7:再戦、夢魔ドリームメーカー(後編)
ギルドへと向かうその途中道での出来事である。昨日出会ったばかりのムクロポート達を、少し遠目ながらも見つけたのだ。
「こんにちはー!!」
ミコトはやはり機嫌が悪そうだったが、1度話したことや、エルルの意味深な言葉もあり、フェイトは3人へと話しかけに走った。
「またお前か。何か用か」
挨拶もなく返される冷たすぎるムクロポートの返答のダメージにうっ……とフェイトが片足を1歩後ろに下げたが、フェイトは怯みを抑えこみ、笑って首を傾げた。
「こんにちは。フェイトさん、ですよね?」
「は、はい。そうですエルルさん」
「いやぁすみません。年なもので中々人の名前を覚えづらく……」
「ジジイってのは可哀相な宿命だなぁ。ケッ、笑わせるぜ」
「おすわり!!」
「ワンッ!!」
フェイトが指示を出すと、逆らえないミコトはまたもや鳴き声を上げ、その場にしゃがみこんで両手を付けた。
その様子を見て、ほくそ笑み返すかと思われたエルルが、驚きを隠せない表情をして数秒間口を無防備に開けていた。
「まさか。お前、彼女と契約を?」
「文句あんのかジジイ!?」
「……いいえ。むしろ感心してますよ。お前のような人間が他人と契約を、それも重要部位にするようになったとは」
片手を口元に持ってきてクスクスと笑う。エルルの様子がミコトは馬鹿にされた様に感じたらしく、またもやエルルにグチグチと言い返した。だが、エルルの笑う様子は、息子の成長を喜ぶ父親のように温かく感じた。
フェイトも思わず微笑んで見ていたが、ムクロポートとエルルの隙間から、その場に眠り込んでいるドリを見つける。
「ドリさん!?」
「ソイツはいつもそんな感じだ。気にするな」
「いつも?」
立ち上がり、ムクロポートやエルルに向けてフェイトが首を傾げると、エルルが説明を始める。
「彼はストレスに弱く、疲れてしまうと、私達の予測しえない時に眠りについてしまうのです。本来、彼をこうして戦場に連れて行くのは明らかに有り得ないのですが、彼は不思議な魔法を幾つも持っていてその魔法が強力なので、私達についてもらっているのです」
「まぁ、それにしたってこうしょっちゅう寝られると邪魔以外の何ものでもないがな。コイツが会いたいヤツがいるから連れてってくれって言ってうるさかったんだ。お前ら連れてくか?」
「こら! ムクロ!!」
「何だ? じいさんも一緒に行きたいのか?」
「あなたって人は……」
「あの……彼って、人なんですよね?」
フェイトの質問に、ムクロポートに気を取られていたエルルは最初気づかず、代わりにミコトが答えた。
「あったりめーだろ。変な着ぐるみ被って、着ぐるみの表情まで変わるのは気色悪いが、人間じゃなかったらもっと気持ち悪いぜ」
ミコトの言葉でフェイトの質問に気付いたエルルがうなずいた。
面白がったアントニーがかぶさっていたかぶり物を外すと、そこから現れた顔は白い肌で端正な顔立ちであり、髪は肌とコントラストを作るような黒い前分けであった。
その姿はまるで、夢の中の男性だった。フェイトは、思わずドリを強く抱きしめた。
「ふぇ、フェイトちゃん……!?」
これでもかと言う程固く抱きしめていると言うのに、ドリは苦しそうな声1つ上げず、死んでいるかのように穏やかに眠り続ける。ドリの生を確認出来るのは、フェイトの耳元にかかる微かな寝息のみだ。
「どうしたら……」
フェイトの様子にエルルやムクロポートもおどろき、エルルがフェイトに、「知り合いですか?」とたずねると、フェイトは夢で同じ青年と出会った話をした。
「……となると、夢魔ドリームメーカーはドリなのかもしれませんね」
「ドリさんが……?」
「あなたが見る夢にバクが現れ、それを退治した辺りが……。次いで、ドリの不思議な力は、いつも壮絶な戦いの夢に出てきたものや、悲しい夢の中で願ったものが出てくると言っていましたから」
「すっげぇ。それ最強じゃねぇか」
「夢で願うのは彼自身ではなく、夢の中の彼なんですよ? ですから、彼の得る魔法はとても断片的ですし、その魔法と引き換えにこの眠りがあるとしたら。お前はたえられますか?」
「それは……まぁ……」
珍しくエルルの言葉に言い返すことの出来無いミコトは、申し訳なさそうに、フェイトの腕の中で眠るドリの方を見た。
「……けれど、もし彼が本当にドリームメーカーだとしたら。フェイトさんがドリを救うことが出来るかもしれません」
「私が?」
フェイトが希望に満ちた瞳でエルルを見ると、期待に応えるようにエルルもニコリとうなずいた。
「今は丁度夢の中ですし、あなたも魔法で寝かせればどうにか出来るかもしれません。とにかく、夢の中の彼と話し合って欲しいのです。今の彼は、とても自分に否定的ですから」
エルルの言葉に、ムクロポートも両手を組んで小さくうなずいた。
「夢っスか……あの、エルルさん。俺達昨日夢喰いバクを夢でゲットしたんですけど。バクがいたら、夢に良くも悪くも変動してくれるんじゃないスかね?」
アントニーが片手を上げてエルルにたずねると、エルルが、「おおっそれは!」と頼もしそうな表情で老眼鏡を指で上げた。
「彼は何度でもこうして眠ってしまいますし、1度試す分には良いと思います。ギルドも目の前ですし……ムクロポート、足速いでしょ?」
エルルがニコリと笑って両手を口元で合わせると、目つきの鋭いムクロポートが小さくため息をこぼして1人ギルドへと向かった。
「す、凄いですね……あんな風に頼みごとが出来るとは」
ライトレットが、ムクロポートが見えなくなった後で呟く。
「ええ。彼女は悪い人ではありませんから。……ただ、ちょっと独りよがりなだけなのです」
エルルは、ムクロポートの走っていったあとを寂しそうに見つめたが、今は切り替えなければと両手をパンッと合わせた。
「ムクロポートはすぐにやって来るでしょうから、先にあなたを眠らせておいてもよろしいでしょうか?」
フェイトはドリのことで頭がいっぱいになっていた。エルルの問いに、ブンブンと首を縦に振る。
「分かりました。……それじゃあ! 夢の世界へご案な~い!!」
エルルが笑顔で両手を合わせた瞬間、フェイトの意識がブツっと電波が途絶えたように消え、夢の世界にすぐさま転移された。
魔法によってなのか夢の加減なのか。今回の夢のフェイトの体は透けておらず、意識もはっきりとしている。これが、魔法によって眠らせた時と自然に眠った時の違いかと、フェイトが驚きに飛びはねる胸を優しく撫でた。
「……あなたの運命、今変えてみせましょう」
誰もいない灰色の空間で、1人フェイトは言った。
(7:再戦、夢魔ドリームメーカー(後編)了)




