10:屍目&老人VS兎目&少年(前編)
アントニーが血だらけのフェイトを連れてやって来ると、ムクロポートを以外の全員が顔を青ざめた。
「俺様があの時止めてやれば……」
ミコトが悔しそうに両手を握ると、黒い革手袋がギチギチと音を立てる。血反吐は量が多く、口元からだらだらと胸元に垂れている。気を失っている彼女の表情は苦しそうだ。
「どうしてこんなことに!?」
「分からない。気がついたらフェイトちゃんが……」
本来はフェイトを狙った少年がいるのだが。話してしまえば更に厄介なことになりかねないと、アントニーはあえて真実を口にしなかった。
「でも、アイツがフェイトを連れてってたんだぞ。怪しいだろ!」
「真実は本人にしか知りえないからな。……まぁいいや、今は寝かせといてあげようよ。後、俺魔法使えないことは無いけど、魔力そんな多い方じゃ無いから助っ人が欲しいんだけど」
なるべくミコト達に犯人探しをされないように、視線をフェイトの方へと向かせる。ミコトやエルルは攻撃魔法専門で、回復魔法は一切使えない。申し訳なさそうに首を横に振った。魔力の無いライトレットやムクロポートも口を開こうとしない。
「て、手伝います」
ミコトと2人がかりで問い詰められた記憶がある。ドリは少し怯えながらも、フェイトの元へ行くと、回復魔法を使い始めた。
そんなドリの様子を察してか、「ありがとう」とドリに言い、フェイトの頭の方へと手を持っていく。さり気なく、フェイトの先程の一部の記憶を消し去る魔法を使用した。彼女のトラウマにならないようにと言う、アントニーなりの配慮であった。
「……何をしていらっしゃるんですか?」
唐突に後ろから聞こえてくる疑いの読み取れる低い声。話されるまで気配を感じなかったため、アントニーの心臓がビクンと跳ねる。後ろを振り向けば、エルルがアントニーを見つめていた。
「ああ、もしかしたら脳しんとう起こしてるんじゃないかって」
アントニーの返事を聞くと、エルルは、「そうでしたか……」と、フェイトを心配そうに見つめた。
何とかバレずに済んだかと、ホッとアントニーが胸を撫で下ろした。そのとたん、隣からボソリと、「自ら災いを招かないように気をつけて下さいね。フェイトさんのためにも」と呟く声が聞こえた。
アントニーがギョッとエルルを見て冷や汗を垂らすと、フェイトの顔を見ていたエルルが、アントニーへと厳しい表情を向けた。
「ですが、彼女が回復したら行きたいですね。ドリは、彼女と共にいますか?」
エルルの言葉に回復魔法を使いながらも、うーむと糸目になってドリが考え出した。
「フェイトのことは心配ですが、契約も出来たので、彼女の腕を治したらお2人について行きたいのですが……良いですか?」
「ええ! もちろん良いですよ!!」
「その間、待っていろと? ……時間の無駄だな。体が鈍っちまう」
あくまでも、ムクロポートの頭の中にあるのは魔獣を倒すことと、己の力を上げることのみだ。そんな非情なムクロポートの言葉に、エルルが苦笑いする。
「おっ、んじゃいっちょ俺様が、アンタの手合わせの相手になってやろうか?」
「や、やめておきなさいミコト! 彼女はハンパじゃありません!!」
「ほぉう。私に戦いを挑むとは。爺さんや生首と違っていい度胸してるじゃないか」
ムクロポートの言葉に、「生首ってドリさんのことか……」と、ライトレットが呟いた。
結局、戦うという意思が一致してしまったミコトとムクロポートは、人気の少ない草原の方へと向かってしまった。
・ ・ ・
エルルはムクロポートのの武器役になるので、彼女の隣へと立たされていた。
「あくまでフェイトさんが元気になるまで、ですからね!」
その前にミコトが惨敗してしまう確率もあるが、もしもヒートアップしてムクロポートがミコトを見るも無残な状態になっては大変だ。エルルは2人に言うと、2人は声をそろえて、「るっせぇジジイ!!」と返した。
「……そんなおそろいでジジイと言わなくとも」
「そう言えば、2対1は流石に……」
「それなら気にするな。私は魔法は使わない。お前は使え」
ムクロポートの条件に、ミコトはおうと叫んだ。もはや何も言うまいと、エルルが武器に変身すると、バトルは開始した。
筋肉で重たそうな体を素早く動かし、ミコトに問答無用で大剣を振るうムクロポート。遅れをとってしまったミコトが、まずは距離を取ろうと魔法を使う。
地面の草がムクロポートに絡みついて1度は動きを封じられるものの、ムクロポートが強引にその蔓状に絡みつく草を引きちぎって距離を取ったミコトを逃すまいと何度も喰らいつく。
予想以上の動きの俊敏さと、力任せな戦闘に、早くもミコトが苦しそうな表情になる。
「何だ、その程度か? その程度じゃ、すぐに殺られちまうぞ」
ムクロポートの言葉と同時に、ミコトの頬に彼女の剣がかすった。
「ちなみに、今のは手加減している。降参しとくか?」
歴然とした力の差。それはミコトが手合わせをして数分で気づかされたことだが、小さな体にひそむ高いプライドが、ムクロポートに大口を開く。
「まだまだ!」
ミコトは拳を握った後、黒革の手袋を脱ぎ、黒いナイフに変え、ムクロポートへと向けた。
「威勢だけは買ってやろう」
1歩後ろへ下がり、大剣をひと振りすると、手袋ナイフの先端が簡単に斬り飛ばされ、魔法が溶けると手袋に穴が空いてしまった。
「面白れぇ」
ニヤケ顔をし、買われた威勢を見せつけると、今度はミコトがムクロポートの元へと自ら飛び込んでいった。
ところ変わり、しばらく気を失っていたフェイトも、2人の回復によって薄らをまぶたを開いた。
アントニー、ドリ、ライトレットがそれぞれフェイトの心配をするが、フェイトはまたすぐに目を閉じてしまった。
そんなアントニーの近くに、黒い破片、ミコトの武器化していた手袋がアントニーの目の前を通る。
「えっ……?」
アントニーが目を点にして破片のやって来た方向を見ると、ムクロポートとミコトの戦闘が行われていた。
「これ当たってたら俺らも介抱してもらうとこだったんだけど。ちょっと叱ってくる。ライトレット、フェイトちゃんに何かあったらこっち来て」
「はい、行ってらっしゃい」
ライトレットはよたよたとけだるそうに歩いて行ったアントニーの背中へと声を送った。
(10:屍目&老人VS兎目&少年(前編)了)




