レベル15 ヴァルム王国は目まぐるしい!
「生きたまま取り込む術を持ったと言う事ですか! 素晴らしいですねぇ!」
視点はロワとギムレットのところに戻る。
先程まで騒いでいたのだが、ノヴァビスが心配と言う事で城に戻ったのである。勿論原因であるギムレット一行も引きずられるようにして連れていかれたわけだが…。
テロスは何かを悟ったような目になり遠くを見つめたままである。冒頭のセリフを言ったルーチェと再会してからは完全に別の次元を見つめていると言う目になっている。
ルーチェはテロスを見ると元気でしたか!と飛びついたのだがテロスは無であった。
そして、緑のノヴァビスに起こったことをロワが説明すれば一気にルーチェの興味はノヴァビスに移りノヴァビスの周りをくるくるしている始末である。
「どこかおかしい所はありますか?」
『ないよー!』
「なら大丈夫ですね!」
「おい」
ぽんぽんとノヴァビスを撫でながらルーチェは満足そうに笑う。ロワがそんな簡単に大丈夫と言うなと不足そうにため息を吐く。
「ですが幹部を取り込んだとは興味深いです…魂のみ生かした状態…もしかして、もう一度その幹部とやらを具現化させることとかできますかね? ほら、そうすれば人質になるし主導権は緑さんに握らせておけば…」
「神様としてえげつないこと言うのな、お前の相棒」
「誰の事でしょう」
わっくわくと目を輝かせるルーチェを見てギムレットがテロスに声をかければ、テロスはいい笑顔で知らん顔を決める。
『具現化ー具現化―…残念ながら具現化のデータが不足していますー!』
緑のノヴァビスがくるくると器用にその場で回転し出した答えはそれだった。
「具現化のデータ…具現化って創造に近いですし私がちょいちょいと教えてあげましょう!」
『わーい! かみさまさっすがー!』
とんとんと勝手に話が進んでいく。
「いいの? なんかすごい事始めようとしてるけど?」
「俺はね、ここの国の頂点になってから学んだんだよ。ルーチェは何言っても無駄ってね」
「学ぶのが遅いですよロワさん」
ノヴァビスになにやら仕込み始めたルーチェを示してロワに問うギムレット。
ロワは止める気は無く、テロスは死んだ目でそんな事を言うのだった。
「あなたたちは並列化しないの?」
『並列化したら誰が誰だかわかんなくなるからやらないことにしてますー!』
一方、カトレアは黒いノヴァビスにそんな質問をしていた。マイペースである。
◇◇◇
その頃、勇者を送り出したジンホア王国は大混乱に陥っていた。
それも仕方ないのである。送り出した勇者の内一人が別国の王になった等聞かされたら混乱するだろう。なにそれどゆこと!?状態である。
しかも送り出した勇者たちの内イトスギチームは消息不明、ヒイラギチームはギルドチームと城下町で堂々といざこざを起こし、唯一それっぽいギムレットチームは今どこにいるのかわからない状態。
「す、すぐにギルドメンバー達をヴァルム王国に向かわせ現状を把握させよ!」
「はっ!」
混乱した末に王はそんな命を出したそうな。ギルドメンバー達はよくある勇者御一行様の様に身近な問題から的確に捌いているため評判がいいとか何とか。
◇◇◇
「ごめん、なんて?」
「連れてっていいって言ってんの」
「なんで?」
「この子は学習し過ぎた。いずれこの国に居るのも飽きてしまうと思うんだよね。だから連れてってさらにこの子に色々学習させてあげてって言ってんの」
「ええ…」
「それに、幹部を取り込んだんだろう? 魔王につけ狙われる確率が高すぎる。この国に置いておくと国自体が狙われる可能性がある。
ようやく立て直して国民もほっと一息つけてる時期なんだよ。厄介事は舞い込んで欲しくないってのもある」
「それが本音か」
「まっさか。んなわけないでしょ。
ただし、この子を壊してみなよ。俺がお前の事殺すからね」
「無茶苦茶じゃんそんなの!!」
ルーチェが何やら緑のノヴァビスを改造している最中、ロワが思い出したように緑のノヴァビスを連れてっていいよと言いだしたのである。
ギムレットは目を白黒させるし、カトレアはよかったですねと楽しそうである。テロスは頭を抱えてその場に座り込んでしまっている。
「それに、あの子を連れて行けばいつでもこっちと連絡が取れる。国の近辺の情報やその他各地の動きもギム越しに把握できるんだ。
この国の使い走りになってってのが本音」
「それは別にいいんだけど」
「いいの? 素直じゃん助かるよ」
「そんなでかいロボット連れて歩くの目立つから、大きさどうにかしてほしいんだけど」
「ああ、安心しなよ。この子たちは大きさを自在に変えられるし、教えれば別の姿にも化けることだってできると思うから」
「チートじゃん…」
有能でしょ、と自慢げなロワを他所にギムレットが「もうそのロボット共でパーティ組ませて魔王討伐した方がはやいんじゃね…」と言ったのだが、それは確かに一理あったりするのである。
そんなこんなでロワに丸め込まれた…と言っては語弊があるが…ギムレット一行は次の朝にこの国を発ったのだ。
緑のノヴァビスはルーチェに色々改造されたのでさらに元気になっていた。
大きさも猫サイズになっておりカトレアが抱っこしているのである。
テロスは悪夢だ…と顔を覆って落ち込んでいた。ギムレットは有能なロボットゲットしたし色々楽になりそうと楽し気である。
「あの子は一体どのくらい強くなって帰って来るだろうね」
「とんでもなく成長するかもしれませんよー!」
そんなギムレット達を見送りながらロワは楽し気に笑う。ルーチェもわくわくとした様にその場でくるくる回っていた。
「ま、いっか。
ここ数日部屋に籠りっぱなしなレイナのとこ行ってくるから後よろしく」
「お任せください~!」
切り替えの化身、そして嫁バカなロワが王になってから、ヴァルム王国は随分と豊かになったそうな。
◇◇◇
ヴァルム王国にヒイラギ達が来たのはその三日後であった。
「で、魔王軍の幹部と会ったんだけどな、まさか同じくこの国に魔王軍の幹部が来てたとは思わなかったわ。
それとこの世界の仕組みとかも色々わかったんだけど、その前にこの国にある奇跡の花ってのを見せてはくれないか?」
「いきなり来ていきなり国民のいざこざを治めていきなり喋り出していきなり頼み事とはいい度胸じゃない。それに随分と楽しそうに話すね」
ヴァルム王国に来たヒイラギとヴァニタスは、来て早々やはりノヴァビスに纏わりつかれた。気にせず纏わりつかれたまま城へ向かう為国をふらふらとしていたら国民の間に起きている問題と激突し、流れる様にそれを解決して和解させ流れる様に城に案内してもらい流れる様に城の中に戻ろうとするロワを見つけ捕まえ今までにあったことを話したのである。
元気なのはヒイラギだけで、ヴァニタスはげっそりとしている。あれ以来ヒイラギは道中ちらほらと見かけるこの世界特有の花だの生き物だのに興味を持ちヴァニタスを放置したままここまで来たのである。
「あ、その前にこの国って元々はどんな感じだったんだ? よく立て直したよな。お前王としての素質があるんじゃねえか?」
「ちょっとは俺の話を聞いたらどうなの?」
以前のヒイラギの様に大人しいわけではない現在のヒイラギ。若干押され気味のロワがため息を吐く。
「あ、そうだよな。悪い。
じゃあ奇跡の花から…」
「やかましい!! こっちの都合がついたらにして!!」
「わかったわかった。そう怒んなって。
じゃ、観光してるわ。あの有能なロボット一体借りるな」
「お前そんな性格だったっけ!?」
ちゃっちゃかと切り替えてさっさかと城を後にするヒイラギにロワが悲鳴を上げる。
「化けの皮が剥がれただけだよ。あっちのが可愛いからいいでしょ」
「せいぜいちゃんと手綱を握っていることだね」
「アンタに言われなくてもわかってるっつーの。」
そんなヒイラギを追う様にのんびりと歩き出すヴァニタス。ロワはそんなヴァニタスに嫌味を吐いてさっさと城の中に引っ込んでしまった。
◇◇◇
「にしても、いつまでこの国に居ることになるんだかなぁ。レイナはよく飽きないよねぇ」
ヒイラギを見送ってから、執務室に戻り机の上に散らばった書類を見ながらロワはため息を吐く。その手には煙草が握られており書類仕事に飽きていると言うのがありありと表現されている。
「何やらジュエリーショップを開店させるために色々やっていると聞いていますがー?」
「そう。レイナって宝石大好きだから。あんな石ころよりも俺のがいい宝石なのにね?
やっぱり知らない世界にある知らない宝石は乙女心とやらをくすぐるのかねぇ」
「宝石が欲しいなら私がちょいちょいと生み出して差し上げますよ!」
噛み合わない会話を繰り広げつつ、いつの間にか執務室に入って来たルーチェがえっへんと胸を張る。
ルーチェの隣には真っ白のノヴァビスが居てルーチェを真似る様に機体を揺らしている。
「ヒイラギが言ってた奇跡の花だっけ? あれってそんなにすごいものなわけ?」
煙の立つ煙草を揺らしながらロワはルーチェに問う。
ルーチェはそうですねぇと少し考え、
「無限の魔力を秘めている珍しい魔石ってだけですよぉ? 魔力を必要としないロワさんたちにはあまり魅力的ではないでしょうけど、この世界では実に魅力的なもののはずですね!」
「そんなものがあるならこの国もあんな荒まずにすんでるはずだけど…。
もしかして王族共が独り占めしてたりしてんの?」
「ええ。各国一輪ずつ所持しているらしいですよ、奇跡の花。極秘情報らしく国民はその花の存在自体を知らないらしいですけど!」
ルーチェの言葉にふうん、とロワは目を細める。
「ヒイラギはその極秘情報をどうやって手に入れたのか…大方、あのヴァニタスとか言うやつの力なのかな。
ま、いいや。それよりルーチェ、仕事だよ」
「なんでしょう!」
灰皿に煙草を押し付け消し、ロワは立ち上がってにっこりと笑む。
「この国内にいる奇跡の花の存在を知り、悪用しようとしてる連中を一時間後俺の前に全員並べてほしいんだよ」
「お任せください! ではひとっ飛びしますよ! いきますよ白さん!!」
『了解しましたー!』
ルーチェはロワの言葉に敬礼で了承し、白いノヴァビスに一声かけてその場からいなくなった。テレポートである。
「一時間あれば、まあ終わるでしょ」
一人になったロワはくすくすと楽し気に笑い窓を開ける。そして窓枠に足をかけ身を乗り出す。強い風がビュウっと部屋に流れ込んだ次の瞬間、執務室には誰もいなくなっていたのだった。
更新日が安定しませんが、毎週日曜日には更新したい(願望)です。