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レベル16 なんちゃって潜入

 ロワが執務室から消えたのと同時刻に、ヒイラギとヴァニタスは海岸に来ていた。


「にしても、綺麗な国だよな。国民たちも元気だし、良い国だな」


 ざざーんと波の音が心地よく響く波打ち際。伸びをしながら笑うヒイラギの横で、ヴァニタスはそうだねと適当に相槌を打っている。


「そう言えば、この国に現れた幹部ってのは今どこにいるんだろうな? もう殺されたのかな? 確かギムレットの兄ちゃんが相手したんだろ?」

「死んではいないみたいだけど、ちゃんと生きているってわけでもないみたいだよ」

「ふうん。

この世界の海って不思議だよな。塩水じゃないんだもんな。」

「話題の変え方が本当に雑だね」


 じっと海を見つめながらヒイラギが笑う。


「この水、キラキラしてんぜ? どういう成分なんだろう。魔力も若干感じるし…」

「この世界の自然物、主に大地、海、空には魔力が分散されているんだよ。それでバランスを取っている。

余った魔力が結晶になったのが奇跡の花。その奇跡の花の漏れ出す魔力に中てられて生まれたのが魔石って何度も言ってるでしょ」

「そうだっけ? でも奇跡の花って故意的に石に魔力を宿らせられるチートなモンなんだろ? どうやって宿すんだろうな? 奇跡の花に意思でもあるのか?」


 海水を掬いながらヒイラギがヴァニタスを見上げる。

 ヴァニタスはからりと笑って空を見上げる。


「それまで教えちゃったら、お前はこの世界を全知してしまってまたつまらない日常に舞い戻ってしまうよ。

 そのくらいは自分で考えな」

「そうだったな。頑張るわ」

「ま、お前の事だからもう答えなんてわかってるだろうけどね」

「先生はオレを買いかぶりすぎだよ」


 よいしょ、と立ち上がりながらヒイラギは足元に散らばる貝殻を一つ拾う。


「で、次はどうする? どこへ観光しに行く?」

「お前の行きたいところに行くといいよ」


 先生ってそればっかだな、と不足そうにヒイラギがごちったのと同時に、大きな爆発音が響いた。


「喧嘩か?」

「この世界の喧嘩が毎回こんな爆発するんじゃ、この世界は滅んじゃうよヒイラギ。」

「あ、そっか。ここの世界ってモンスターだけじゃねえもんな。

とりあえず行ってみようぜ。何か面白いことがあるかもしんねえよ?」


 タタッと駆け出すヒイラギに、ヴァニタスは「本当に好奇心旺盛だね…」とため息を吐き後を追ったのだった。


◇◇◇


「やりすぎたか」


 爆発の現場にはちょっと反省した顔をするロワがいるのである。現場は街外れにある貴族の家である。玄関からもくもくと立ち上る真っ黒い煙。

 ロワの手には手榴弾が握られており、あちゃーとその手榴弾が爆発したであろう場所を見ている。

 そう。ヒイラギ達の聞いた爆発音の原因はこの国の王であったのだ! ぶっ飛んだ国である!


「にっしても、どの世界にもあるもんだね。マフィア。

いっそのことこの世界でもマフィアを乗っ取った方が楽だったりしてね」


 爆発で焼けた現場をのんびりと歩きながらロワは笑う。

そして、爆発によりボロボロになった鉄の扉を蹴り開けてロワはもう一度その中に手榴弾を投げ込む。

 悲鳴が聞こえた直後また大きな爆発音が響く。


「さてと。この世界のマフィアは何を探っていたのかな」


 焼けた死体がゴロゴロと転がる部屋の中に表情一つ変えずに入り、ごそごそとあちこち漁り出すロワ。流石である。やることがえげつない。人を殺すのを何とも思っていないからこそできる奇行である!


「麻薬に金貨、武器密売の後に…この辺にはないはずの魔石…。ふうん。やってることはどの世界でも同じってわけね。」


 焼けた麻薬の残骸や、散らばった金貨等を足で転がしながら奥へと進む。

 進みながら腰から拳銃を取り出し弾を確認する。


「玄関前に二人の警備、玄関を入るとすぐ見える鉄の扉、その先には怪しげな取引現場あと、現場あとには十数人いてこの建物は二階建て。持ち主らしきやつはいなかったから…恐らく二階に逃げたのかな。」


 壁越しに次の場所の安全を確認しながらぶつぶつと呟く。潜入捜査にしては派手だが、警戒は怠らないらしい。

 次の場所に誰もいないと目視で確認したが、ロワは手榴弾を一応投げ入れた。ドォンと大きな音が巻き起こり、音が静まると次は確認もせずすたすたと出て行く。


 爆発の起きた場所には二人の焼けた死体が転がっていた。どうやら隠れていたらしい。

ロワはそんな死体を冷たく一瞥し、廊下を進む。そして、二階へ続く階段を見上げる。


「気配的に上には五人…いや、六人か」


 ふんふんと勝手に納得して拳銃を腰に戻して懐からナイフを取り出す。

そして一気に階段を駆け上がるが足音は一切しない。駆けあがった所に一人見張りが居たが、音もなく上がって来たロワのせいで反応が遅れ、喉元をナイフで掻っ切られたのである。秒殺である。

 次にロワは曲がり角まで進むと壁越しにその先の様子を窺う。突き当りには部屋があり、そこの扉の前にはいかつい男が二人立っている。


 ロワはナイフから拳銃に持ち替え、壁から一気に飛び出す。

 ダンダン、と拳銃を撃てば見張りの二人の眉間に穴が開く。サプレッサー付きの拳銃だった為部屋の中まで銃声は聞こえないだろう。問題は見張りが倒れる音である。

 しかしロワは素早く移動して倒れかけた見張り二人を受け止めて音が立たないように床に転がした。


 次にロワは拳銃の弾の数を確認し、なんと扉をノックしたのである。


 ノック後、部屋の中から一人が顔を出す。


「なんだ…っ、誰だ!?」


 出てきた一人は途中で言葉を無くし慌てたように拳銃を取り出そうとする。が、ロワの方が圧倒的に早かった。

 少々小さめのサイズの手榴弾を出てきた男の口に突っ込み廊下に引きずり出し突き飛ばす。それと同時に爆発音が聞こえる。えげつない殺し方である。


 騒ぎを聞きつけ部屋の奥から出てきた残りの一人の眉間を拳銃で的確に打ち抜いてたったかと奥へと進む。


「ふうん。表では貴族で裏ではマフィアの幹部ってところ? さてさて? ボスは一体どこにいるんだか…ってありゃ」


 奥の部屋を開いたところでロワは舌打ちをする。


「素早いネズミだね」


 その部屋には誰も居らず、窓が開いているだけであった。開いた窓から流れ込む風に真っ白のカーテンが揺らぐ。

 ロワが窓の外を見るが誰もいない。完全に逃げられたようである。


「ノヴァビスを連れてくるんだったね」


 失敗したとため息を吐いて、ロワは二階の窓から外へ飛び降りた。


「人間なのに、随分と危ない事をするんだなロワの兄ちゃんは」

「あ? ってなんだ、ヒイラギか。どうしたのこんなところで…って、なにそれ」


 着地したところで声がかかった。ロワが見上げればにこにことヒイラギが立っていた。そのヒイラギは先程二階から逃げ出したであろう男を引きずっていた。


「いやな、爆発音が聞こえたから来てみたらこの男が出てきてな? どうしたんだって聞こうとしたら拳銃向けられ発砲されちまってよ。オレも先生も怪我はなかったんだが先生が怒っちまって。こいつの事ぶん殴って気絶させちまったんだよ。多分アバラ数本はいってんじゃね?」

「ふうん。ま、なんにせよ礼は言っとくよ。そいつはねマフィアの幹部だと思う。ちょっと調査してたら逃げられてね」


 ヒイラギの引きずっている男を見ながらロワは肩をすくめる。


「ちょっとー、憂さ晴らしにこの家の者皆殺しにしようとしたら全員死んでるんだけど?」


 そこでロワが飛び降りた窓からヴァニタスが顔を出した。


「ロワの兄ちゃんが皆殺しにしたってとこか?」

「そ。怪しいやつは皆殺しがモットーだから」

「先生みたいなこと言うよなロワの兄ちゃん」


 わはは、と楽し気に笑うヒイラギ。そして引きずっている男を見て、こいつどうすればいい? とロワに問う。


「俺に譲ってくれればいいよ。それより、そろそろ城に戻ってきていいよ。仕事も一段落したしね」

「仕事って、王様は人殺しが仕事なのか」

「さあ? ただね、国に不利益なものを処分するのは王の仕事だと思うよ?」

「殺さずともよかろうに…」

「怪しいやつは皆殺し。言ったでしょ。それが俺のモットーだって」


 さ、城に帰るよとロワが歩き出す。どうやら逃げ出した男を捕まえられて機嫌がいいらしい。

会話が終わるのを待っていたヴァニタスも二階から飛び降りてきて、どうするのとヒイラギを見る。


「ロワの兄ちゃんについていくのが得策だろ」


 行こうぜ、とヒイラギが歩き出す。ヴァニタスはため息を吐いて、この屋敷どうするのとロワに問えば、


「証拠をかき集めたら燃やすよ。あ、この屋敷に変な奴が入らないように術をかけられるなら一応かけといてくんない? 荒らされると面倒だからさ」


 ひらひらと手を振りながらそんな言葉が返って来る。


「先生丁度レベル100だよな? よろしく」

「ええー…」

「減るもんじゃねえしいいじゃん。な?」

「仕方ないなー、もー…」


 渋々と言った様にヴァニタスが屋敷に術をかける。ヒイラギはずりずりと男を引きずりながら、この男引きずったまま街の中歩くの嫌なんだけどとロワにごちる。


「街に行けばノヴァビスがうじゃうじゃいるでしょ。つーか、お前が連れてったノヴァビスはどうしたの?」

「あのロボットノヴァビスっつーの? オレが借りたやつなら確かもう少し先で待たせてあるけど」

「じゃあその子に持って行ってもらえばいい。」

「あのロボットマジ有能だよな。話し相手にもなるし。一機欲しいくらい」

「あの子達の中でヒイラギについて行きたいって子がいるなら好きに連れてっていいよ」

「マジで? じゃあ気合い入れて懐かせよ」


 からからと楽し気に笑うヒイラギに呆れたようにため息を吐くロワ。そこで待たせてあると言うノヴァビスが見えてきた。色は水色である。


『おーさまだー! なにしてるんですかー!』


 ロワ達に気付いたらしいノヴァビスが機体を揺らしながらロワ達の周りをうろうろし始める。


「ちょっとね。それよりこの男を城まで運んでくれない?」

『お任せください~! 頑張っちゃいますよ~!』


 ロワの指示で嬉しそうにヒイラギから男を引き取りビューンと城の方に走って行くノヴァビス。そんなノヴァビスを見送りながら、じゃ、俺らも行こうかとロワが歩き出す。


 この後、ヒイラギ達が旅立つまでにこの国でちょっとした騒動が起きるのだが、それはまた別の話になる。

 ロワが王になり、他の勇者達が立ち寄るたびに何かしら起こるこの国は、いつまで平和でいられるのだろうか! もしかしたら、騒動が起きることにより平和が確立されているのかもしれない!

 なんにせよ、勇者たちの巻き起こしたやらかしの波及は良くも悪くもすごいのである!

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