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桜さんが部屋から出ていった後、
私は腕の中から消えてしまった温もりを求めるように
自身の身体を抱きしめてみた。
けれど、やっぱり彼女の温もりは得られず、
微かな残り香に顔を埋めてから
そっとため息をつき、
全身の力を抜いてパタンとベットに横たわる。
自身に回していた腕を解いて、片腕を目の上に置いて瞼を暗闇が覆い尽くす前に自分で閉じると、
ベットから降りた時に見た彼女の下着姿が目に焼き付いて離れない。
きれいな曲線が
しなやかな手足が
さっきまで私の腕の中にあったのに
あーーー
先輩の奥さんかぁーーー
いいなぁーーー先輩
はぁ、と深く息をはいて。
よし!と自分に気合いを入れて気持ちを切り替えて起き上がり、
服を着ていく。
それでも、今着ている服を、昨日桜さんが脱がせてくれてるところを想像して、勝手に恥ずかしくなってしまったり。
それを覚えてない自分が悔しかったり。
いつもより時間がかかってしまった着替えを終えて、
近くにあった鏡をみて、
いつもと変わらない、表情の乏しい自分の顔をみて何も変わってないことを確認すると
寝室を出てリビングへと向かった。
廊下からリビングへと続くドアを開けると
ソファーに座ってコーヒーを飲みながら新聞を広げている先輩と、
カウンターキッチンで朝食の準備をしている桜さんという、
ごく自然な夫婦の雰囲気が漂っていて、
その空間に足を踏み入れていいのか一瞬躊躇ってしまったけれど
私がドアを開けたのに気付いた先輩から
「橘おはよう。
二日酔いとか大丈夫か?」
と声を掛けられたことで、私の体は動き出し、
先輩の側まで行って
「先輩おはようございます。
昨日はご迷惑をおかけしました。
途中からの記憶がないですが、二日酔いは大丈夫だと思います。ありがとうございます。」
と、頭を下げる。
先輩は笑いながら
「こっちこそ悪かったな!
顔色変えないで普通に飲んでるように見えたから、まさかあんなに酔ってるとは思わなくてな。
気付いた時には遅かったんだよ。
まぁ、初めての飲み会だったみたいだから、お酒の加減とかもわからなかったんだろうし、まずは気心知れた奴と飲んで、自分の大丈夫なラインを覚えた方がいいだろうな。」
そんな言葉をもらったけれど、
気心の知れた人というのが自分の中で誰も思い当たらない。
どう答えようか悩んでいると
先輩は変化の乏しい私の表情に、何か感じるものがあったのか
「ま、もし飲む相手に悩むなら俺が付き合ってやるよ。
あ、下心とかないからな?俺は桜一筋だからな!
呑む時は家飲みだからな!」
と助け船を出してくれた。
先輩は本当にいい人だと思う。
そして桜さんは愛されてるんだなぁとすごく感じる。
朝食の準備が整ったようで、桜さんは私たちの会話を聞いてクスクス笑っていた。




