レベル12 勇者御一行様はこの世界で好き放題やらかしているようです
「あのロワってガキが南の国の王座に収まったらしいよ」
「ふーん。オレが知りたいのはそう言う細かい情報じゃないんだけどなぁ」
視点はヒイラギとヴァニタスのところへ戻る。
ヴァニタスが怒りジンホア王国からヒイラギを引きずり強制的に出た後、近くにあった綺麗な湖のほとりにヴァニタスが小さな家を創造し、一旦そこで休憩していたのである。
ヴァニタスの機嫌が落ち着いた所でヒイラギが透視魔法をもう一度お願いしてみたらあっさりと了承。そしてヴァニタスが告げたのはロワ達が何をしたかと言う事であり、ヒイラギの知りたいこととはかけ離れたものだったのだ。
ヒイラギはロワが王になったことには大して驚かず、興味を示しすらせず困ったようにヴァニタスを見る。
「先生さぁ、いい加減機嫌直してくれよ。」
「もう怒ってないけど? ただね? あんなクソみたいな連中のいる国の頼みの為にこの俺の能力を使うのが嫌なだけ。勝手に滅べって感じ?」
「オレの好奇心からの救済行動はどうなるの」
「どうせすぐ枯れるでしょその好奇心」
「んなことねえよ」
どうすればヴァニタスから欲しい情報を引き出せるか悶々とするヒイラギの横で、ヴァニタスはキッチンを創造してなにやら造り始めてしまう。
今まで、ヒイラギはヴァニタスに頼めば大体OKしてもらえていた為こう言った時の正解の行動がわからなくなることがあるらしく、無駄に悩んでいるヒイラギ。
今回、ここまでヴァニタスがヒイラギの頼みを断り続ける理由は先程のギルドメンバー達にあり、ヴァニタスの目の前でヒイラギを傷つけようとした者のいる国は滅ぶべき思考なのだ! 勿論ヴァニタスの目の届かない範囲でヒイラギが怪我をすれば原因は跡形もなく消し飛ばされるのがオチなのだが。
「じゃあさ先生、ジンホア王国にある奇跡の花を拝借して色々実験してみたいから手を貸してはくれないか?」
どうやら、このまま説得するのは不可能とわかったらしくヒイラギが物騒な事を言い出す。
「それはつまり、国を落とすってことで良いの?」
「おん。死人は出さずひっそりと後ろから穴に落とす感じ?」
「殺しがダメってのが気に食わないけどまあいいか。
で? 国を落とした後また王にでもなるつもり?」
「王になる必要が出てきたとき、王には先生がなればよくね? オレはパス」
ヒイラギの言葉にヴァニタスは酷く面倒そうな顔になる。
「俺ももうやだよ。上に立つってのは責任が絡んでくるじゃん。それにあんなクソ共の生活を保障する王になるとか無理。
どうせやるなら虐殺からの恐怖政治がいいよね」
「じゃあ誰にもばれないように奇跡の花を拝借してとっとと実験して、そして誰にもばれないようにそっと返すって事で!」
「誰もそんな話はしていないんだけど?」
「オレちょっとジンホアに戻って色々見てくるわ!」
「ちょっ、一人で行く気!?」
話の流れを綺麗に無視して勝手に決定してしまったヒイラギは、キッチンに立って両手が塞がっているヴァニタスから逃げるべくすたこらさっさと家から飛び出てジンホア王国へと駆け出した。
ヴァニタスは慌てて持っていた料理器具を手放して追おうとするも、そこで丁度レベルが入れ替わった。ヒイラギの時とは違い、ヴァニタスが出したものは消えずにそのままだったが、ヒイラギがレベル100になったためヒイラギは自身に身体強化魔法でもかけたのか既にその場にはいなくなっていた。
「くっそ…狭間で俺があいつの主導権を握っている時期が長くて油断してたけどあのクソガキは単独行動の神だった…次から首輪でもつけるか…」
ちっと盛大に舌打ちをしながら扉を叩くヴァニタスはイライラと呟く。
そして、ヒイラギを追うべく不機嫌全開でジンホア王国への道を歩き出したのだった。
◇◇◇
「クソすぎる」
「そうですか? 私はめっちゃ楽しいですよ!」
さて、ヴァルム王国の王座にちゃっかりと収まったロワだが、こちらもイライラとしたように舌打ちをする。
傍でロボットを改造しまくっていたルーチェはつやつやとした笑顔でそんな事を言うがロワの機嫌は悪化する一方だ。
「この国、腐ってんじゃないの? 外面は完璧だけど内部はアホみたいにしっちゃかめっちゃかじゃないか。
立て直しをしないと安心して王生活もできやしない。つか、レイナがこの国の自然と街並みを気に入って無けりゃ一旦滅ぼして立て直してるわ。その方が速い。
くっそ。この世界のやつらはつくづく無能ばかりだ」
そう。ヴァルム王国は観光客から見ればとても自然が豊かで平和な国なのだが、国から見ると随分と荒んだ面倒な国だったのである!
どうやら、金の流れにも色々政治が絡み貴族共の派閥だのなんだのが後を絶たず内部では問題が次々と起こる始末なのだ。
貧困層への圧力だの増税だの、掘ってみればばりばりと出てくる国の問題。あと数年もしないうちに滅ぶんじゃないのかなこの国。
「で、レイナさんはどちらへ?」
「それが聞いてよ! レイナってばさぁ!!"こんな美しい国が滅んでしまうのは勿体ないですわ。どうにかしなくては。"とか言い出して何の恩もない国を立て直すために色々やるとか言って書斎にこもりっぱなんだよ!? なんで!? 俺とデートしないで見ず知らずのクズ共助けるためになんで動けるの!? それよりも俺とデートしようよって話じゃんね!?」
「はっはーん。レイナさん、さては相当なお人好しですねぇ!?」
「まさか。興味があるモノを、気に入った物を自分の描いた通りにするまで熱が入るだけだよ」
「ではロワさんは未だにレイナさんの思い描いた旦那様ではないということですね? ラブラブって事は未だに興味があると言う事でしょう?」
「ばっか俺とレイナはそんな薄っぺらい他人行儀じゃないってば。
お互いベタ惚れなだけだから」
「私は神ですので愛と言う物がよくわかりませんねぇ…。
レイナさんが他の方に惚れると言う確率もあるでしょう? 生き物はよく、愛は不滅とは豪語しますが、不滅なものなどこの世に存在しませんよ?」
「大丈夫。俺もレイナも別のやつに惚れた瞬間が寿命だから」
「つまり浮気したら死ぬと!? ほっほーう! どういう仕組みです?!」
随分と話が逸れつつあるが、この二人は喋らせとけばいくらでも喋るのだろう。
ロボットの上に布団干しの様にでろんと垂れ下がったルーチェだが、その瞳はキラキラと輝き好奇心をちらつかせている。
「浮気したら浮気相手もろとも殺すだけだよ。」
「残った方はつらそうですねぇ~」
「大丈夫大丈夫。そのあと自殺かませば問題ない」
「ほー、命をそこまで大切になさらないのですね? 愛を優先させ命を捨てる。これは新しい!」
「トチ狂ってるやつでもここまでするやつはいないだろうからね。
で? いつまでその子にへばりついてる気?」
ふんふんと楽し気に笑うルーチェにロワが問えば、ルーチェはそうでしたとロボットの上から飛び降りる。
「私、このロボットさんに名前を付けました!!」
「へえ。」
「名付けてルーチェ二号です!」
「却下」
「がんっ」
破滅的なネーミングセンスを披露したルーチェだが、ロワはつまらなそうに否定の言葉を口にする。
しおしおと項垂れたルーチェを無視してロワは立ち上がると、レイナのいる書籍に向かって歩き出す。
「あ、ロワさん、このロボットさんいっぱい作って良いですかぁ?」
その背中にルーチェが質問を投げかければ、
「好きにしなよ。どの子がどの子かわかる様、カラーリングだけは変えといてね」
ひらひらと振り返らず手を振りあっさりチートマシン製造を許可するロワ。
ひゃ~!とルーチェは飛び上がって喜び、さっそく二機目を作るために作業に取り掛かったとか。
◇◇◇
そんなこんなで各チーム色々…と言ってもイトスギチームは森の中でのんびりしているだけなので何もしていないが…自由に過ごし、この世界にも慣れてきた頃の話に移るのだが。
ヒイラギはあれからジンホア王国に戻らず、近くの森や村を転々としていた。ヴァニタスはそんなヒイラギを真っ青になって探しているのだが。ある意味でヒイラギはヴァニタスと追いかけっこ気分なのだろう。
しかしヴァニタス相手にそれが長く続くはずもなく、数日もせずにとっ捕まったのだが。
「悪かったって。あの時の先生になに言っても聞いてもらえそうになかったからつい。」
「つ・い・だぁ!? こっちがどんだけ死に物狂いでお前の事探してたと思ってんの!? 本当に首輪にリード付けてやろうか!?」
反省の色なく笑うヒイラギの両腕をがっちりつかんで離さないヴァニタス。ヒイラギは楽しかったな鬼ごっこと言い出す始末で、ヴァニタスはその後数日間はヒイラギから見事にはなれなかったとか何とか。
ロワはレイナの邪魔をしないように注意しながら数日は過ごしていたが限界が来たらしく、レイナにべったりになったらしい。
ルーチェはその間にばしばしとロボットを増やしていき、はしゃいでいる始末。
「奇跡の花ねぇ。魔力を必要としない国を目指すならこの花いらないね」
ヴァルム王国にもある奇跡の花。その存在と性能を知っても、元々魔法とは無縁なロワの興味を鷲掴みにすることはできず放置されたままである。
レイナも奇跡の花を使った政治をするつもりはないらしく、綺麗ですわねと言ったっきり話題にすらしないのである。
イトスギとカタストロフィは一切人間たちとの接触をせず森の奥でのんびり暮しているので論外とする。
一番世界を救うために…と言うわけではないが、自衛のためとは言え動いているのはギムレット達である。
テロスの予知能力を頼りに自分たちに降りかかる火の粉を事前に掃っておくと言う事を繰り返しているうちにあちこちで救世主と呼ばれるようになっていた。
本人たちは全くその事を知らず、のんびり気ままに旅をしているのだが。
そんな勇者御一行様チーム達が一番最初に再会することになるのがヴァルム王国。ロワとギムレット達になる。
ギムレット達はヴァルム王国の傍まで来ており、テロスの
「ヴァルム王国の王が変わったとか。どうやらロワさんが王になったらしいですよ」
と言う言葉でギムレットが興味を持ち立ち寄ったと言う物である。
自然が豊かで綺麗な国と言う情報もあり、カトレアも行ってみたいとなった為避けては通れぬ道だったのかもしれない。
『よーこそー! ヴァルム王国へー!』
ギムレット達が国に入り一番最初に出会ったのが、ルーチェの作っていたあのロボットの一機である。
どこかルーチェらしい雰囲気を醸し出しながらギムレット達を出迎えた。
「ロボット? ってことはマジでロワがいるのか。」
『おーさまのお知り合いですかー?』
『なになにー』
『誰々ー?』
ギムレットの何気ない一言で、近くにいた同型のロボット二機が集まって来る。
ちなみに、ギムレットに一番最初に話しかけたロボットは緑で足に13と文字が記されている。後から来た二機は赤と黄色。足には18と3と記されている。
「…あのアンポンタンとんでもないことしやがった…。」
何やらいち早く状況を理解したらしいテロスが倒れかけたが仕方ないだろう。
「おーさま。
この国の王はロワってやつで間違いないんだな?」
『そーですよー! おーさまはすごい方ですよー! まだ王座についてそんなに時間が経っていないのに、この国を立て直してしまったのですからねー!』
『あれれ? それはじょーおーさまの働きじゃなかった?』
『おーさまはじょーおーさまを目立たせたくないって言ってたよー!』
『おーさまって本当独占欲強いよねー!』
一つ質問すればいくつにもなって帰って来る返答。
ギムレットは元気なロボット作ったなあいつ…と呟きつつ、わきゃわきゃと喋っているロボットから視線を外す。
ここの国は、今やこの世界で一番発展した国だろう。ジンホア王国ご愁傷さまである。
国は元々自然を壊さぬよう木造建築が多かったが、ロワが来てからは自然も映える煉瓦造りに改装されている。しかし、実は煉瓦ではなくコンクリート造りなのだが。質感や見た目をルーチェの神パワーで煉瓦その物にしているので誰もわかりはしないだろう。
道路も整備され、荒れ放題だった草木は綺麗に揃えられている。以前に増して美しい国に一変したのである。
「観光のしがいがありそうですね、この国は」
「そうだな。
なあ、お前ら」
『はーい!』
「この国の名所を教えてくれないか?」
ギムレットの言葉に、ロボットたちが顔を見合わせる。
『ボクが案内するよ』
『えー、僕が案内するー』
『お前この前もそう言ってぼくの案内権奪ったじゃんかー! ずるいぞー!!』
そしていきなり揉めだす。
どうしたものかなとギムレットが苦笑したところで、テロスが持ち直したらしく
「ロワさんには会わなくていいので?」
と問う。
「うーん、どっちでもいいかなって。
それにロワに会うって事はルーチェとも会う事になるけど」
「そうですね。会わずにとっととこの国を出ましょう」
「そんなに嫌いかルーチェが」
「それはもう」
「相棒なのに?」
「実力は認めますが性格が生理的に合いませんから…」
どこか遠くを見つめ出したテロスにこれ以上は酷かと判断したらしいギムレットはそっかと言って揉めているロボットを見る。次にカトレアを見る。
「カトレア、何色がいい?」
「緑がいいです」
「だとよ」
『やったー!僕だー!』
『ぶーぶー』
『贔屓だ贔屓だー!!』
案内役を色で決めたらしい。
選ばれなかった二機がさらにやかましくなるがギムレットはスルーして、上機嫌になった緑のロボットに案内よろしくと声をかける。
さて、ロワとギムレットが再会するまでに少々イベントがあるのだが、一つ言っておこう。
このヴァルム王国は、後に勇者御一行様が全員揃って勇者御一行様の拠点になる国である。それもまだ先の話になるのだが、ギムレット達が一旦この国を去った後にこの国を訪れるのはヒイラギとヴァニタスだったりもする。
色々と自分たちのいる異世界とは別の異世界でやらかし放題な勇者御一行様が魔王をどうにかするのもさらにその先の話になってしまう。それまこの世界は息をしているのだろうか。続く。
次のイベントでちゃんとした敵が出てきます。多分。