レベル11 チート乱舞!!
「先生待ってくれよ、そんな怒んなくても~…」
「お前が怪我してたらこの国は既に滅んでいるんだよ。滅んでいないだけありがたく思ってほしいよね」
「オレ的に先生に引っ張られている腕の方が折れそうで怖いんだけど」
「この俺がお前のこと怪我させると思ってんの?」
「それは思ってねえけど。
あ、でも昔一回だけ殺されかけたことあるからワンチャンあるかもとは思ってる」
「あれは故意じゃないからノーカンだよ馬鹿野郎」
「本当にこの国とさよならしちゃうんか? まだ色々やりたいことあんだけど…」
「そろそろ黙って」
「マジでキレてんのかよ…」
等とヒイラギとヴァニタスが口論染みたことをしているのと同時刻。
南に栄えている国にテレポートしたロワ達に視点を移すことになる。
「へえ、意外と綺麗なところじゃん」
「素敵な街ですわ。観光してみたいですわね」
「どうやらここはヴァルムと言う国らしいですねぇ! なんでも自然が豊かでおいしい物がたくさんあるとか!」
ヴァルム王国と言う緑の多い国に来たロワ達は、ヴァルム王国をそこそこ気に入ったらしくしばらくはここでのんびりすることになったらしい。勇者の仕事は一切する気が無いようである。
「宿を探す前に資金調達をした方がいいと思いますがどうします~?」
「は? この俺が労働すると思ってんの?」
「楽に稼げる方法があるのですか!? 気になります~!」
ルーチェの提案に不満そうに舌打ちをするロワ。相変わらずである。
ルーチェが興味津々と言う顔になったが、ロワは呆れたようにため息を吐くだけである。
「この国の王座を少々拝借すればいい」
「あなた、捨てる時に面倒な事はなさらないほうが…。せめて貴族程度の方がよろしいかと思いますわ」
さらりと恐ろしい事を言うのがこの夫婦である。
ルーチェはほあああとテンションを上げていく。
「ビバ戦争ですか!?」
「いや? 向こうからこっちに王座を譲るように仕掛けるだけだよ。半日もあればどうにかなるでしょ。
神様の力、存分に借りるとしますかね」
「んほほほほ、いいですよぉ! 私は神です! なんでもお手伝いしますよ!!」
ここには常識人がいないらしい。ヴァルム王国に危険物が投下された瞬間であった。
◇◇◇
それからロワは宣言通り半日でヴァルム王国の王座に収まったのである。マフィアのボスはやることがえげつない。
簡潔に説明すると、ロワはまずルーチェの神パワーを使い自立し、学習するロボットを作ったのだ。
ロボットのボディの金属、学習魔法、自立魔法、その他エトセトラを全てルーチェに作らせ丸っこく背丈が180前後のロボットを作ったのである。
タダ働きさせられたルーチェは大興奮しながら作っていたので問題はなさそうだ。
「あら、もうできたの? まさかあの子をこの世界で作るだなんて思いませんでしたわ」
僅か一時間程度で出来上がったロボットは、ロワ達のいた元の世界にもいた便利ロボットである。製作者はロワで、主に戦闘で活躍するのである。見た目は丸っこいボディに六本の足、つまり歩行戦車である。レイナはその戦車をあの子と呼び、レイナとロワの専用戦車は喋る機能もついていたりする。その性格がルーチェそっくりと言うのは別の話であり…。
元の世界ではガトリングだのをぶっ放し、学習機能を搭載されているためある程度学習させればハッキングもしてしまうと言う恐ろしい戦車なのだが、この世界にはネットもガトリングも存在しない。その為、本来あるガトリング機能を魔法陣を自動で書いて魔法をぶっ放すと言う機能に変え、ハッキング機能を洗脳魔法機能に変えと言うこの世界で敵う者はいないだろうと言う恐ろしいロボットが出来上がったわけだ。勿論自動で魔力を生み出す仕組みになっているため、魔石に頼り切っているこの世界では貴重そのものなロボットとなった。
ルーチェが作ったせいか、ロボットと言うよりは新生命体に近いモノになったのだが。
見た目はロボット。中身は人間以上神以下の何か。恐ろしいものである。
長々とロボットの事を説明してきたが、ロワがヴァルム王国のトップに収まった原因はこのロボットの洗脳魔法のせいである。
ルーチェに頼めばよくない? と言う話なのだが、ロワはどうしても元の世界にあったものの何か一つを再現したかったらしくその案はスルーされた様だ。
「神パワーで、このロボットの大きさも変更できるようにしてみましょう!
あ、あとついでに喋るようにしてみましょう! そうだそれとロワさんの言っていたガトリングも弾丸を魔法弾にして発射する様に設定して付けてみましょう! 死角を突かれないようにセンサー機能も付けて、エネルギー源は空気中の酸素に設定すればお得ですね!!
防御魔法もかけてみましょう! ミサイル一発なら耐えられる強度を第一段階と設定してその威力と同じ衝撃を受けたら学習し、自身を強化していくちょっと面倒な自立学習防御魔法も組み込みましてー!!
そうだ、魔法陣の種類もいくつもあった方がいいですよね。回復魔法に攻撃魔法、防御魔法に…そうだ、自己回復魔法!!」
その後もロボットをいたく気に入ったらしいルーチェが改造に改造を重ね、ロボットはチートを極めて行ったとか。
◇◇◇
さて、ロワ達が一国を一時的とはいえ束ね終えた頃、ギムレットたちは一番速くに消滅現象にかち合っていた。
場所はジンホア王国から少々離れた場所にある人里近くの森。
ギムレット達はとりあえず地図を手に入れるため、資金調達として一番手っ取り早い魔物討伐に向かったのだが、その先で消滅現象とかち合ったのである。
消滅現象は実に静かで、すぐ傍まで来ていてもわからないほど自然に世界を飲み込んでいく。
音は、砂時計の砂が落ちるようなサラサラと言ったもので、消滅していく場所は一瞬きらきらと瞬き角砂糖が珈琲の中で溶ける様に世界が消えていくと言う物。
「これはこれで綺麗なのでは」
「そうですね。私はもう少し荒々しく大地を飲み込んでいくのかと思っていたので少し驚きです。」
失われる時は常に悲劇的ではないらしい。
焦る様子もなく少し離れた場所から消滅現象をまじまじと観察しているギムレットとカトレア。
「どうします? 時間停止魔法かけますか? 今僕がレベル100なんですぐかけられますよ」
テロスも焦ることなく問えば、カトレアがそうですね、と一度頷く。
「ちょっと、試したいことがあるので時間停止魔法は待っていてください。
ギム、貴方は今レベル0なんだから大人しくしていてね」
「何する気だ?」
何かを思いついたらしいカトレアは立ち上がるとギムレットにそれだけを告げて消滅現象の傍に歩いて行く。
「引き止めなくていいんですか?」
「やばくなったら止めに行く」
テロスが少々驚いた様にギムレットを見るが、ギムレットは欠伸交じりにそんな事を言うだけである。
「カトレアさんは、何をするつもりなのでしょう」
「うーん、多分消滅現象を食う気だと思う」
「食べる、ですか!?」
「そう」
テロスが目を見開けば、ほら、とギムレットはカトレアを指差す。
ギムレットの示した先にいたカトレアは、いつの間にか禍々しく大きな鎌をどこからか持ち出し、消滅現象の一部にその刃を振り下ろしていた。
一瞬、鎌の刃が消滅現象に飲み込まれ消えたと思ったが、次に消えたのは消滅現象の進行だった。
ぞわりと寒気のするおぞましい空気がカトレアを中心に消滅現象の周りを包み込む。その空気はギムレット達の方にまで届くもので、殺気に近い何かである。
空気が消えると、消滅現象はすっかりなくなっており、消えた大地の場所にはただただ黒い空間が広がっていた。
カトレアはその黒い空間にも刃を突き立てる様に振り下ろし、その空間もまた「鎌に食わせた」。
「あの鎌は一体?」
「万物の鎌」
「カトレアさんは一体?」
「うーん、モンスターに好かれモンスターに成り果てた人間の成り損ない?」
「色々あるんですね」
「俺も似たようなものだしなぁ」
「ギムレットさんもモンスターに成り果てた、と言うやつですか?」
「いや、俺は罪人」
「なるほど。わけがわからないのでそのうちわかりやすく教えてくださいね」
「説明役はカトレアだからカトレアに頼むといいぞ」
満足したらしいカトレアがのろのろと戻ってくるのを眺めながら、ギムレットとテロスはのんびりと会話をしている。
「やっぱり、万物の鎌は消滅も食えるみたいですね。テロスさんがレベル0の時、私がレベル100ならルーチェさんをわざわざ呼ばずとも解決できそうです。
それに、あの消えた大地の場所にあるあの黒い空間ですけど、あの中に消えたものがそのまま残っていると憶測します。
消滅現象と比喩しているものは消滅現象ではないです。あの黒い空間に世界が飲み込まれているだけであって、あの黒い空間を破壊できれば飲み込まれた大地は元に戻る。多分、あの空間の中は時間そのものが停止しているでしょうから、飲み込まれた人たちも生きていると思いますよ。」
戻って来たカトレアが、鎌の柄でトントンと地面を叩きながら言えば、ほーんとギムレットが黒い空間を見る。
「俺の能力で食えそう?」
「どうでしょう。最悪ギムがあの消滅現象になりそうですからやめた方がいいと思いますよ」
鎌を消しながらカトレアが言えば、それはそれで面白そうとギムレットは黒い空間を見る。
「どういう事です?」
わけがわからんとテロスがカトレアに問えば、カトレアはそうですね、と少し考え、
「簡単に言いますと、私の使ったこの鎌はありとあらゆるものを食ってしまえるんです。
食ったものは鎌のエネルギー源になるため二度と元に戻すことはできない。使い方次第ではテレポートに近い事もできる万能な鎌なんですよ。
そして、ギムの能力は"強欲"。彼が望むありとあらゆるものを引き寄せ自分のものにする。吸い取られた方は空っぽになってしまう、ある意味他人の努力で勝負する系の最低な能力ですね」
「カトレアだって似た様な物じゃん。再利用できるかできないかの問題で。
そもそも俺の強欲は、俺が望めば持ち主に戻すことも可能なんだから」
「返した事が一度としてありました?」
「返すわけないよなぁ」
つまりこの二人もチートである。
テロスはいち早くそれを察知したらしく、なるほどと勝手に納得した。
「反則級なのはよくわかりました。最悪、僕ら全員が単独行動になったとしても全員がレベル100ならなんの問題もない、逆にレベル0の時は油断できない、そう言う解釈でいいですね?」
「そうなりますね。
テロスさんは予知能力に長けているんでしたよね?」
「そうですけど」
「なら、私達に関わる面倒事が起きる場所を予知し特定、起こる前に私達で回収をして行けばスムーズに、快適に旅を続けられますね」
「カトレアさんって面倒事嫌いでしょう」
「ええ。私はギムみたいなお人好しではないので、面倒事にかち合ったら消し飛ばす自信があります」
にこにこと恐ろしい事を言うカトレアだが、肝心のストッパーであるギムレットはその話を聞いていない。
近くに泉があったらしくそちらに行ってしまっている。
「で、一つ確認していいですか」
テロスがそんなギムレットをげっそりと眺めながらカトレアに問う。
なんですか? とカトレアがきょとんとする。
「貴方方、どちらが飼い主です?」
どうやら、二人が結構な問題児と理解してしまったらしいテロスが引きつった笑みでそんな事を問うたのは自衛の為だろう。どこに行ってもテロスは苦労人らしい。南無。
多分今のところ一番の常識人ってテロス先輩。
今のところ毎日更新できているけどそろそろ毎日は無理そうになって来た現実…。なるべく早く更新できるよう頑張ります。