怒りをぶつけられる。たまったものじゃないと感じていた。
「けれど、赤ちゃん生まれるんじゃなかったの? 赤ちゃんは?」
アントニーが起き上がってフェイトにたずねた後に後悔する。自分達がかけつけた時には、すでに彼女がベッドの中で眠っていると言うことは、望ましくない展開だったことも有りうる。
「実は」
「やっぱり、いい」
アントニーは申し訳なさそうに声を低くして言った。
「聞いて!」
フェイトがアントニーの両腕を掴んで必死に言うと、アントニーも覚悟を決めてうなずいた。
「実は、ミサさんは今までに稀に見ない程スピーディーに赤ちゃんを産んだんだって!」
「へぇっ!?」
「何だかよく分かりませんが、倒れた時アレ程苦しそうにしていたのに、来た時には苦しそうな様子があまり無かったらしく、出産も素早く……」
フェイトの言葉を聞き、まさかと以前出会った白黒髪の男を思い出す。
受付嬢の話通りなら、恐らく彼女をここまで連れて来たのは彼である。以前赤鬼ごと魔法を使って去った際も、魔力を一切感じさせなかったこともあり、アントニーの疑いは増すばかりであった。
部屋にナースが1人入ってくると、1人の赤ん坊を抱えてきた。人の耳を生やしているものの、おしめの腰部分に切れ目が入っており、そこから小さな尻尾がふるふる動く。
その生まれた姿から、夫が人間であったことが感じ取れた。
「ミサさん?」
ナースの声にミサが目を開くと、フェイト達も注目する。
「あなたのお子さんですよ」
ナースから赤ん坊を手渡されると、ミサの細い腕の中に小さな命が可愛らしい寝息を立てている。自分のお腹の中で確かに生きていたその命が、今腕の中にある。
ミサは、くぅんと鳴き、瞳から涙を流した。
「ミサ。この子の為にも、君は生きなくちゃいけないんだよ。しっかりとね」
ベンの言葉に、ミサは涙を流しながらワンと答えた。
「良かった。……それじゃあ、私達はそろそろ行きましょうか」
フェイトが立ち上がって言うと、男性陣がうなずき、カバンの中にひそんでいたリグレットもフェイトの肩に移動してフェイトの頬にすり寄せた。
「いずれ」
「はい?」
「いずれ、ことが落ち着きましたら、あなた達のお役に立てると思います。ですから、その時はまた会って下さいませんか?」
ミサの真剣な表情に、フェイトは笑顔でうなずき、フェイトの周りに男性3人も集まると、ニコッと笑ってフェイト同様にうなずいた。フェイト達の反応に、ミサがホットしたように胸に手を当て、今まで見せることのなかった温かい笑みをこぼした。
クマさえ無ければ美しかったであろうその笑み。 次会う時は、きっと彼女のもっと素敵な笑顔が見れることだろう。
・ ・ ・
フェイト達が病院を後にする際、アントニーが笑顔で受付嬢に手を振ると、受付嬢達はなぜかフェイトのことをにらみつけて来た。
怖くなったフェイトは急いで玄関へと出て行き、男性陣が追いかける。
「私何か嫌われる様なことをしただろうか……? いや、ワガハイは決してしてないと思われるぞよ」
自問自答するフェイトを隣で気味悪そうに見ていたミコトが、「お前誰だよ!」とフェイトの頭を叩いた。
「フェイト16歳ですけど!?」
「知ってる。ちなみにミコト18歳」
「どうぞよろしく」
ミコトとフェイトがなぜか改まって握手をしているのを見て、アントニーがその手を強引に引きはがすと、ミコトの手で指相撲を始めた。ちなみに、指相撲の結果はアントニーの勝ちであった。
「ちくしょう! 指相撲くらい勝たせろよ!!」
「俺はいつも全力だ。恋にもな。フェイトちゃん、俺アントニー27歳なんだけど、大人なお兄さんは嫌いかい? ……ってアレっ!?」
いつの間にか握らされていた手がライトレットとすりかわり、ライトレットが気まずそうに頬をかいて苦笑いする。フェイトの方は、いつの間にかリグレットとじゃれあいながら先に進んでいた。
周りの人間は、男3人が群れて何仲良く手を繋いでるんだと不気味そうな顔で見ていた。男性3人衆はその視線に耐えかね、フェイトのもとへとかけ寄っていった。
(12:狂犬バトルドッグ(後編)了)




