10:屍目&老人VS兎目&少年(後編)
何とか一瞬でも彼女の懐に入って直接魔力をぶつけられればと、隙あらば何度も前進していくが、簡単にあしらわれてしまう。
足元をすくってやれば彼女の体勢を簡単に崩せるのだが、彼女はフェイトよりも強靭な肉体を持っている。
2つのどっしりと構えられた足をすくおうとしてしまえば、ムクロポートに大きな隙を作ってしまう。 ミコトは下手に動くこともままならなかった。
「……正直、だるい」
今まで手加減をして挑んでいたが、あまりの力の差に合わせるのが面倒になったらしい。
大剣の腹を一気にミコトの方へと振ると、横から素早く飛んで来た何かにミコトをさらわれ、ムクロポートの攻撃が不発に終わった。
ムクロポートがその地点に視線を向ける。そこにはアントニーが、ミコトを片腕で持ち上げながら立っていた。
「戦うんならもっと周りのことを考えてやって下さいよ」
「邪魔すんな、俺様はもっと」
「ボコボコにされたかったのか? だとしたらお前変態」
「違う!! もっと……」
額に手を当て、唇を噛んでその先の本音を自ら妨害させる。
━━もっと強くなりたい。自分は何時も守られてばかりだ。
自分のか弱さはひしひしと感じていたが、アントニーが連れて帰ってきたフェイトの姿を見た瞬間、ミコトは自分の無能さを痛感していた。
「始めから自分より明らかに強い相手と戦って、強くなれんのか? ゲームだって始めはかんたんから始めるんだ。おになんて始めからやってたら指つるどころか頭がつるからな」
「……はっ? 何の話?」
「んっとね、封印される前にやってたゲームの話。おにを相手にするならせめてむずかしいをフルコン出来る程度のレベルにならねーと! ふつうもフルコン出来無いお前に今、出来ることは?」
アントニーがミコトをさとして、空中へ放り投げた。やっとアントニーの言動の意味に気づくと、しかめっ面になりながらも空中で武器に変身し、アントニーの手へと収まった。
あくまで勝負の平等を図るため、腰元にさしていたレイピアを投げ捨てると、アントニーがウインクしてムクロポートに手招きした。
「意味分からんが、とりあえずレベルは上がっているのだろうな」
「ええ! 3分で倒すと宣言しましょう!!」
ムクロポートが、アントニーの挑発に眉をひそめ、大剣を振るう。アントニーも同じように動き、ひとまず剣がぶつかり合った。
刃を通して伝わってくるムクロポートの力強さの分かる衝撃に、アントニーが片目をつむった。
「確かに、さっきの奴よりは悪くない。しかし、その程度で私を倒すなど出来るものか」
大剣を上から下から左右からと、いたる方向からアントニーの方へと振り回す。エルルが武器になっていることから、金属同士を引っ付ける魔法を使うことも出来無い。
その上、ムクロポートと直接武器をぶつけ合えば衝撃が大きすぎてアントニーやミコトにもショックが大きくなると、よけることに集中する。
その為、一旦後ろに一気に飛んで下がり、同時に足で空気状に円を描く。
すると、足元に羽が生えたように動きがふわりと軽くなり、着地も地面に片手をついてバク転から起き上がるような体勢になった。
「小じゃれた魔法だな」
「”かぜのいた”って言う魔法です」
アントニーがニコリと笑ってムクロポートに言った。足場も軽くなったことで、アントニーがムクロポートに挑みに走ると、止めど無く振る大剣の攻撃を、飛んで回っていとも簡単に避け始める。
ムクロポートがアントニーの着地と同時に足を狙おうとしゃがむと、まさにそのタイミングを狙っていたアントニーが、かぜのいたでそのままムクロポートの真後ろにまわる。
ハッとしたムクロポートが立ち上がると、腰元にやけに多くの風が入ってくる。
「さすが、大人な女性は下着も攻撃的だな」
「貴様っ!」
ムクロポートが剣を振るおうとすると、剣がエルルの元の姿に戻り、アントニーの頭をゲンコツした。
「男とあろうものがなんとはしたない!!」
「ええっ? いやぁ、でも今ので丁度3分くらいでしょ!」
「ムクロポートがどれ程傷ついているものか……」
「いや別に。それより後ろを取られた事が遺憾でならない」
羞恥など無いムクロポートを、エルルが数秒凝視したが、それでもムクロポートは全く動じない。
彼女の心は揺るがないと察したエルルは、「ですがね!!」と視線を男2人に向け、アントニーと、なぜかミコトまでもを叱り始めた。
「結局バトルが出来ないのでは暇なのだが」
ムクロポートの呟きも聞かずに、エルルはアントニーとミコトに紳士のうんたらかんたらの講義を始めだしてしまった。
エルルの延々と続きそうな講義に頭を痛めたアントニーは心に誓った。もう、彼女のスカートは絶対にめくらないようにしようと。 あくまで彼女のスカートは、である。
数時間に及ぶエルルの講義が終わるきっかけになったのは、ライトレットがフェイトが起きたと教えにやって来てからだった。
老人のクドクドとした説明に頭がおかしくなりそうだったアントニーとミコトが、「なんでさっさと来ねぇんだ!」とライトレットの頭を同時に叩き、エルルから逃げるようにフェイトの元へと走っていた。
「……な、何で?」
言う通りに教えにやってきたのにいきなり叩かれたことから、その場に1人残されたライトレットが二人の走っていった方向を呆然と見つめた。
全員がフェイトの元へと向かうと、ドリの膝枕でフェイトが寝転がっていた。
「変わろうか?」
ヘイヘイとアントニーが両手を差し伸べてフェイトを誘導しようとしたが、申し訳無いとドリの膝枕から起き上がり、アントニーの用意した膝枕も丁重に断った。
「……あの、私何だか記憶が飛んでいて。何があったか分かりますか?」
「分からない。俺が来た時にはフェイトちゃん血だらけだったから」
驚いたフェイトは、体を見回す。元々赤い服装ではあるが、赤黒い血反吐がいびつな水玉模様を作っている。
「大丈夫。もう僕とアントニーさんで大体回復させたよ」
やわらかく微笑むドリの表情に何となく安心したフェイトが微笑み返すと、回復してくれた2人にお礼を言った。
「あとね、僕はそろそろ行かなくちゃいけないから……また、夢で会えたらいいな」
「そっか、もう行っちゃうんだ……」
フェイトは寂しそうな表情を一瞬見せたが、お互い共に歩むメンバーが違うのだと自分を納得させる。
「そのためにフェイトと契約したんだ。いつでも一緒に、気持ちだけでもいられるようにって」
少し照れながらドリが言ったため、フェイトも照れ笑いしてしまう。
「フェイトと闘求場で会った後、その時は今度こそ……」
「今度こそ?」
言葉の続きが気になったフェイトだが、ドリが顔を真っ赤にさせると、「やっぱりいい!」と言って、エルルとムクロポートの元へ走って行き、急いでフェイト一行から去ってしまった。
「今度こそ……何だったんだろう」
言葉の続きが気になったフェイトだったが、その先の意味を察していた男パーティー3人が、やれやれと肩を落とした。
(10:屍目&老人VS兎目&少年(後編)了)




