9:謎の少年(前編)
ドリに連れられてフェイトはギルドへと入った。ドリがカウンターへと向かうと、ギルド店員に契約の準備を早急にしてほしいと頼んだ。
「ドリさん!? 私は下僕には……」
「大丈夫。その逆だから」
当然のように微笑んで言うドリであったが、フェイトがいやいやいやと片手をブンブン横に振る。
「良いの、行こう!」
フェイトがドリに連れて行かれると、契約室へと入って行った。
「俺様と出会ってからからひーふーみー……リグレットも入れたらここ数日で5回契約してんぞアイツ」
ミコトが指を折り曲げながら言う。その隣で、ライトレットが遠い目をする。
「今回で6回目ってことですよね……」
更にその隣で、アントニーが両手を合わせて頭を垂れる。
「口じゃありませんように口じゃありませんように……」
「俺も願っとこうかなぁ……」
「そう言いますけどミコトさん。もしドリさんが口にしたら、ミコトさんとドリさん間接キスですよ?」
「……」
ライトレットの一言にピクリと微動した後に、数秒ミコトの動きが固まった。氷が徐々に溶けるように、ゆっくりと動き出したミコトは、アントニーやライトレットと同じく両手を合わせて見えない何かに祈り始めた。
その3人の様子を見ていたムクロポートとエルルは呆れ気味である。
2人が契約室から出てくると、祈っていた3人が、フェイトに「神様!!」と叫んだ。
「え? 女神様? ……ヤダもう照れちゃう」
「調子のんなよ3割ブス」
ミコトのブスでは無く3割ブスと言う細かいハゲタカのような指摘に、「冗談だったのに……」と、テーブルに顔をふせて泣き始めてしまった。
「フェイト……大丈夫だよ。フェイトは3割ブスなんかじゃないよ、たったの1割だよ」
ドリがフェイトのフォローに入ろうとやんわりとした言い方で励ますが、その言葉はフェイトに大きく突き刺さり、フェイトはその場にとうとう寝そべって「ううう……」と泣き出してしまった。
「いや3割だな」
あまりにも厳しすぎるミコトに、ライトレットが救済に入る。
「いいえ! フェイトさんが3割なら俺どうなるんですか!!」
「9割」
が、ミコトのたった一言のこの返しに玉砕する。
「ぶわっ!!」
ミコトの容赦無い言葉に、ライトレットもフェイト同様の姿で泣き出す。
1割のブスと3割のブスでドリとミコトがどうでもいい争いを始めてしまった。その度にフェイトが泣く気力すらも奪い取られていき、水を取られた植物のように、もはや力を無くしていた。
「ねぇねぇ。フェイトちゃんが可哀相だから、間を取って2割にしよーよ! その代わり、ライトレットは10割でいいから!!」
まぁまぁと双方の肩に手を乗っけて提案しているが、それならば1割のブスと言う結果に終わってくれた方がフェイトにとっては喜ばしく、アントニーの発言はありがた迷惑である。
しかし、間を取って2割と言うのも2人は許せないらしい。今度はアントニーを含んでのブス論争へと突発した。
「これ、やめなさいお前達」
「黙れジジイ!!」
「いいえ黙りません。皆さんはその言い争いをフェイトさんのことを思って言っていますか? フェイトさんの様子を見なさい!!」
エルルが鋭い爪を突き立て、涙の水たまりを作ってテーブルに顔をふせるフェイトに向けた。
「フェイト……スマン、言いすぎた」
「フェイトちゃん! 俺は世界で1番可愛いと思ってるから!!」
1人言葉の選択を間違えていることや、同じく涙の水たまりを作って寝そべるライトレットに誰も触れないことには、エルルはあくまで突っ込まず、「そうでしょう。そうでしょう」とうなずいた。
「第一、お前達は1人の女性を基準にそんなことを考えるからいけないのです! フェイトさんはとても可愛らしいではありませんか! ほれ、彼女を見なさい!!」
「彼女とフェイトを比べてみなさい! フェイトさんなんてリスですよリス! 彼女が岩だとしたら、彼女はその上にちょこんと座るリスです!!」
熱が言葉に留まらず脳にまで達してしまっているエルルには、怖いものなど無い。真後ろでエルルの首を締めようと腕をゆっくりと回しているムクロポートに、論争をしていた3人が怯えていても気づかない程に。
「妖怪褐色ジジイはギルドに出せばどれくらいで売れるのだろうな?」
それはムクロポートなりの生死の選択肢であった。3人も後ろ後ろと指を指すが、エルルが言葉を続ける。
「……ですが、岩には岩の良さがあり、リスにはリスの良さがあります。ムクロに良い所があるように、フェイトさんも素敵な所が沢山あります。ね、ムクロ?」
「……知らん」
呆れたムクロポートはたった三文字で返事をし、エルルの首に回していた手を頬杖に変えた。
「ムクロってば、照れ屋さんですねぇ」
「……分かったぜ。結局、ライトとフェイトを見比べれば、フェイトは数千倍可愛いっつーこったろ」
「確かにね。フェイトちゃんは野性的な可愛さがね」
「ひっどい!!」
「お待ちなさい!」
フェイトが走ってギルドから出て行くと、エルルが急いでフェイトを追いかけた。
エルルと出て行ってしまったフェイトに、エルル嫌いなミコトも、フェイト好きなアントニーも不機嫌そうな様子だったが、ミコトがハッと自分の目的を思い出す。
「あ、それより契約どこにしたんだ!?」
ミコトとアントニーが、厳しい視線をドリに向ける。ドリは今にも泣き出しそうな表情で答えた。
「おでこ……です」
それを聞き、ミコトとアントニーがハイタッチし、掴んでいた胸ぐらを離すと、「じゃあ良いわ!」と、フェイトとエルルの元へとスタスタ歩いて行った。
取り残されて困惑するドリは、右往左往キョロキョロと見回している。そこでいつの間にやら泣き崩れているライトレットに気づき、どうしようとまた右往左往、ヘルプを求めるように見辺りを渡した。
「何してるんだ。さっさと行くぞ」
ムクロポートが満身創痍なライトレットを抱えて持ち上げると、挙動不審なドリと共に、そのままギルドの外へと出て行った。
・ ・ ・
「ドリさん、さっきは必死に私を1割って言ってくれてありがとう!」
エルルに何を説得されたのか、ドリにいきなりフェイトがお礼を言う。あまりにも嬉しそうなフェイトに、ドリも照れ笑いして肩をすくめる。
「……アレが、フェイトか」
多種多様な人々に囲まれているフェイトを、サングラスをかけた少年が、ギルドの屋上から高見の見物をしていた。
「しばらく見てるのも悪くないけど、ここは早めに動いといた方が良いかもね」
屋上にいた少年が呟くと、そのまま屋上からフェイトのもとへと飛び降りた。
風の動きの変わりようにフェイトが気づき、上を向くとスパイク付きのスニーカーが、フェイトの顔面目がけて落ちていた。
フェイトはその場から少しよけてそのまま少年をキャッチする。
「大丈夫?」
少年はフェイトへの問いには答えず、藍色の髪から1つ跳ねているアホ毛をちょこまかとアンテナの様に動かすと、ニコニコと笑ってそのままフェイトを強く抱きしめた。
大胆すぎる少年の行動に、「あーっ!!」とアントニーが少年に向けて大人気なく指を差す。
この3日間多くの男性と出会ったことにより、フェイトの男性経験値は嫌という程急上昇していた。少年からいきなり抱きしめられてもさらりと流せるようになってしまったのだ。
「あっそう? まぁいいや。助けてもらったお礼に、僕君の下僕になるよ」
「いえ結構です」
少年が上にあげた両腕で丸を作り、笑いをたやさずに言う。負けじとフェイトは大きく首を横に振った。
「人の思いを無駄にしちゃ駄目ですよ!!」
少年が両腕を下ろすと、フェイトがホッと安心したが、少年はフェイトがため息を吐いた瞬間に目の前に両手で作ったハートマークを見せつけた。
「……どうぞ、ご勝手に……」
フェイトの腕を強引に掴んで笑顔でギルドの奥へと入っていく青年に、ミコトとアントニーが、「口だけはやめろよ!!」と忠告する。
しかし、笑顔で振り返った少年は、親指を下向きに突き立てて中へと入っていった。
少年に対し、ミコトとアントニーは殺意にも似た感情を燃やしていた。
(9:謎の少年(前編)了)




