レベル10 タイミングの神様はいない様です!
さて、本編に入る前に城に残されたギルドメンバー達のその後をざっと説明しておこう。
ヒイラギ達が各々旅だったり城をテレポートしているのと同時刻の話になる。
自由過ぎる勇者御一行様に腹を立てたギルドメンバーや国民勇者は王に平和を贈る等と誓った後、城下町に行き旅の準備を始めたのである。
ギルドメンバーと国民勇者の紹介をしておこう。
選ばれたギルドメンバーは四人。一人はリーダー気質で実質リーダーになった剣士のジアン。性別は男性。年齢は十代後半と言ったところか。かなり高そうな鎧を身にまとい、いかにも強そうな風貌である。ちなみにロワの言葉で激昂したのはこいつである。
次に、この世界では珍しい魔力持ちの魔導士であるマギア。性別は女性。ジアンよりも年下で17かそこらと言った顔立ち。魔法使いらしい服装で髪は三つ編みに結っているちょっとおしゃれな女性である。
そして三人目はギムレットに完封された者である弓使いのトクソ。性別は男性。ジアンと同い年当たりの顔立ちをしており、国一番の弓使いらしい。
最後の四人目は予言者のオラクル。性別は男性。まだ幼そうな顔をしているが16である。大人しく、予言をする時以外はあまり喋らない為影が薄いが彼の予言は当たるとか。
ギルドメンバーと一緒に旅をすることになった国民勇者の名はカレッジ。丁寧な言葉遣いだが、かなり性格はキツいとかなんとか。ただし実力は確かな為、国民からは尊敬されている者である。
「あの勇者たちは信用ならないな」
「そうですね。協力的でないのは置いておいても、こちらを舐め過ぎです」
ジアンとカレッジは先程の怒りがまだ収まらないらしくそんな事を言いながら歩いている。
「ま、結果で見返せばいいでしょ。」
トクソがああいう恩知らずは放っておいていいんだよと笑う。
「それにしても、あの人たちは随分と自分の力に自信がある様だったね」
マギアが宥める様に笑えば、いずれ身を亡ぼすだろうとジアンがイラついた様に返す。
と、まあ未だに荒れているギルドチームなのだが。
彼らのいる城下町には丁度ヒイラギとヴァニタスがテレポートしていた為、ここの連中がかち合うのは必然であり…。フラグ回収乙である。
◇◇◇
「えええ、先生レベル0になっちゃったんか!? あ、ほんとだオレがレベルカンストしてる。」
フラグ回収等露知らず、透視をしようとしていたヴァニタスのレベルとヒイラギのレベルが入れ替わってしまったため残念がるヒイラギ。
ヴァニタスはしょうがないでしょとため息を吐く。
「先生がまた無敵モードになるまで何しようか。いっそのこと旅立っちゃう?
でもそうすると、透視した結果によってはまたこの国に戻って来なくちゃなんねーし…」
「城下町を見て回るってのも一興じゃない?
ヒイラギは人のいる国なんて久しぶりでしょ?」
「それもそうだな。
あ、それに地図とか欲しいよな。あと旅の道具とか?」
「地図はともかく、他の道具は俺のレベルが戻った時に創造してあげるからいらないよ」
「先生って本当何でもありだよなぁ」
持っていた石ころをぽい手の中で遊ばせながら笑うヒイラギ。そう。ヴァニタスはルーチェに次ぐチートである。
人通りのある場所に歩き出しながら、あ、そうだとヴァニタスが思い出したように手を叩く。
「多分だけど、召喚された連中はこの世界で歳を取らないと思うよ」
「ほーん。」
ヴァニタスの言葉にあまり興味が無いように返事をするヒイラギ。
そう。ヴァニタスの言ったっ通り召喚組は歳を取らないのである! それもそうである! 召喚組は本来の世界…つまり勇者組が主人公のお話から引き抜かれた連中である! こちらで歳をとってしまったら元の世界でのお話の辻褄が合わなくなってしまう! 作者の都合である! 完!!!
さて、二人が人通りのある大通りをふらつきながら色々な店を覗いていた同時刻。同じ場所にギルドチームもいたのである。
ヒイラギやヴァニタスの頭の中にはすでにギルドチームの連中の事はなく、すれ違っても気づかないレベルだったのだが、ギルドチームはそうではないのである。
あれだけ馬鹿にされたため、そしてまだ怒りが収まっていない連中が大半の為遠目でもロックオンされてしまうのである。
「この世界って文化は進んでないけど、洒落た道具が沢山あって面白いな」
「気に入った物でもあったん? なら金ができたら買うといいよ」
「そーする」
旅道具の店から出てきたヒイラギとヴァニタス。そしてその店に向かっていたギルドチーム…完全にかち合ったのである。
だが前者は見事に気づいていないのである。ギルドチームの、主にジアンが二人を目ざとく見つけたのが事の始まりであり…。
「貴様!」
ヒイラギの肩を勢いよく掴んだのが物理的接触の始まりである…。
「びっくりしたぁ。誰だアンタ…って、あー、城での元気な兄ちゃんじゃねえか。元気か?」
ジアンの怒りを知らずに呑気に笑うヒイラギ。噛みあっていない。実にかみ合っていない空気なのだ。
ヴァニタスはいきなりヒイラギに掴みかかったジアンを絶対零度の眼差しで睨んでいたが、口も手も出さず一応成り行きを見守っている。
「馬鹿にしているのか?
しかし呑気なものだな。国王陛下にあれだけの口を利いておいてまだこの国にいるとは。」
煽るようにヒイラギに喧嘩を売るジアンだが、ヒイラギはぽかんとしている。
ここでヒイラギの備考その1を紹介しよう!
ヒイラギは国王時代色々苦労したため、勿論皮肉だのなんだのは言われまくり最初こそはムキになり繰り返すうちに悟りを開き最終的にそう言う言葉をのほほんと躱すスキルを無自覚に身に着けているのである! 死ねと言われても「寿命が来たら死ぬわ」とのほほんと返し、人格を否定されれば「じゃあオレと関わらねえ方がアンタの為になるな。あ、この後用事あるからもう行っていい?」と斜め上の返答をしと…とにかく言葉の刃では傷つかないのである。
その前にヴァニタスがキレる事はあるのだが。まあそれはいいだろう。
「そうか? 用事があるからな。それに誰が何してようとも犯罪犯さなけりゃ大丈夫だって。かたっ苦しくならず楽しく生きようぜ元気な兄ちゃん」
やはりジアンの皮肉は一㎜たりとも効いていない。犯罪染みた行為をした者のセリフだがそれはスルーしておこう。
「どこまで人を舐めれば気が済むんだ貴様は!」
悪気ゼロの素であるヒイラギの言葉を悪く取ったらしいジアンがヒイラギの胸ぐらを掴む。
ヒイラギは流石に驚いたらしく何怒ってんだと困惑する。
「我らに喧嘩を売ったこと、この場で後悔させてやろうか!!」
「喧嘩なんて売ってねぇよ!? 兄ちゃん短気な上にネガティブ系だったりするんか?! なら悪かったな。オレはアンタらと争う気は一切ねえからその手を放してくれねえか?」
ジアンの言葉にヒイラギが困ったように笑う。ヒイラギにとっては悪気の無い言葉でも、怒っている相手がどう取るかは相手次第…勿論さらに怒りだしてしまったジアン。
ヒイラギはどうしたもんかなと内心ため息を吐いていた。
言葉でダメージは受けずとも、めんどくせえくらいは思うのである。
「その辺にしておきましょう。一応、選ばれた者なのですから。」
カレッジがそこでようやく間に入って来る。
カレッジの言葉でいくらか落ち着いたらしいジアンがヒイラギを突き放す。
おっとっととよろけつつも、ヒイラギは襟を正して内心安堵する。
「怪我は有りませんか?」
カレッジがにっこりとヒイラギに問えば、ヒイラギは平気だぞと笑う。
無駄に大人しいヴァニタスは既に真顔を極めており、瞳の中には殺意が渦巻いている。このまま大人しくしていてほしいものだ。
「ならよかった。
そうだ。もしよろしければ手合わせいたしませんか?」
ヒイラギの返答に安心したような素振りを見せつつさらりと提案するカレッジ。
手合わせ? とヒイラギはぽかんとしつつ、彼の脳内に浮かんだのはレベルが100とわかったときに勝負を挑んできたギムレットの事だった。似た様な奴っているんだな。戦闘狂?等と呑気に考えているが、目の間にいる連中はギムレット程単純な戦闘狂ではない。
「はい。
一応こちらもある程度の自信はあるのです。そして貴方方の実力が正直よくわからない。
あれほどの態度を取ると言う事は相当強いと憶測しましたが、どうにも信じられず…、こちらにもプライドと言う物はあるんです。こちらが手合わせに勝利したら謝罪していただきたいのですが」
「あ、それか。
城では悪かったな。ちょっと自棄になっちまって失礼な事言ったのは自覚してる。
オレはアンタらの実力を否定するつもりはねえよ。だが気分を悪くさせたのは事実だな。申し訳ない」
カレッジの提案を聞いてようやくジアンが怒っていた原因を思い出したらしいヒイラギがあっさりと頭を下げる。
ヒイラギは興味の無い面倒事を避けていくスタイルな為、相手が謝罪を求め、その原因に自分の行動が当てはまるのならすぐに謝ってしまうと言うさっぱりした思考を持っている。話をとんとんと進めるにはもってこいなのだが、今回は相手が悪かったらしい。
「馬鹿にするのもいい加減にしろ!!」
流れる様にジアンがキレ、剣を抜く。
「おいおい、街中で剣を抜くモンじゃねえぞ。危ねえから剣納めろって」
大胆な行動にヒイラギが慌てたようにジアンに言うが聞く耳を持たないジアン。
「あ、あの、やめた方が…!」
そこで喋らなかったオラクルが焦ったようにジアンに声をかけるがジアンは気づかずにヒイラギに切りかかる。
ヒイラギは丸腰である。だが別に慌てた様子はない。ヴァニタスも特に動くことはせず事の成り行きを見守っている。
ジアンの剣がヒイラギめがけて振り下ろされる。
「あーもう、怪我しても文句言うなよ、元気な兄ちゃん」
ヒイラギは頭をがしがしとかくと横一文字に手で空を切る。
直後ギィンと何かがぶつかる音がする。
ぶつかったのはジアンの愛刀とヒイラギが魔法で作り出した氷の剣だ。
「貴様、魔力持ちか!?」
「おん」
驚いた様に目を見開くジアンにけろりと頷くヒイラギ。
しかし、それも一瞬で、ヒイラギがやばっと言う様にジアンの剣を弾いて後退する。
予想以上の力で弾かれたせいか、ジアンがまた驚いた様にヒイラギを見る。
「モンスター風情が…」
ちっと舌打ちをするジアンを気にした様子もなく、ヒイラギは自分の握っている剣を見る。
ヒイラギの握っていた氷の剣が剣先からぼろぼろと崩れて消滅していく。ヒイラギのレベルとヴァニタスのレベルが入れ替わったのである。
「あー、結構綺麗にできたと思ったんだけどなぁ…」
先生に加工してもらおうと思ったのに、レベルが0になると消えちまうのかよと残念そうに消えていく剣を見つめるヒイラギ。ジアンの事は既に眼中にない模様。
「レベルが0になったくせに、よそ見とはいい度胸だな貴様!」
レベルが0になったヒイラギに容赦なく剣を振り上げるジアン。
ヒイラギはちらりと辺りを見渡す。いきなりの剣騒動に周りは困惑しており、ここは店先である。
ヒイラギが次の一太刀を避ければきっと店先には剣の傷痕が多数残ることになるだろう。何せ城下町の店は木造建築が多い。
(腕で受け止められっかな…)
ヒイラギの腕は普段なら剣程度なら受け止め弾ける防御力を持つ。
ただ、今のヒイラギは雑草以下な為その防御力が維持されているとは到底思えない。
(腕が落ちても、まあ痛いけど先生に回復してもらえば…でもそうなるとモンスターの血が飛び散るよな…オレの血って青いしここの連中にとってみると気味悪そう…)
と、ほんのわずかな時間で色々考えているヒイラギ。
「いい加減にしなよ」
そこでヴァニタスが二人の間に入り、振り下ろされた剣を指二本で受け止めた。
「キミらがどんなに吠えようが荒れようが、ヒイラギが激昂しない限り俺は手を出すつもりはなかったけど、なんなの?
ヒイラギのレベルが0で、すぐに死んでしまうとわかっていて剣を振り下ろす? アンタ、本当に世界を救うために選ばれた一人なワケ? 感情任せの行動。後先考えない軽率さ。実に愚かで実に滑稽。だけど、それを向ける相手が悪かったね。」
淡々と、冷めた眼差しでジアンを見つめ言葉を紡ぐヴァニタス。
受け止めた剣をバキリと折り、その場に捨てる。
「ヒイラギに傷一つ付けてみろ。
数分でこの国を滅ぼしてやるからな。」
唸るように低く、しかしはっきりとそう言い、ヒイラギを振り返る。
「馬鹿なの? こんな馬鹿とっとと殺せよ」
「オレは殺生で解決できることなんてないと思ってるからなぁ。なんにせよ助かったぜ先生。
腕一本無くなるかなって思ってたから」
「この俺が目の届く範囲にいるお前に怪我させると思ってんの? とにかく気分が悪い。こんな国とっととおさらばするよ」
「え、待ってくれよ先生。透視は!?」
「俺の機嫌が良くなったらね」
「え~、って本当に行っちゃう? マジで? 待ってくれよ~」
目の据わったヴァニタスはヒイラギの言葉など無視ししてすたすたとその場から退散する。
何を言っても無駄とわかったらしいヒイラギは、動けないジアン達に悪いなと苦笑してヴァニタスを追う様にその場からいなくなる。
「化け物…」
そんな二人を見送りながら、誰かがそんな事を言った。
その言葉に肯定する動きはその場にいる誰もしなかったが、否定するような動きも誰一人としてできなかったそうな。
「だから言ったのに…」
誰にも聞こえないようにそう呟いたのはオラクルだけだったのである。
イベント回収終わったんで次は別チーム視点でイベント回収しに行きます。