第六話 星に捧げる想い
「妙なこと?? 一体なんだそれは??」
前回の戦いから一週間、ようやく眠りから覚めたライトが星奈に問いかける。
「うん、それがねぇ」
星奈はアイスを食べながらその妙なことについて説明する。相変わらず猛暑なのは変わらない。
「この前の魔獣いたじゃん、ホラあの....」
「バルフレアか??」
「そうそうソレだ!! なんか死体が無くなってたんだって」
あの戦いの後、規制線が貼られあの一帯には誰も立ち入らないように警官が監視していた。にもかかわらず何者かが監視の目を潜り抜け死体を持ち出したのだという。
「死体を.. 一体なんのために...??」
ライトには誰がその死体を持ち出したのかは見当がついていた。そしてなんとなくではあるがかなり嫌な予感もしていた...
「散歩でも行く??」
星奈の言葉によってライトはハッと現実に引き戻された。ライト自身は気づいていなかったがその顔はすっかり青ざめていた。そんなライトを気遣った一言だった。
「そうだな..行こうか」
「よし、じゃあ行こう!! じっとしててもしょうがないよ」
というわけで軽く身支度を整え二人は出発しようとしたのだが..
「やっぱその服なんだね..」
呆れた顔で星奈は言う。それもそのはず以前買った服をライトはまだ一度も着ていない、相変わらずあのRPG風の服を着ている。
「いや、だっていつ出るか分からんし..」
実際、いつ魔獣が現れるのかライトには分からない。そのため戦う準備を怠るわけにはいかない。とはいえ、せっかく買ったんだから着てほしいという星奈の気持ちも分からなくはない。
「着ようか??」
「いやいいや、また今度で」
いつ魔獣が出るか分からないことを考えればライトの方が正しいのでとりあえずそのことは置いておくことにした。
「どこか行きたいトコとかある??」
今までの外出は基本的に星奈が行き先を決めていたので今回はライトに希望を尋ねる。
「星が見える所に行きたい」
その答えは意外とも、当たり前とも取れる答えだった。とはいえ今はまだ昼過ぎで星を見るには早過ぎる。なのでとりあえずは一旦夜を待つことになった。
そして七時間後...
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二人は星がよく見えると評判の公園にやって来ていた。この夜はよく晴れ渡り空には多くの星々が輝いていて、そんな星々を二人は黙って見つめていた。
「ライトの故郷は見えるの??」
沈黙を破って星奈がライトに問いを投げかける。そして、その問いにライトは首を横に振った。
「きれいだな..」
そう一言呟くとそれに続けてライトは語った。
「この星々をオレは守らなきゃならないんだ、絶対に...」
それはライトの想いだった。決して揺らぐことのない想いだ。
「くだらない、お前一人で何ができる??」
夜の闇の中から声が発せられた。そう、アイツの声だ。
「シャドウ!!!!」
「よぉライト、それと..お嬢ちゃん」
「はぁ... えっと、あなたは??」
お嬢ちゃんと呼ばれるのは十五年ぶりくらいなので星奈は困惑した。そしてこれがシャドウとの初対面であったので何者なのか尋ねたのだが..
「知る必要あるか?? どうせ地球は滅びるのに」
その問いにシャドウは答えなかった。そればかりか衝撃的な一言を突きつける。その言葉にライトは怒りをあらわにする。
「そんなことはオレがさせない!!」
握り締められた拳は怒りでワナワナと震えていた。しかし、そんなライトに構うことなくシャドウはさらに続ける。
「どうだか。 まっ、頑張ってるのは認めてやるよ なかなか見事な戦いぶりだったからな」
シャドウは相変わらず癪に触る言い方でライトを挑発する。
「今、決着をつけてやろうか!?」
ライトは剣を構えドスの効いた声でシャドウを詰問する。
「いや...今はまだだ」
ライトの問いをシャドウは拒否する。その代わりに懐から青黒い球を取り出した。
「お前が戦うのはボクじゃないコイツだ!!」
すると球は光を放ち、一体の魔獣が召喚された。その衝撃であたりには地響きが起こった。その様子を見ていた星奈は思わず驚きの声を漏らした。一方ライトは身構え、そして魔獣は咆哮する。
「グルラアアァァァッッッ」
その咆哮は空気を振動させ、星空の下響き渡った。咆哮だけでこの魔獣がかなりの実力を持っていることがうかがえる。つり上がった目、生え揃った牙、ゴツゴツとして太い手足、そして尻尾と正統派な怪獣のような容姿もその強さを示していた。
「狂暴魔獣タイタンだ、地球を守りたいなら退治してみろ」
「言われなくてもやってやるよッ!!」
ライトは接近すると相手のパンチを身を低くしてかわし脚を狙って剣を振る。硬い外皮を斬ると火花が散った。そんなこと意に介さずタイタンはその脚でライトに蹴りを入れる。
ーーガゴンッ ズザッーー
ライトは剣で蹴りをガードするがその威力を殺しきれず後退させられる。が、今度は肩を狙って剣を振り下ろす。
ーーガギュッンッーー
しかし外皮こそ斬れるものの相当硬い骨格をしているようで斬り落とすまでにはいかない。
ーーブオンッーー
タイタンは尻尾を振り、ライトに攻撃を仕掛ける。それをライトはきりもみジャンプでかわし、着地と同時に剣を水平に振る。剣は腹を捉えたがタイタンは構わずカウンターのパンチを放ち、それを見事に食らったライトは吹っ飛んだ。
「クッ...コイツ.. かなりタフだな」
その後も何度剣で斬ろうと、タイタンの攻撃ペースは一向に落ちない。今までの魔獣と違い特殊能力は無いがただ単純に強い。
「グ..ガガァァァ」
ーーズオオオォォォンンンーー
口の中に熱線を蓄え、それをライトに向けて放出した。その熱線は星空を赤く照らした。
「負けるかぁッ!!」
ライトは避けずに剣で熱線を受け止める、そして剣にエネルギー込め熱線を切断する。斬られた熱線が地面に着弾するとライトの背後では爆炎が上がった。
「ハァ.. ハァ.. オレは..負けるわけにはいかないんだぁぁぁッッ!!」
鬼気迫る表情でライトは突撃する。そして跳躍するとタイタンの首に蹴りを入れ、体勢を崩したタイタンにエネルギーを込めた剣を一閃させる。
「グガッッ!?」
そのままタイタンは倒れ、ライトは馬乗りになると口に剣を噛ませ熱線を封じると腹を、喉元を何度も殴打する。だが、タイタンもやられっぱなしではなく、尻尾をライトの背中に叩きつけ跳ね除ける。
「ハァ..ハァ.. チッ 面倒な奴だ!!」
あまりのタフっぷりにライトも苛立ちを隠せず、つい剣を握る力も強くなる。そんなライトの様子をシャドウはただ黙って見つめていた。その後もライトはタイタンを攻め立てるが、何度攻撃を受けてもタイタンは立ち上がった。まだまだ余裕があるように見える。
「ハァ..ハァ..ハァ..ハッ.. クソッ..」
一方ライトの息はすっかり上がり、剣を握る手も震えていた。このままでは先に倒れるのはライトだ。
「こうなりゃ、一気に!!」
勝負をつけるべくライトは剣にエネルギーを収束させ、前回も使った大技“スラストフォトロン”を繰り出すも..
ーーバヂヂィィィンッーー
なんとタイタンはライトの突きを白刃どりしてしまう。そしてそのまま零距離で熱線を吐こうと構えた。
「クッ!! さぁせるかあぁぁぁぁぁ!!!!」
剣に収束させたエネルギーを放出させ爆発を起こすことで無理やり拘束と熱線の発射を阻止する。その爆発によって両者は共に吹っ飛んだ。
「ハァ..ハァ もう一発!!!!」
すぐさま体勢を整えるともう一度剣にエネルギーを収束させ二発目のスラストフォトロンを繰り出す。すると今度こそ剣はタイタンの腹部に突き刺さった!!
「デェェェリャアァァァッ!!!!」
ーードゴオォォォォンーー
そのまま爆発を起こし周囲は爆煙に包まれた。すると間も無く、爆煙の中からライトが姿を現した。
「ハッ..ハッ..ハッ....ハァァァ..」
疲労からすっかり息が上がり膝をつくと大きく深呼吸を一つした。爆煙によって顔が所々ススで黒くなっていた。
「やっ.... なっ!!!!」
ライトの目には衝撃の光景が映っていた!!
「グルル.... ゴアァァ...」
なんとまだタイタンは生きていた。腹部が爆発したにもかかわらず完全には死んではいなかった。とはいえ流石にノーダメージでは済まなかったらしくすでに満身創痍であと一撃加えればライトが勝つそんな状態だった。
「し..しぶとい奴め...」
トドメを刺すためにライトがもう一度立ち上がり、剣を構えたその時!!
「もういいや おしまいで」
あたりはまばゆい光に包まれた。その光が消えるとタイタンの姿も消え、その代わりシャドウの手には青黒い球が握られていた。
「どういうつもりだ、シャドウ!?」
「フン、あのままやってもお前の勝ちだ、タイタンはもう戦えない。 それに..もう十分だ」
「十分?? お前、何を企んでやがる」
「フフッ その答えは三日後に教えてやる。 さて、今日のところは帰るとしよう、じゃあなライト」
それだけ告げるとシャドウは影の中へ姿を消してしまった。そしてその宣言通り三日後、ライトはその答えを思い知ることとなる。