5:夢魔ドリームメーカー(前編)
フェイトが目を覚ますと、そこはどこまでも続く灰色の空間だった。
灰色と言っても、決して灰をかぶっているわけではない。ただただ灰色で、終わりの見えない空間。他にある色と言えば、フェイト自身の色と、フェイトの下に出来た黒い影のみだ。
空間を見渡して、筋肉質な脳みそで状況を考えるフェイト。
「もしかして、夢!?」
フェイトは夢の少年に会えるのではと嬉しさのあまり飛び上がった。
しかし、真っ白な空間はあの病院とはまったく似ていない。これが夢だとしても、まるで少年の夢と関連があるとは思えなかった。
「こっちだよ」
聞き覚えのある幼い声にフェイトが振り向いた。そこにいたのは、フェイトが見た夢の中にいた女の子である。どうやら、少女には色が付いているようだ。フェイトは安心した。
「君は、あの男の子と一緒にいた……」
女の子の背に合わせようと、フェイトはしゃがんで女の子の目を見た。
「あのね、私はお姉ちゃんなの」
「お姉ちゃんって私のこと?」
「うん。それで、あなた、お姉ちゃんは私なの」
身振り手振りで女の子はフェイトに言う。フェイトは目を見開いて驚いたが、不思議なことに女の子の言うことが間違っている気はしていなかった。
ただ、幼少期のフェイトは、山小屋で師匠と特訓をしていた記憶が強い。健康体の彼女に病院なんて無縁である上に、このような可愛らしい服を着た覚えも無い。
「でもね、私はあくまでお兄ちゃんの夢の中のそんざいでしか無いんだ」
「え……」
「お願いお姉ちゃん! 私じゃお兄ちゃんに気づかせてあげられないの! だから、お姉ちゃんが気づかせてあげて! お兄ちゃんの思いしだいで、ウンメイは変えられることを!!」
幼いフェイトは今のフェイトの両手を握り、フェイトにお願いした。その小さな手の温もりを包み込むように、フェイトはその手を強く握り返した。
「分かった。絶対に気づかせてみせるよ」
女の子……幼いフェイトが、「ありがとう」と無邪気な笑みをフェイトに見せると、幼いフェイトは光に変わり、その光がフェイトの全身へとまとわりついた。
フェイトがハッとすると、せまい視界から見えるのは青々として爽快感のある森の中だった。先程の灰色の景色とは違い、何もかもに色が付いている。夢の記憶をたどりながら奥に目をこらしてみれば、少年がいた病院も少しあればたどり着く距離だ。
「何この格好……」
いつの間にか、フェイトの格好は全身がクマの着ぐるみとなっていた。どうりで暑苦しいとフェイトは誰もいない森でため息を付く。着ぐるみを何とかして脱ごうとするが、体に直接へばりつき、力を込めると全身に痛みが伴ってしまう。着ぐるみを脱ぐのはとりあえず諦めることにした。
「仕方無い。刀は一応あるし……」
その時、病院に轟音と悲鳴がわき起こった。フェイトが視線を移せば、さっきまでの病院の景色が壊されていた。原因は病院の数倍はある、象のように鼻の長い魔物が一気に踏みつけたからだ。
「まさか、アレがドリームメーカー!?」
踏みつけた後に上げた足からは建物の破片が見えた。 こうしてはいられないと焦ったフェイトが、車のような速さで森を駆け抜け、まだ残っている建物の中の人々のもとへと向かった。
建物へと着けば、つぶされた建物は、見るも無残な状態。夢と言えど、フェイトは悲惨な光景に唇を強く噛んだ。
「でも、今はみんなをどうにかしないと……」
フェイトが中へと入っていくと、中ではまだ残っている人々が建物の後ろでくっついて泣きながらフェイトを見る。大丈夫ですよと人々を落ち着けさせるものの、その中にはあの少年はいない。
「……あの、こちらに入院していた黒髪で優しそうな男の子は……」
「あの子も連れてこようとしたのですが、部屋にいると言って聞かなくて……私一人では連れてこれなくて、ここにいることしか出来なくて」
「何号室ですか?」
「620号室です……」
「連れてきます!」
フェイトが走って部屋に入ると、少年は普段と変わらない様子でベッドに座り、外の世界を窓ごしに見つめていた。
「何をしているの!? 早く逃げないと!!」
「無理だよ。もう、あきらめるしかないんだ。だったら、怯えて死んじゃうより、1分、1秒だけでもいつも通り生きてる方がいいじゃないか。……って、着ぐるみ?」
「コラッ!」
「え……?」
「信じる前からあきらめてるようじゃ、この状況だって、君の病気だって治りやしないよ!!」
「何で病気のことを……」
「もっと自分を信じて向き合わないと駄目だよ。私は信じるよ。私自身を」
そう言うと、フェイトは部屋を飛び出し、自分よりはるかに大きい魔獣に峰を向けた。
「たとえ夢の中だとしても、こんなふうに多くの人を悲しませるなんて御法度! あなたの運命、今変えてみせましょう!」
(5:夢魔ドリームメーカー(前編)了)




