第九話 パパは辛いよ
ーーとある商店街ーー
「ねぇぇ、パパかってよぉぉ」
「ダメだよ、ひろくん 誕生日までガマンしなきゃ」
「やだやだ、ロボほしいよ〜 かってよ〜」
おもちゃをねだって駄々をこねる子供とそれを諌める父親、この星に暮らす人間なら誰もが経験したことがあるであろう微笑ましい光景である。
「かってくれなきゃやだぁぁぁ!!」
「ママに怒られちゃうよ ほら帰っておやつ食べよ」
とはいえ当事者にとっては微笑ましくはないのかもしれない。いつの時代も子育ては大変だ...
「うぅ〜 ロボ..」
やはり男の子はロボットに憧れるものなのかどうしてもロボットが欲しいらしい。
「よ〜し、とぉりゃぁ バパロボだぞ〜」
父親は自分をロボットに見立て男の子を肩車する、だがそんなのでは満足できないらしい。しかし、そのおかげであるものを見つけた。
「あっ!! ロボだ!!」
意外と子供は目ざとい、電柱の影にロボットのおもちゃを見つけ、顔をパァーッとさせる。そのロボットを拾うためにパパロボは急行する。
「ほんとだ、よく見つけたな」
ソレを拾い上げ思わず呟いた、傷一つない新品同然のロボットだ。しかし、見たこともないデザインだった。
「わ〜いロボだぁ」
カッコいいロボを手に入れて男の子はご満悦であった。しかし、問題があった。
「ダメだよ..落とした人に返さなきゃ きっと困ってるよ」
どう見ても捨てられたとは思えないほど状態が良かったのでこれは落としものである、そう父親は判断した。そして実際落とした人はとても困っていた。
・
・
〈一方その頃〉
「平和だねぇぇ」
「そうだなぁ」
ライトと星奈の二人もつかの間の平和を満喫していた。シャドウが地球を去ったことで魔獣の出現が一時的に止まったのだった。そのため..
「やっぱその服似合うね」
「ん?? そうか」
ようやくあの買った服に袖を通していた。とはいえライトはその良さをイマイチ理解していない。戦闘では頼りになるが、相変わらず日常生活においてライトはポンコツである。この平和がしばらくは続く、二人はそう思っていたのだが...
ーードロォォンッーー
「うわっ なにっ!!」
突然部屋の中で白煙が上がった、幸いにも報知器は作動しなかった。そしてそこには宇宙服を着た一人の男が立っていた。
「mEspeg.hTIg_jA#A@y(Gf ##Gfa??」
「え?? ダレ?? なんつってんの??」
情報量に頭が追いつかない星奈は目を点とさせ、ひたすら困惑の表情を浮かべるだけである。
「なんだお願いって?? ていうかお前は誰だ」
「@@.fqpd( p/e_czpeg'gem...」
ライトにはこの言語も分かるらしく普通に会話を続ける。
「ちょちょ、待って!! 何普通に会話してるの?! この人何言ってるの?!」
一方星奈は何言ってるのかまるで分からない、流石にこのままでは色々まずいのでとりあえずライトに通訳を求めた。
「えぇと、“最初がはじめまして、ちょっとお願いしてもいいですか”で次が... いちいち説明するの面倒だな..オレの頭に触れ」
別な意味で何言ってるのか分からないが言われた通り星奈はライトの頭を掴んだ。
「じゃあ、改めてもう一度頼む」
「はぁ..ワタシはプレグ星人のケンと言います。 ちょっと困ったことがありまして..」
「わっ!! すごい分かる!! ...なんで??」
すると不思議なことにその男が何を言ってるのか、星奈にも分かるようになった。でもなぜなのか分からない。
「翻訳装置付けてるからな、オレ」
なかなか便利なモノを持っている、今までライトが当たり前のように星奈たちとやり取りができていたのも全てはこの翻訳装置のおかげである。
「あのぉ〜 続けていいですか??」
「「どうぞ」」
話が脇道へ逸れかけていたのを修正しようとケンが口を開いた。いよいよ本題に入る。
「実はですね、ワタシには息子がいるのですがこれがもう可愛くって可愛くってこの間なんかも..」
「説明は簡潔に..」
会話が始まって五秒も立たずに話が脱線しかけたのでライトは釘を刺した。
「息子へのプレゼントを落っことしました」
「えっ...それ本当か..」
非常に簡潔にまとめると困っている内容はコレである。大した事はない内容にも思えるがライトの顔は非常に曇っている。
「どしたのライト??」
「いや..確かプレグ星って科学がもの凄く発展した星だったような」
ライトの言う通りプレグ星の科学は地球のソレとは比べ物にならないほど発展している。科学は便利なものであるが使い方を誤ればトンデモナイことを引き起こす。それが未知の領域のモノであるならなおさらだ。
「いやぁ、ワープ中についうっかり」
「いやそれうっかりで済まないでしょ..」
ケラケラ笑うケンに星奈はツッコミを入れる、しかし事は一刻を争う事態だ。
「とにかく!! 何を落とした!?」
「ン?? あぁそれはですねぇ...」
ーードオォォォンーー
突然轟音が響いた、そして三人は窓の外を見ると見慣れない巨大なナニカが見えてしまった。
「アレだぁぁ!!」
「「でしょうね!!!!」」
・
・
とにかく三人ともその巨大なナニカの所へ急行した。そのナニカとは高さ十五メートルはゆうにある巨大ロボットであった。
「あぁぁぁ良かった、見つかったぁぁぁ」
大切な息子へのプレゼントを無事見つけケンは歓喜の声を上げる。そして全身で喜びを表現する。
「よかったよかった一件落着だね」
「そうだな」
「ヒロトォォォォ降りてこぉぉい」
「「......え?!?!」」
なにやら傍で男性が叫んでいる、その場にいた人達はその様子を見て察した、ただ一人ケンを除いて...
ーーピピピピッ ブォンッ シュゥゥゥーー
そしてロボットは奇妙な音と煙を出した。
「ねぇライト..」
「あぁ..そうだな」
ーーバディルッ バディルッ バディルッーー
「「動くぞコイツッ!!!!」」
突如、巨大ロボットは歩き出した、ゆっくりであるがしっかりと進んでいく。その様子を見て約二名が悲鳴をあげる
「えぇぇ、ちょっ、ちょっと止まってぇぇ!!!!」
「ヒロトォォォ、今すぐ降りなさぁぁぁい!!!!」
二人の父はロボットに向けて叫ぶ、しかしロボットが止まる気配はない。そのまま進むロボットをその二名とライトと星奈が追いかける。
「どぉすんのライト!?」
「止めるしかねぇだろ!!」
ライトは剣を取り出した。その様子を見ていた二人の父は口々にライトに頼む。
「息子を降ろしてやってください!! 優しく!! お願いです!!」
「息子が楽しみにしてたプレゼントなんです!! 壊さないで!! お願いです!!」
「このまま進んだら駅だよ!! 急いで止めなきゃ!!」
「うるせぇ、簡単に言うなぁぁぁぁぁ!!」
珍妙な四人の集団は絶叫しながらロボットと並走する。幸いコレはおもちゃであり武装はないし、敵意もない。だからこそタチが悪いとも言えるが...
「とにかく止めるぞ!! おい、コレは頑丈だよな??」
その問いにケンは肯定の意を示す、つまり多少手荒になっても問題ないという事だ。というわけでライトはタイミング見計らう。
「今だっ、セリャァァ!!」
ロボットが片足をあげた瞬間その反対の足を後ろから思いっきり突く。それによってロボットはバランスを失って倒れた、後ろに...
ーーズシャャァァンーー
「よし、うまくいった!!」
「死ぬかと思ったわ!! バカ!!」
危うく潰されかけた星奈はライトに怒る。一方二人の父はロボットに近寄る。
「ヒロトォォ、出てきてくれ!! お願いだぁぁ」
「あぁ、なんとか元に戻さなきゃ!! えぇと確か...」
とりあえずスイッチを押し、中の人を外に出そうとケンは試みたのだが...
「どうした!? 早くしろよ」
「コレ、スイッチ背中だ...」
「...嘘だろ??」
残念ながらまぎれもない事実、スイッチは背中にあるためこのままでは押すことはできない。しかも起き上がれないのかロボットは足をバタつかせる。
「ごめん一回起こしてくれるライトさん??」
「.....」
「ホラ切り替えてさ..もう一回...」
顔はもうやだと言っている、しかしやらなきゃ仕方ないのでなんとか起こそうとするも流石に重すぎてどうにもできない。四人は絶望感に襲われた...
ーーシュビンッーー
「「「「え??」」」」
謎の音がするとロボットの中から一人の男の子が出てきた。起き上がろうと適当なボタンを押したら結果的に出てきたらしい。ロボットに乗れて満足したのか満面の笑みで父親に言った。
「パパ、ぼくおなかすいた」
「ヒロトォォ、よかった!! 無事で!!」
息子を抱きしめて父親は涙を浮かべながら安堵の表情を見せる。そしてもう一人の父親も..
「よかったぁぁ、傷ひとつないぃぃ」
搭乗者がいなくなった事で再び小型化したロボットを握りしめてこちらも叫んだ。そんな二人の様子を見て、ライトと星奈の二人はつくづく思った。
「「お父さん大変だなぁ」」