6:赤鬼サイボーグ(前編)
「あーもう胸糞悪ィ!! さっさと出ようぜ」
「もうちょっと待って。あとこのバクを連れて行ってもらってるんだから。銀行にいくら入れてもらったかとか確認しなくちゃ」
「へぇ~。ねぇフェイトちゃん、そう言うのってみんな懸賞金一緒なの? 俺の時とかどうだったのかなぁ」
ぴょんっと子兎のように飛びはね、フェイトの前へとアントニーがやって来ると、フェイトに甘えるようにたずねた。
「いいえ。ここに討伐レベルがありますよね? これがそれに関係してきます。アントニーさんは姿形が不明でしたから、とても高レベルなAAです」
人差し指をピンっと立てて、説明口調でアントニーに答える。
「あれだけ危険な目にあってレベルや懸賞金安かったら困りますよ……」
ライトレットの呟きに、フェイトがライトレットの隣に移動して2回頷く。フェイトの動きにアントニーは腹が立ったらしく、ただ呟いていただけのライトレットの頭を叩いた。
「え、ええ!? 何で!!?」
両手でとっさに頭を押さえ、ライトレットはアントニーを中腰状態で見上げた。ライトレットそのものが、アントニーに対して叩かれるようなことを言ってい無いのだから、驚くのも無理ない。
手続きをするために、フェイトがまたギルドカウンターへと向かい、ギルド店員と会話する。そこに1人暇そうにしていたミコトがフェイトの隣へとやって来た。
手続きは、ムクロポートが自身の持つ威圧によって、フェイトの手続きに割り込んで入って来てしまったので少し遅れていたが、ようやくこの長い作業も終わる。作業をするので1番大変なのはギルド店員達だが。
「次はどうするつもりなんだ?」
「うーん。いっぱい増えすぎて何だかなぁ……討伐依頼のこの子達が私達の前に来てくれたら良いのに」
「まー、そうすりゃ楽だよな。ギルド近いし。そういや、討伐リストも遠いのとかいるし、遠ければ遠い程こっちに持ってくるのだりーな」
ミコトの心底けだるそうな様子に、フェイトがプッと吹き出してしまう。いきなり吹き出して笑ったフェイトをおどすかのように、「ああん?」とミコトがにらみつける。
「ギルドは別にここだけじゃないよ。ギルド本店はオワリにあるから。ここは支店で、支店は他にも数店あるらしいよ」
「んだよさっさと言えよ。お前はいっつも言うのがおせーんだ。だから、お前と口で契約をしなくちゃいけなくなるわ、絶対服従だわ……」
「おすわり」
「ワン!!」
ミコトも言った通り、今のミコトはフェイトの唇に契約してしまい、フェイトに対し絶対服従をままならなくなってしまっている。おすわりと命令されたミコトはすぐさま謎の不可抗によってしゃがまされた。
「……お前、契約解消したらゼッテー殴ってやる」
「その際は倍返しで殴り返しますのでどうぞご容赦無く」
八重歯をむき出しにしてフェイトに怒るミコトだったが、アントニーがフェイトと仲良くしているミコトを良く思わなかったのか、ミコトのエリを掴んでギルドの外へと歩いて行った。
アントニーがミコトを連れて出て行ってしまったので、残されたライトレットは同じく残されたフェイトに、「それじゃあ、行きましょうかフェイトさん」と外へ出て行くことをうながし、マイペースに先に出て行った2人を追った。
ギルドを出てから、4人の話し合いの結果、一先ず1番近い町に最近出没する赤鬼を追うことに決まった。
「鬼かぁ~でも、二足歩行の生き物だろうし、今回は難なく行けそうかも」
「けど、それって男だろ? ……お前、本格的に男狩りするつもりか?」
ミコトがニヤリと笑ってフェイトをからかうと、思惑通りにフェイトが顔を真っ赤にしてカンカンに怒る。
「ちっがう! 今回は事件解決と賞金狙いですっ!!」
フェイト自身もミコトが言っていることはからかいだと分かっている。分かっているのにこんなに激しく怒ってしまう自分にまた虚しさを覚えてもいた。
生まれてこの方、父親や師匠以外の男性とこうして深く絡んだことが無いため、フェイトは今の男性に囲まれている現状にどうしたらいいのか困り果てている状態なのだ。
「どうかなぁ。怪しいぜ」
ミコトはどんどん顔を赤くするフェイトをこれでもかと追い込むが、その会話を間に受けたアントニーが、「フェイトちゃんはそんな子じゃない!!」と全力否定する。
またミコトとアントニーの意味の無い喧嘩が始まった。フェイトは自分と言う対象から、話がそれたことに安堵した。
「あはは……いきなり男の人ばかりで、リグレットさんがいるとはいえ、フェイトさんも大変ですよね。俺は男なので気が楽ですが、フェイトさんの身になると少し辛そうですから」
フェイトの身を案じてか、ライトレットが小声で話しかける。どちらかと言えば控えめで、後ろ側にいるライトレットはどうやら人の気持ちを察してくれるらしい。
これが以前フェイトの足に契約をしてきた変態だとは思えない程の温かな言葉だった。その優しさにフェイトは感謝して、2人には気づかれないようにニコリと笑い、お礼の代わりに1つ会釈した。
フェイト達がこうしてのどかに笑っていられるのも今の内だけであった。
村に到着すると、それまでの楽しそうなフェイト達の様子が一変した。
村は血の水たまりをいくつも作り、人々は残虐な程に切り倒されていた。倒れている人々は年も性別も関係無い。
それだと言うのに、家畜には一切傷が無く、状況を理解出来ていない家畜達は心無く何度も鳴く。
「どうして……?」
瞳を大きく揺らしてその惨状を疑いの目で見つめる。この状況にはさすがに、自分中心なミコトや、フェイトしか見えていないアントニーでさえ、眉間にシワを寄せた。
そんな中、動き出したのはミコトだ。慎重に歩き、周りに他に気配が無いか確認して辺りを見渡す。倒れる人の前へと行ってしゃがむと、手袋を脱いでそっと倒れる人の首に手を当てた。
「……ん?」
ミコトが何か思ったのか、更に近づいて触ろうとした時、ミコトの触れた人物がバッと起き上がり、大声を出してミコトに襲いかかった。襲われたミコト、そして、それを呆然と見ていたフェイトまでもが悲鳴を上げる。
「……はっはっはっはっ、いやぁ、いい反応してくれるねぇ!!」
その人物がゲラゲラと笑い、片手を上に上げて合図する。すると、他の人物達も起き上がり、今までこらえていたのか、村人全員笑い出した。
「テメェ等……まさか演技かこの!!」
安心したミコトが男の村人達の背中を殴って、村人に混じって笑い飛ばした。全くのんきなものだと拍子抜けしたフェイトは、はち切れた恐怖や緊張に、その場で大泣きして村人達に駆け寄った。
「本当に死んじゃったんじゃないかっておもったんですからぁ!!」
わんわん泣きじゃくるフェイトに、村人達がこぞってごめんねとフェイトの元へと集まり、頭をなでたりフェイトを優しく抱きしめたりと温かく迎えてくれた。
「フェイトちゃんってば可愛いなぁ。……けど、どうしてわざわざ全員でこんなことを?」
「おう! この村では地域活性化のために毎年村人全員で何かしようって決めてるんだ。今年は、夏の間だけはこうして納涼も兼ねて全員死んでみようと思って!!」
フェイトがそれを聞いて余計に、「酷いひどい!」と声を上げて泣く。
「もしそれで勘違いした方がいたら、活性化どころじゃなくなると思いますけど……」
「本当だぜ。騙すんならもっとシャレになることをしろよな。この密度の高さで、結局納涼出来てねーしよ」
男性陣の言葉や、泣きじゃくるフェイトに、村人の男性は「スマン……」と頭を掻いて苦笑いした。
「フェイトちゃん。赤鬼のことそろそろ聞こうよ」
アントニーの言葉に本来の目的を思い出したフェイトが、赤くなった目で村人達に赤鬼のことを尋ねる。多くの村人が知らない答えたが、小さな少年が手を上げた。
「知ってるの!?」
「うん。見た目は人だったけど、黒い髪の人があの人の事鬼って言ってたから」
すみませんと何度も謝りながら、村人達をかき分けて少年の元へと行くと、少年が話を続けてくれた。
少年が友人と遊び、家に帰るのが夜遅くになってしまった日のことだそうだ。村の端の方で、黒髪に白いメッシュの混ざった白衣を着た男性が、赤髪でスーツを着崩している男性と話していたらしい。
白黒髪の男性も赤髪の男性も、この村の人間では無かった。急いで家に帰ろうとした少年だったが、見知らぬ2人が気になり、その後も様子を伺っていた。
白黒髪の男性は赤髪の男性に村を今夜狙うようにと命令していたそうだ。そして、白黒髪の男性が赤髪の男性を作った、と言う意味深な言い回しもしていたらしい。
「作った……?」
お前やっぱり友達の家に泊まってたんじゃないのかい! と、母親にゲンコツを入れられている少年をよそに、フェイトが作ったの意味を考えようとする。だが、元々筋肉で出来たも同然の汗臭い脳である。全く真相にたどり着きそうに無い。
「とりあえずそりゃあここでソイツが来るのを待って倒せば良いんだろ? 簡単じゃねぇか。な? フェイト」
「うん!」
考えてもキリが無さそうだったので、とりあえずフェイトは目の前の問題を解決することにした。
(6:赤鬼サイボーグ(前編)了)




