11:狂犬バトルドッグ(後編)
門番の代わりも何とか手配出来たため、フェイトは走って洞窟の方へと向かって行くと、フェイトは急いでミコトの隣へと立つ。
門番の男性もどうやらフェイトを待っていたらしく、フェイトが来たことで1つうなずくと、口を開く。
「始めに、俺の名前はベン。よろしく」
フェイト達も軽い自己紹介をし始め、ベンの説明が始まった。
「率直に言うと、彼女の封印を説いたのは俺なんだ」
「ベンさんが? ど、どうして……?」
「つか、罠だらけの洞窟なのによく生きて帰ってこられたな」
2人が続けざまに話すので、ベンが両手を出して待ったをかけた。フェイトとミコトは口を閉ざした。
「まず、ミコト君の言った方について答えるよ。罠をそもそも仕掛けたのは俺で、罠は確かに中々キツイものにしているけど、彼女ならあの程度なら身軽だからよけられる定で設置している。罠は、村人やアンタ達みたいな彼女を倒そうとしようと来る人が近づかない用にと設置したもので、俺は設置主だから勿論よけることはたやすいよ」
メスのバトルドッグを彼女と呼ぶベンの視線は時折下を向く。その様子に気づいているアントニーは、「ふぅん?」と短く言葉を返す。
ベンが気持ちを奮い立たせるように大きく咳払いをすると、また話を続けた。
「フェイト君の言った方が本題になるけれど、そもそもバトルドッグは半獣の女性なんだ」
「あ、俺と似てる」
その言葉にベンが視線をアントニーに向けると、「彼はウサギさんらしいんです」とフェイトが説明を付けくわえ、ベンがうなずく。
「バトルドッグの本当の名前はミサ。彼女には以前、とても愛する旦那さんがいたんだ。けれど、旦那さんが、族によって殺されてしまったんだ」
「それで村人を……?」
フェイトの質問にベンが首を横に振る。
「その間、俺は彼女を励まして、彼女も何とか安静を取り戻そうとしていた。けどある日、夜中に彼女が夜風に当たりたいと行って出て行ってしまって」
「その日に村人がやられたと?」
「うん。封印を解いた時、何があったのか彼女に聞いてみたけれど、彼女は俺にですら疑心暗鬼の状態みたいで……それ以上問い詰めるなら、あなたにも危害をくわえるかもしれないと言われたから、それからは毎日食料を渡すだけのために夜中に出入りしている」
「食料も? ずいぶん良心的なんだね」
アントニーの言葉にベンは、「そりゃあもちろんだよ」と言うと、しばらく真実を言おうか迷っている様子だったが、アントニーの見通すような視線に耐えかねて話し始める。
「彼女のお腹には、今赤ちゃんがいるんだ」
「赤ちゃん!?」
フェイトが口を大きく開けて驚いた。声にこそ出さなかったミコトだが、せっかちにトントンと地面を叩いていた足の動きが止まり、ベンの顔をチラリと見上げる。
「あなたの子?」
アントニーが聞くと、いやまさかとベンが苦笑いして片手を横に振る。
「俺、人妻に手を出す勇気無いから。……で、ここまで聞いて分かると思うけど、彼女はあくまで洞窟から出る気は無い。あの遠吠えは、多分夫のことを思ってだと思うんだ。放っておいてくれと言いたいけれど、彼女には赤ん坊がいる。……彼女を、なるべく安静な状態で救い出してもらえないかな?」
「はい! 全力でやってみます!!」
「恩に着るよ」
・ ・ ・
以前のアントニーのもとへ向かうまでと同じような、物騒な罠が多くある。1歩間違えれば、笑いごとでは済まされない結果になるのが目に見える。
もしものためにと、ミコトが盾に変身すると、フェイトがそれを頭上に持ち上げてフェイトとベンの傘になった。盾の小ささからして、アントニーのもとまでギリギリ届かない。と、アントニーが金属の±(プラスマイナス)を変更させる魔法を自身の剣に指で円を描いて発動させれば、降り注ぐ矢が一気にアントニーのレイピアに吸い寄せられる。これでは本来こちらに来る予定の無い矢まですぐさま剣に矢が集まってしまう。アントニーは、「駄目だなこりゃ」と呟いた。
剣に刺さる矢に指を突き立てて円を描けば、魔法発動をやめた剣からバラバラと矢が落ちていく。まぐれでこっちへと降ってくる矢は、自力で打ち落とすことにした。
罠は他にも多く潜んでいたが、ベンに続けて歩けば巻き込まれることは無く、順調に奥の方へと道をたどっていた。奥へと進めば進むほど、獣のとどろく音が聞こえる。フェイトは息を飲んで慎重に1歩いっぽ進んでいく。
洞窟の奥には、人工の扉が1つあった。
ベンがノックすると、うめき声を上げていた獣の声が収まり、綺麗な女性の声へと変わった。
「……食事の時間は、まだでは?」
「今日はお客さんを連れてきたんだよ」
「帰って下さい」
迷いなく返される返答だが、ベンもここまで来て引き返すつもりは無い。一言、「開けるよ」と言い、扉を開けると、フェイト達が入っていく。
犬の耳を生やした灰色の髪の女性は、やはり子を身ごもっていて体勢に気をつかうことも出来ないのか、あぐらをかいて座っていた。 フェイト達がやって来たことからゆらゆらと壁づたいに立ち上がり、クマの出来た目でフェイト達をにらみつける。
「……ベンさんのことは、信じようと思っていたのに」
その言葉はバトルドッグとしての言葉では無く、1人のミサと言う女性としての言葉だった。
ベンは眉間にシワを寄せ、目を細めてミサを見た。だが、すぐにフェイトの方へと視線を向けると、小声で、「頼む」とフェイトに言った。
ベンの言葉にフェイトがうなずくと、いつものあのセリフを吐く。
「あなたの運命、今変えてみせましょう」
(11:狂犬バトルドッグ(後編)了)




