レベル13 魔王軍幹部登場!
『ここが絶景スポットですよー!』
緑のロボットに連れられて来た場所はとても美しい絶景スポットである。
海の洞窟よろしく大きな岩に大きな穴が開いており、夕日がその穴にすっぽりはまるように見え、まるで海に浮かぶ洞窟に閉じ込められた夕日と言う絵面が拝める時間帯があるので、この国一番の絶景スポットになっているのだ!
「綺麗な場所だな」
『おすすめの時間帯は夕方ですよー!』
ふーん、とギムレットが辺りを見渡す。ロボットはきゃいきゃいと説明を始めるが、真面目に聞いているのはカトレアくらいだろうか。
『冬はですねー、稀に雪が降ることがあって、あの大岩が真っ白になった時の夕日は素晴らしいんですよー!
それとそれと、この先にある断崖絶壁に咲き誇るハイビスカスもすごいんですよー! おーさまが色々な色のハイビスカスを作ったから虹色の楽園って呼ばれてますー!』
機体を身軽に揺らしながら楽し気に話すロボットは見た目が可愛ければ女の子ウケするだろう。
現に、カトレアは随分とこのロボットを気に入ったらしく時たま撫でているのである。
テロスはルーチェを思い出すのか、あまりロボットの方を見ないのだが…。
「崖か。行ってみようか。」
「随分楽しそうですねギムレットさん」
「まあな。
断崖絶壁下は海って場所で、強敵に出会ったことがあったからデジャヴを感じてるんだよな」
「フラグって言うんですよそう言うの」
「知ってる」
からからと楽しそうに笑いながらロボットに案内を頼めば、ロボットは任せてくださいと得意気に機体を揺らしてシャーと自身の足であるタイヤを転がし進み始める。
「案外、敵が現れたりするかもしれませんよ。」
ロボットの上にいつの間にか乗っていたカトレアが空を見上げながら呟く。
ギムレットもテロスもそれに同意しながらロボットに続いたのだ。
◇◇◇
ロボットに案内されてきた場所は色とりどりのハイビスカスの咲き誇る美しいハイビスカス畑である。
海風も心地よく吹いており、昼寝をするにはもってこいの場所だろう。
『ここですー!』
ロボットが楽し気に花畑の前をうろうろし始める。
「綺麗なところですね」
「そうだな。昼寝して行きたいくらいだな」
ロボットから降りたカトレアは楽し気に花畑を見渡す。
ギムレットは昼寝をする気満々らしく木陰を探している始末である。
「そう言えば、このロボットって何て名前なんだ? テロスわかるか?」
「どうやら、ノヴァビスと言う機種名らしいですね」
「へえ…ノヴァビス…」
カトレアの傍に落ち着いたらしいロボットを眺めながらギムレットが珍しい名前だなと呟く。
「多分、ノヴァ…新しいと言う言葉とハイビスカスの一部を合わせた名前だと思いますよ。
ルーチェはハイビスカスが好きですからね…」
「あ、そう言う感じか」
どこか遠くを見つめて独り言のように呟くテロスはよほどルーチェと会いたくない様である。
そこで突然、のんびりとした空気がぴしりと凍て付いた。
しかしその場にいる三人と一機は何一つ焦ることなく、その場に合わぬのんびしとした動きで空を見上げる。
上空には、紫色の雲が渦巻いていた。花畑の上空だけに渦巻いている辺りがお約束の展開である。
「あの雲綿飴みたいだな」
「綿飴なら王道で白い方がおいしそうだと思いますよ」
「確かに。で? あれ何?」
「どうやら、魔王の部下の一人が起こしているモノらしいです。幹部クラスの者でしょうね」
「へぇ…ワンパンでどうにかできそう?」
「ノヴァビスに任せておけばいいと思いますよ…」
「あのロボットそんな高性能なの!? 俺も一機欲しいかも」
幹部クラスの魔物よりもロボットに興味が釘付けになったギムレットは勇者としてどうなのだろうか。
テロスも冷めた目で雲を見ており、疲れたようにため息を吐く。
ちなみに、カトレアは一度上空を見て状況を把握してからは一切上空を見ずにハイビスカスを眺めている始末である。
『警告警告ー! 虹色の楽園上空に怪しげな雲を発見ー! 排除に移りますー!』
カトレアの横で楽し気にそんな事を言いだしたノヴァビスはいきなり魔法陣を空に数秒で書くと魔法をぶっ放した。
「ロボットが魔法使ったの!? すごいな!?」
「機械と魔法なんて結びつけてはいけないだろうに…あのアンポンタンは全く…」
なにあの高性能!と目を輝かせているギムレットの隣で頭痛でもするのか渋い顔になっているテロス。
「炎魔法ですか。火力もかなり高い。すごいですね」
間近でそれを見たカトレアは感心した様にノヴァビスを撫でている。
『えっへん! 見た目は緑ですが僕は炎魔法が一番得意なんですよー!』
自慢げに機体を揺らすノヴァビス。
ノヴァビスのぶっ放した炎魔法…火炎放射にも近い炎の暴力のせいで上空にあった紫色の雲は一掃された。
そして雲の中から出てきたのは不思議な魔物である。
その魔物は人型で、青白い肌を持っておりいかにも高そうな軍服を着ている。
その背中にはアゲハ蝶の様な羽を生やしておりその羽の周りには毒の鱗粉らしき粉が舞っている。
「アンバランスなのが出てきたな。」
興味なさげにギムレットが感想を述べる。
「どうやら、ヒューライと言う魔物らしいですね。
レベルは70程度でしょうか。と、言ってもこの世界でのレベル70は僕たちの常識からみるとレベル40もないので問題ないでしょう。」
「雑魚じゃん。撃ち落としていい?」
テロスが律儀に分析結果を述べれば、いよいよ興味を無くしたらしいギムレットが水魔法で水の弓を作り構える。
「そんな魔法を使わずとも、そこらの石を投げれば勝手に死にますよ」
いちいち魔力を消費する必要ないですよと笑うテロス。何も知らない一般人が見たら自殺行為だと言うだろうが、こいつらははっきり言ってチートである。
ちなみに、今レベル100なのがギムレットとテロスな為余計ずけずけ言っているところもある。
「き、き、貴様ら! 黙って聞いていれば随分と無礼な人間だな!!」
「耳がいいですね。
でも残念。俺らの中に純粋な人間はいないんだわ」
どうやら聞こえていたらしく、我慢できずにと言った様にヒューライが叫べばわははと悪気なくギムレットが返答する。
煽りになりますよとテロスが呆れたように笑うが、ギムレットには悪気が無いのである。
「五秒やるからとっとと逃げた方がいいぞ。じゃなきゃお前死ぬことになる。
殺す俺が言うのもアレだけど、命大事に」
「ギムレットさん、先程から本当にわけのわからないことばかり言いますね貴方は」
キリキリ、と弓を鳴らしながらギムレットがヒューライにそんな事を言う。
「ば、馬鹿にするなよ! その無礼死をもって償え!!」
煽られやすいのか、ヒューライは声を荒げる。
そんなヒューライの言葉を完全に流しながら無慈悲に弓を飛ばすギムレット。テロスがもう少し話を聞いてあげればいいのにと言う様な視線を向けているが、そんなもの知ったこっちゃねえがギムレットのモットーである。
「ぎょわっ!? あ、危ないな!? 人が話しているのになんつーやつ!!」
間一髪で避けたらしい。回避力はどうやら高いらしい。蝶なのに。
「チッ、無駄撃ちさせるなよ」
一発で仕留める気だったらしいギムレットが盛大に舌打ちをする。
「な、なんなんだ貴様は!? 本当に勇者か!?」
「強欲の勇者です以後お見知りおきを。まあ、すぐ死ぬし覚えなくてもいいと思うけど」
容赦がなさすぎると理解したらしいヒューライが若干引き気味に距離を取る。
ギムレットは距離を取られたせいで無駄撃ちの確率が上がったとため息を吐く。
『弓…水の弓…炎の弓に変換…。
僕も弓矢やりますー!!』
ギムレットの水魔法を見て何やら学習したらしいノヴァビスがくるくるとその場で数回回転して魔法陣を書き始める。
すぐに書き終わり、その魔法陣からは炎の弓が三本同時に発射される。
「すごい学習能力…。色々仕込めばすごい事になりそう…」
「ギムレットさん、興味がころころ変わるのはいいのですが、もう少しあのヒューライを気にかけてあげた方が…」
ぎゃーぎゃーと炎の弓を避けまくるヒューライを無視してギムレットはノヴァビスを観察し出す。
テロスはため息を吐き、ヒューライを見る。
「ええと、一応聞いておきますね。
貴方は魔王の幹部でしょうか? 名前何と言うのでしょう?」
テロスにとって、そんな事は既に知っている事なのだが一応情けで聞いたらしい。
ぜーはーと回避で随分体力を消費したらしいヒューライはその問いに慌てて姿勢を正す。
「そうだ! よくわかったな! 魔王様に仕える魔王軍七大幹部の一人、毒使いのヴェレーノ様だ! 覚えておくがいい!」
「成程。毒使いのヴェレーノ。まんまですね」
「う、うるさい!!」
ヒューライの名前がわかったわけだが、だから何と言う話である。
「ではヴェレーノさん。お会いして時間も経っていませんが、死んではいただけませんか?」
「はぁっ!?」
にこにこと笑い、テロスがヴェレーノにそう告げればヴェレーノはふざけるなと叫ぶ。
「死ぬのは貴様らだ! 魔王様の気を煩わせる小賢しい勇者どもめ!!」
ここで豆知識。
ヴェレーノは自分とテロスたちの力量差を理解していないのである!
豆知識終了。
「褒め言葉として受け取っておきますね。
褒めてくださいましたし、さっくり苦しまずに殺して差し上げますね」
若干飽きたと言う顔をしながらテロスは笑みを絶やさず告げる。
ヴェレーノはそんなテロスの言葉を聞いて引いたような顔をする。
「な、なんだ貴様ら…不気味な奴め…! これでも食らえ!!」
そして勢いよく毒の鱗粉を撒き散らす。
「ノヴァビス、あの毒の粉を回収して自分の経験値にすることはできるか?」
『吸収魔法はまだ獲得してませんよー!』
「よしじゃあ俺があの毒の粉を一回吸収してみるからそれを見て獲得しろ」
『了解しましたー!』
焦ることなくギムレットが楽し気にノヴァビスに入れ知恵を始める。
そして、宣言通りに強欲の力を使い毒の粉を手の中に吸い込ませた。
『ほあああ!! 吸収魔法と言うよりは現象に近いですねー!
それを魔法に変換して獲得しますー!』
興奮したように機体を揺らし、またその場でくるくると数回回転したノヴァビス。ライトをちかちかと点滅させ、何やら色々頑張っている様である。
「は、反則だろう! 勇者がそんな卑劣な技を持っているとは何事だ!!」
ヴェレーノが悲鳴を上げる。全く持ってその通りである。
「俺、勇者の前に強欲の罪人だから」
「はっ!?」
いつの間にか空中にいるヴェレーノの後ろを取っているギムレット。そして腰から剣を引き抜きヴェレーノに振り下ろす。
「ぎえっ!?」
間一髪、首が飛ぶか飛ばないかと言うところで躱したヴェレーノは本当に回避力が高い。
「き、き、貴様、飛行魔法を使えるのか!?」
「いや、これはな、爆発魔法を足の裏で起こすことによって飛んでいるように見えてるだけ。
爆発で跳ね上がった延長線のものだから。俺の属性に飛行…空間魔法はないんだよ。悪いな」
まるで幽霊でも見るかのようにギムレットを見つめるヴェレーノ。
丁寧に仕組みを説明するギムレット。多分先程テロスが気にかけてあげろと言ったのをギムレットなりに受け止めた結果なのだろうけども、違うそうじゃない、と言わざるを得ない状況である。
「なるべく無傷で殺すからさっさとやられて欲しいな。
お前の死体は有効活用するからさ、死んでからもちゃんと役に立つよう考えてはいるから。な? 死んでみない?」
「なにこのゆうしゃこわい…」
にこにこと笑いながら手元で剣をくるくる回すギムレットはヴェレーノから見れば狂気じみたものに見えるだろう。
先ほどの威勢は何処へやら、完全にドン引いた状態になっている。
「大丈夫だって。死んだ後どうなるのかは知らないけど、まあ、せいぜい絶望程度で終わるからさ」
「き、貴様は馬鹿か!? 本来なら我らが絶望を運ぶ役割なのだぞ!? 勇者が運んでどうする!?」
「大丈夫だって。」
「何が大丈夫なのか詳しく説明を頼みたいのだが!!!」
「いや、だって俺はお前が死んでも何の問題もないから大丈夫じゃん…?」
何言ってるかわかんなくなってきたわ、これがゲシュタルト崩壊ってやつ?と笑うギムレット。
ヴェレーノはドン引きを超越し、悟りを開きそうな顔になっている。
「ギムレットさんは随分と頭がおかしいですね、カトレアさん」
「私の方がおかしいから大丈夫ですよ。ギムはまだマシな方です」
「さらっと恐ろしい事を言ってくれましたね」
げっそりとテロスがギムレットを見上げる。カトレアはよしよしと色々と頑張っているらしいノヴァビスを撫でている。
「なんか会話っつー物が哲学に感じてきたからちょっとこっち来て」
会話を放棄したくなったのか、若干怯えも含んでいる顔をしているヴェレーノを呆気なく捕まえる。
「ば、馬鹿め!! 俺に触れたら毒で溶けるとも知らずに…ってあれ!?」
「毒耐性めっちゃあるんですよ。ほら、強欲だから」
ギムレットがヴェレーノの手首をつかんだ時、一瞬じゅっと言う音がしたがすぐにそれは消え、ギムレットの手が溶けることは無かった。
「は、反則だこんなの!!!」
ギムレットに引きずられるように地上に引きずり降ろされるヴェレーノ。
どちらが悪役かわかったもんじゃない。
ヴェレーノの運命はどうなってしまうのか!? 次回に続く!!
ヴェレーノくん結構お気に入りのキャラなんですよ。
理由? 見栄っ張り空振りくんからのめっちゃ可哀想な役回りだから。