11:狂犬バトルドッグ(前編)
「ドリさんも行っちゃったし、私達も出発しましょうか」
男性陣に対するついで感のある言い回しが、ミコトとアントニーの癪にさわる。フェイトの言葉に反論はせず、ミコトとアントニーは無言で立ち上がった。
「アントニーさん、部屋に剣忘れてましたよ!」
ライトレットがアントニーの剣を持ってアントニーに駆け寄ると、アントニーに剣を手渡した。
「ん? あげようか?」
「ええ?」
「嘘」
まんざらでも無さそうだったライトレットに、アントニーはたった一言で返す。ライトレットは、「ぶわっ!!」と涙を流した。
2人の様子を横目で見つつ、ミコトとフェイトは次の行き先を決めていた。
なるべく近場の方が良いが、あまり近場ばかり狙えば遠方の討伐リストの魔獣達が次々と討伐されるだろう。だからと言って、いきなりの遠出は時間も大いにかかる。その間の時間が惜しい。
「ここから近いとこの2件はもう別のが倒してるだろ? この調子だと、ソイツ等がここの近くの奴を倒すはずだぜ。だったらちょっと遠くなるが、ワンワン村が良いんじゃね?」
ワンワン村にいるのは、バトルドッグと呼ばれるメスの狂犬らしい。
ある日突然村の人々を襲い、村の多くの人々がその狂犬によって生死を彷徨う程の重傷を負わされたことから、御子と呼ばれる霊力のある人物に封印されていた。しかし、1年も満たない内に何者かによってその封印を解かれてしまったのだ。
現在は村から少し離れているバトルドッグの封印された山奥の洞窟に御子が設置したトラップによって村へまでは来ていないそうだが、意味を返せばそれ程多くのトラップがあると言うことだ。
いくら懸賞金やランクが高くても、そもそも洞窟の中には入れないのだ。
「下手したらこいつ、罠多すぎてすでに死んでる率ねーか?」
「御子さんがわざわざ封じる程強かったのなら、それはたぶん無いんじゃないかなぁ。まずは、村に言って聞き込みした方がいいかもしれないね。でも、誰が封印を解いたんだろうね。中には罠が沢山あったはずなのに」
あごに手を添えて考えるフェイトを見上げるミコトは、いまだ使われていない自分の契約の力が何なのかをフェイトに聞きたかった。
だが、望んで契約をしたわけで無い自分が聞けば、自分の力が本当に弱いことを認めるのと一緒のように思えた。契約の力を解いてくれ。たった一言が言えない。
「なー。俺様ももっと戦いたいんだけど」
「え? ミコト君って充分戦ってない?」
「お前よりかは全然。第一、ほとんど武器だから全然前線じゃないし」
「そう? 私全然気にしたこと無かった」
「ああそうですか」
「それに、戦うことだけがみんなの役割だとは思わないんだけど……って、聞いてないか」
自分から振っておきつつ、話を聞かずに歩き出したミコトの背中を見つめ、首を傾げたフェイトにアントニーの重たい体がのしかかる。
「ワンワン村へレッツらゴー!!」
「え?」
「要するに、行こうと言うことだよ。ヘイユー」
のしかかったままアントニーが言う。フェイトは体を左右に大きくゆらしてみるが、アントニーはしがみついたままだ。仕方なく、フェイトがアントニーをおんぶして歩き出した。
「ありがとう。このお礼は今夜きっちり」
アントニーがそこまで言うと、フェイトがおんぶしていたアントニーを、1人勝手に歩くミコトのもとへと投げ飛ばした。小さなミコトは、潰されそうな勢いで、アントニーの全体重に踏みつけられていた。
「……羨ましい」
フェイトの後ろで無意識に呟いていたライトレットの言葉に、フェイトが斜め後ろを向くと、ただギロリとライトレットをにらみつけてミコト達のもとへと走っていく。
「じょ、女王様っ!!」
威嚇したはずの鋭い眼光も、ライトレットの脳内ではご褒美に転換されたらしく、ライトレットは晴れやかな笑みで逃げるように走り去ったフェイトを追いかけた。
・ ・ ・
例の洞窟の前まで来ると、あごにヒゲを生やした門番が一人立っていた。狂犬と呼ばれる割には手薄なような気もするが、封印の力や、村の人数を考えると、フェイト達はさほど不思議とは思わなかった。
門番がフェイト達を1度見るが、フェイト達の存在を確認すると、視線をフェイト達からそらして前方へと目をやった。
「よし、行くぜ!」
ミコトが威勢よく言うと、我先にと走り出してフェイト達を置いていった。
「何だか今日のミコト君張り切ってるねー」
「空回ってる気がしなくもないけど」
アントニーの言葉に、フェイトとライトレットがはてなマークを浮かべてアントニーの方を見る。
「いずれ分かるよ」
そう言った後、アントニーはさり気なくフェイトの背中に手を当て、ミコトの後を二人で歩いて行ってしまった。
「俺のことは無視ですよね。分かってましたけど……」
顔を引きつらせながら、2人の背中をライトレットがただ見つめた。
その時、洞窟の奥から犬の遠吠えが聞こえてきた。声が聞こえたかと思えば、ミコトが何やら門番の男性の胸ぐらを掴んでいびり始めていた。ライトレットも急いでミコト達のもとへ向かう。
「何がバトルドッグは死んだ、だ! あの遠吠え、まさにバトルドッグの遠吠えなんじゃねぇのか!?」
フェイトがミコトを男性から引きはがすと、アントニーが、鞘に入れたままの剣をミコトの頭に振り落とす。頭に走る痛みの強さに、フェイトに掴まれていた両腕を強引にはがして頭に当てる。
「んだよ、だって嘘付いてんだぞコイツ!!」
「だからってそんな野蛮な態度しちゃ駄目!!」
契約の影響がある。フェイトの命令にミコトが抗える訳も無い。ミコトは大きく舌打ちを響かせた。
「バトルドッグは死んだと? ……ワケありッスね? これ以上コイツに騒がれたくなかったら、事情くらい話してくれません?」
ミコトと対称的に、冷静に交渉をするアントニーだが、根本的に事情を話せとおどしていることには変わりない。フェイトは二人の男の強引さにため息を吐く他無かった。
1人ひとりの顔を門番がじっくり見定めると、無言で洞窟の方へと歩き始めた。
「も、門番はっ!?」
ミコトとアントニーは門番に続いて歩いて行ってしまった。残されたフェイトは門番の向かった方向と門を交互に見ると、やがてくるりと半回転してライトレットの方へと顔を向けた。
あまりライトレットに命令はしたくなかったものの、こればかりは仕方無い。
「……GO」
ライトレットに門の方を指差すと、ライトレットは爽やかな笑顔で、「ワン!」と、フェイトに向けて敬礼した。
(11:狂犬バトルドッグ(前編)了)




