9:謎の少年(後編)
先程の少年の挑発がかなり頭に来ていたミコトとアントニーは、少年とフェイトの後をこっそりと付けていた。
少年はフェイトの手を引いて歩くが、何故かギルドカウンターへは向かわず、少年とフェイトが人混みに紛れてしまったため、2人は対象を見失ってしまった。
「あっ、やばっ。どうしよう」
「とりあえずこっちへは行ったろ。バラけて探すぞ」
ミコトからの指図に不服そうなアントニーではあったが、今はフェイトのことを優先するべきだろうと、「了解!」と答えてミコトとは反対方向を走り出そうとした。
その時、アントニーは自分の真隣にあった扉が、不思議と気になった。
扉を開けて様子をうかがう。中には、壁にもたれかかり、かすり傷を負った出血を抑えようと、もう片方の手で腕を握るフェイトの姿があった。
刀を抜いた痕跡はあるものの、刀はフェイトの腕には無い。
「すっごいすっごい! まさかこんなに早くバレるとは思ってなかったな」
「フェイトちゃんと契約するってのは、嘘だったんだ?」
「でもその方が嬉しいでしょ?」
相変わらずヘラヘラと笑う少年に、アントニーの眉がピクリと跳ねる。
「来るなら来てもいいよ。屍の1つや2つ、増えたって代わり無い」
少年が隠し持っていたナイフをアントニーに向け、クイクイと挑発するようにあげた。言葉は返さずに、少年へと飛び込んで剣を振る。
ナイフと剣が衝突すると、同時に2つの武器が磁石のようにくっつき離れなくなった。
「何、コレ?」
おどけた表情で、少年がアントニーに尋ねる。
「まぁ、ちょっとばかし変わった魔法を持ってるのさ」
アントニーは妖しく微笑み、もう片方の手にコインを携える。コインを弾き少年のサングラスに当てて、サングラスを投げ飛ばした。
しかし、サングラスで隠されていた少年の目は、クリクリとして可愛らしかった。
「可愛い男の娘に驚いた?」
ニヤリと笑い、ナイフから手を離した少年が指パッチンすると、アントニーに向けて雷魔法が真っ直ぐ向かってきた。
サングラスの奥の素顔に動揺したアントニーはその魔法から避けきれず、片腕に直接触れ、体全体に激しい激痛が走る。
「分かると思うけど、死なない程度にはしといたから。僕ってばチョー優しい!」
両手を頬に当ててニコニコと笑う。その笑みはそのままアントニーを守ろうと真横から攻撃しようとしていたフェイトの方を向く。
あまりにもオカルトチックな動きにひるみ、フェイトの動きが止まってしまった。
「あれれ? 怖くなっちゃったの? ……ヤダ、か・わ・い・い」
ぶりっ子のように、今度は口元を2つの拳を持ってきて、首を傾げてフェイトに向けて笑いかける。
そのすぐ後に閉じていたまぶたを目玉が飛び出しそうな程に見開き、血眼の瞳でフェイトを見て口元をニヤけさせる。
指パッチンで風魔法を巻き起こすと、アントニーをも吹き飛ばし、フェイトの腹に足蹴りを入れ、フェイトを壁にぶつけた。
壁がへこむ程激しい衝突をしたフェイトは、口から血反吐を大量に吐き出して頭を垂れる。
「でも、サチは、お前なんかに比べモノにならないくらい可愛いんだよね。……知ってるよね? ねぇ?」
うつむいているフェイトに近づき、フェイトの髪ごと顔を持ち上げ、少年はおどすように聞いた。
「知ってんだろ? オイ」
血を吐かされ、もうろうとした意識のフェイトには、少年の言葉が理解出来無い。フェイトの頭の中は、今助かる方法ばかりを探っていた。
焦点の定まらないフェイトの目玉を見て、少年が、「その目、ちょっとウザイよね」とニコリと笑い、ナイフをフェイトの目につき刺そうとした。
「きゅるるるるっ!」
フェイトのバッグの中に隠れていたリグレットが姿を現すと、フェイトの目に意識を集中させていた少年の腕に、小範囲の炎を吐き出した。
所詮は小範囲の炎、威力は大きかった頃に比べればとても小さいが、直接受ければ火傷くらいは与えられる威力だ。
「キサマッ!!」
「フェイトちゃん! 契約を!!」
アントニーの言葉に消えそうな意識の中、フェイトが反応した。
フェイト自身、しっかりと言えているか不安だらけだったが、アントニーの契約を叫んだ。
すると、アントニーとフェイトの首元が光った。その直後、アントニーはその重たそうな体をふわふわとジャンプさせる。少し飛んだだけで、部屋の天井までくっつきそうだ。
「ねぇねぇフェイトちゃん、これこの狭さじゃあんまし使えないよー。というか、下手したら邪魔かもしれんー」
アントニーの必死の意見も、フェイトの返事は無い。
「気絶しちゃったよー」
「……契約解除したら?」
落ちたサングラスを拾いながら言う少年。納得はしたアントニーだったが、せっかくのフェイトの契約を無下にも出来ない。
「ううん、それは止めとく。それはそうと、フェイトちゃん待っててね! 今コイツぶっ潰してやるから!!」
「それはこっちのセリフだよ。今、僕は機嫌が悪いんだ」
今度はアントニーが余裕の笑みを見せ、少年が凶悪な表情を見せる。
「つか、さっきのもあそこでグラサン外そうって好奇心さえわかなきゃあんな激ヨワな展開にならなかったワケだし。モブなんかと一緒にしないで……ネ?」
「クソがっ!!」
アントニーがウインクして少年を挑発すると、少年はすぐさまアントニーに飛びかかり、何度も手を振ってアントニーに魔法を直に当てようとする。
「やだやだ。怒ってるからブレブレじゃないですかお客さぁん。そんな戦いじゃつまらな~い」
先程のお返しと言わんばかりに言葉や行動でアントニーが挑発する。深みに徐々にハマり、少年はアントニーの上半身しか視界に入っていなかった。
次、少年が踏み込んでくるだろうと予測される仮の足元で、アントニーが足で円を描く。
アントニーがよけた瞬間に、少年の足元に小爆発が起こった。爆発によって足首が焦げてしまい、少年はその場にうつぶせに転んでしまった。
うつぶせになった少年の腰に座り、アントニーが少年の指を封じるために両腕を引っ張り上げる。
「堪忍しなさい。どちらにせよ、君は負けていたんだ」
「契約の力を借りておいて、何を……」
「俺の契約の力はあくまでスピードの強化だけだもんで。この狭い部屋じゃ、必要無いのよね。……唇とか足とか超重要なとこだったらもっとオプション付くんだけどさぁ、先客がいたんだもん」
「キサマ、僕をおちょくっていたのか」
少年が苦笑いをして呟いた。
「お前、感謝しとけよ」
「は?」
「俺が好きになったのがこの子じゃなかったら、お前のこと殺してたかもしれないからな。もうこの子のこと、狙うんじゃねーぞ」
それだけ言い残すと、アントニーがフェイトを肩に持ち上げ、その隣にリグレットを乗せてその部屋の扉を閉めて出て行った。
扉が完全に閉まり、開いた瞬間聞こえていたギルドの人間の騒然とした声も遮断された。静けさの漂う微量の血生臭さが残る部屋で、少年は閉じていたまぶたをゆっくりと開き、瞳を光らせた。
「……誰がテメェの言うことなんて聞いてやるかよ」
(9:謎の少年(後編)了)




