8:再戦、夢魔ドリームメーカー(前編)
「……いないな」
いくら辺りを見渡しても、いくら縦横無尽に歩いてみても、青年の姿は見つからない。ふぅと溜息を1つ吐いて目をつぶると、今朝見た夢のように後ろから声が聞こえて来た。
振り返ればそこにいるのはやはり青年ことドリと、夢の中のフェイトだが、なぜもう1人のフェイトも夢に出ているのか、フェイトには分からなかった。
「ああ……また寝ちゃった。それも、フェイトのいるところで……。僕、変な時に寝ちゃって、いっつもみんなに迷惑かけて。邪魔ばかりしてる」
細長い体を体育座りに屈めて小刻みに震える。もう1人のフェイトがしゃがむと、小さくなるドリの頭をゆっくりと撫でた。
「そうだね。ドリは頑張ってるけど、その体じゃ……」
もう1人のフェイトの返答に、ドリもフェイトもショックを受けた。それでももう1人のフェイトは気にすることなく、頭をなでていた手を背中に移動させ、ドリの背中をさする。
「けれどね? もう、苦しまなくても良いの」
「どうして……?」
「ドリ。現実の世界は疲れるでしょう? 一緒に私と夢の世界で暮らしましょう?」
「え……?」
「私、これ以上ドリの辛そうな顔を見たくないの。それにほら、ここにいれば私達はずっと一緒よ?」
うふっと妖艶に微笑むと、吐息をかけたドリの首元にキスをした。いつもと様子の違うフェイトに、ドリが白い肌を赤く染めて首を横に振る。
「フェイト、今日なんか変だよ……?」
「ふふ、なんのこと?」
気持ち悪っ!! フェイトは心の声を必死に押し殺したものの、自分と瓜二つの人間のはずかしすぎる行動に黙って見ていられなくなった。2人のもとへと駆け寄ると、ドリをお姫様抱っこで持ち上げて後ろへと下がる。
本当にドリを持ち上げているのかフェイトが心配に思うくらいに、背丈のわりにドリはとても軽かった。
「フェイトが2人……!?」
「あなた誰!? ドリさんから離れなさい!!」
もう1人のフェイトが刀を抜いた。
「あなたの運命、今変えてみせましょう」
フェイトの決めゼリフを盗んで本物のフェイトに向けて言った。 相手はフェイトが本物と知ってあえて言ったのだろう。それはフェイトでも理解出来た。
「あなたは私の運命をどんな風に変えるつもりなの?」
もう1人のフェイトの挑発に、フェイトも挑発で返すと、もう1人のフェイトが口元をニヤケさせ、何も言わずフェイトを狙って刀の峰を向けた。
「フェイト……!?」
「何を言っているのドリ! 私を信じて。私はあなたとずっと一緒にいたじゃない! 今、あなたを助けてあげるからね!!」
見境なく刀をフェイトに向けて振り回すもう1人のフェイトであったが、フェイトは刀を一向に刀を抜こうとせず、ドリを抱えたまま相手の攻撃を避ける。
「こざかしいっ!!」
ちょこまかと攻撃を避けるフェイトにしびれを切らし始め、動きも俊敏になっていく。だが、スピードが上がれば上がる程、ドリに刀が当たる確率もある。それは、本物のフェイトはドリを守る習性を知ってのこと。もし自分の攻撃が彼の方へ行けば自分を犠牲にするだろうという偽物のフェイトの思惑あっての攻撃であった。
スピードが上がっていき、いよいよドリを逃がすことも出来なくなったフェイト。
自身の腕の中で丸くなって怯えるドリに攻撃を加えさせないように、そして、なるべく体力を消耗しないようにと動きも最低限にした。呼吸も乱さないように気を使ってよける。
延々と続きそうなこの争いに決着を早く着けたくなったのか、もう1人のフェイトがさりげなく刀の向きを峰ではなく刃に変え、飛び上がると、今までさけていたドリの真上から振り落とした。
ざくりと刺さり、滴り落ちる血。血の落ちた先はドリの服の上だ。
ドリがハッとして丸めていた体を伸ばして上を見上げると、フェイトがドリの真上から来た剣を片腕1本を犠牲にして受け止めていた。
「……馬鹿ね。刀を抜けばそこまでにはならずに逃げられたでしょうに」
「逃げるくらいなら、始めから助けになんて来ない」
ボタボタと流れる血を舌で舐め、フェイトはもう1人のフェイトをにらんだ。
……が、深すぎた傷を舐めてしまったことから、傷の痛みが余計に広がり、「~~っ!!」と鼻息を荒くして首を上下左右と動かして悶えだした。その行動は年頃の女性がするようなものでなく、鼻息も荒くなっているので鼻の穴が何度も大きくなる。
かっこよく見せようと思って自分の意思でしたことだというのに、むしろみにくい結果になってしまっている。自分は一体何をやっているのだと、フェイトは心の中で冷静につっこんでいた。
「フェイトなの?」
ドリが、痛みと格闘中のフェイトにたずねた。
「は、はい……。フェイト……で……すあっ!?」
痛みに耐えているフェイトは断然不利だ。そんな防備の薄くなったフェイトを狙わない方がおかしいと、もう1人のフェイトは連続して刀を振り回す。
間一髪で何度もよけるが、その度に数滴腕から血が飛び散っていく。これ以上このような状態が続けば、たとえ夢でもフェイトの体は危ういだろう。
━━逃げるくらいなら、始めから助けになんて来ない。
その真っ直ぐな言葉と瞳。武器を持たずに、あえてよけ続けるだけの相手を見通しての戦い。自らの腕を盾にして自分を守る自己犠牲の精神。
それはまぎれもなく、ドリの憧れるフェイトの姿であった。
「やめてっ!!」
ドリはこれ以上傷つくフェイトを見ていられなかった。フェイトももう1人のフェイトも、初めて聞く彼の強気な声に驚き、動きを止めた。
「ドリ、今の内に」
「違う……君はフェイトじゃない……」
ドリがフェイトの腕から降り、フェイトの手を魔法を使って回復させていく。
もう1人のフェイトがクククと不気味に笑い始めると、その姿を変貌させていった。
(8:再戦、夢魔ドリームメーカー(前編)了)




