第五十四話 一対の光と影
「しばらくぶりだなぁ、ライト」
影の中から声が聞こえ、その主は姿を現す。その身に纏う黒い眼帯と装束、そして憎たらしい不敵な笑み。久しぶりに姿を現した、シャドウの様子はさほど変わっていなかった。
あの“決戦”以来、忽然と姿を消し、誰もその行方を掴むことの出来なかった宿敵は表舞台に舞い戻った。
そしてシャドウは這いつくばるライトを見下ろし、宝石を鑑定するかのように眺めた。
「まさに満身創痍って感じだな。あれだけ喰らえばそれも当然か。よく死なずに済んだもんだ」
「くッ..」
シャドウの評どうり、魔帝アノウによって完膚なきまでに叩きのめされたライトは動くことが出来ず、必死の抵抗として、睨みつけるのが精一杯だった。
「そんな目で見るな。安心しろ..今、楽にしてやる..」
哀しさを演じながら、シャドウは15センチはある長い針を取り出した。
「!? 何をッ!?」
驚くのも束の間。
-ブスッッ!!-
「ィッ!!」
ライトは小さく悲鳴をあげた。
-ブスッブスッブスッッ!!!!-
「ィッッ〜〜〜!!!?」
しかしシャドウは構わず何度も針を突き刺し、突き刺されたライトはその度に痙攣する。
「....よし、こんなもんだろ。しっかりしろライト、ホラもう立てるだろ」
促されるまま、ライトは試しに脚に力を入れる。するとどうだろう、さっきまでの激痛が嘘のように無くなっており、難なく立ち上がれる。
そして痛みが引いていたのは脚だけに限った話ではなく、全身から痛みが引いていた。
「..どうやら効いたようだな」
「....何をした!?」
「なに、針でツボをついて、痛覚を麻痺させた、ただそれだけさ」
ライトの驚きように、シャドウは大層ご満悦らしく笑みが隠せない。
一方で、こういうのをドヤ顔って言うんだろうなと思いつつ、ライトは不満であった。
「..もっと他に言い方があっただろ。あの言い方だと殺されるかと思ったぞ」
「だろうな。なに、ちょっとしたイタズラ心だよ」
「......」
思わずため息をこぼしかけたが、一応助けてもらったことを思い出して、ライトはそれを飲み込んだ。
「まぁいいや.. 回復してもらったんだし感謝しておくよ」
「....悪いが回復はしていない」
そう言った瞬間、シャドウは急に真顔になった。
「さっきの処置は、あくまでダメージを一時的に忘れさせただけだ、それも効力はそんな長くない。そのうち思い出すことになる、さっき以上の激痛を伴ってな。その時は....もう頑張って耐えろ.. 残念だが重ねがけも出来ない。
まぁ..どうせほっといても死ぬだけだったんだ、悪くは思うな」
「......思わねぇさ.. それより何しに来た!?」
痛みの飛んだライトの声はドスが効いて良く響いていた。だがシャドウは意に介さず、また薄ら笑いを浮かべて口を開いた。
「そうだな.. カッコつけて言うなら、宇宙の未来を守りに来た。カッコ悪く言うなら、そのためにお前に力を貸しに来た。これで理解してくれるか??」
ライトは薄っすらとは感じていた、多分、おそらく、少なくとも、もうシャドウは敵じゃないんじゃないかと、ただ分からない。
「..なんだって、今になってオレを助ける!?」
ライトが問うとシャドウは笑った。今日はいつになくよく笑う。
「そんなの知る必要があるか?? ま、強いて言うならちょっとした心境の変化さ.. それにヒーローごっこも、たまには悪くないさ」
「..つまり、オレの味方になってくれる....だよな??」
「........」
沈黙の後にシャドウは頰をかいた。
「......ま、そうなるな..」
バツが悪いのか、歯切れは悪かった。だが、間違いなく返答に嘘偽りはない。そしてそれは今再び、ライトとシャドウが並び立ったことを意味していた。
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「貴様どういうつもりだ、シャドウ」
二人を切り裂くようにアノウの厳かな声が響き、ライトとシャドウは向き直った。が、強張るライトとは対照的に、シャドウは余裕を見せていた。
「どういうつもり?? 別にそのままだ。悪いけど、ボクもお前に従う気が無くなった。今までずっと従ってきたが、それはもう終わりにさせてもらう。
どうやら....ボクもコイツと同じ、失敗作みたいだ」
シャドウはイタズラっぽく笑う。
「貴様は忠実だと思っていたが....残念だ」
「お前、馬鹿か」
乾いた笑いと共にシャドウは言い放つ。
「そもそも....戦闘力を向上させるために兵器に心を持たせようっていう発想が根本的に間違ってるんだ。確かに、心を持たせれば戦闘力は“成長”するさ。でも心を持たせたら、それ以外のところも“成長”するに決まってるだろう。
心が組み込まれたモノは、例外なく完全にはなれない。だからこそ永久に成長をし続ける。だが同時に、だからこそ心ってのは不完全で不安定だ。
そんな不完全で、自分でだって制御の効かない要素を組み込んで侵略と殺戮なんて繰り返させたら、そりゃ自分たちの在り方に色々と思うところが出るに決まってるだろ。お前が思ってるほど、心は甘いモンじゃないんだよ。
大体、忠実ぅ?? まともに考えて、汚れ仕事ばっかり押し付けて、大して労いもしてくれないような奴に、忠実になれる訳ないだろ。
別にボクはお前に忠誠を誓ったことなど一度もない、今までボクがお前に従ってたのは、そうするしか生き残る方法がなかったからだ。
でも--」
シャドウは懐のクリスタルを砕いて、弓を召喚し握りしめると口角を引きつらせる。
「もうそうする必要も無くなった..」
シャドウの眼光がアノウを射る。
「ずっとお前に仕えてきたが..お前、最近は妙に魔獣をケチるようになったよなぁ。前までは、最強魔獣でもホイホイ造ってくれてたのに、最近は使い回してばっかだし。
昔は失敗したら、それこそ裏切りでもしようもんなら容赦なく粛清してたのに、また服従のチャンスをやろうなんて甘々なことも言い出すし..
それに....」
そこまで言うと、もったいぶるようにシャドウは視線をアノウの足元に下げた。
「もうしばらく、お前がそこから一歩でも動いたとこを見てないんだが....ひょっとして動かないんじゃなくて、動けないんじゃないか??」
釣られてライトも足元に視線を向けた。なるほど、確かにアノウの立ち位置は戦闘前と一歩も変わっていない。思い返せば、戦闘中でさえアノウは一歩も動かなかった。
その時は単に、動く必要すら無いほど余裕があったのだと流していたが、一歩も動かないというのは確かにちょっとおかしな話だ。
体の向きを変えれば、それだけで多少は動くのに、それさえしないのは流石に異常だ。
「........まさか!?」
シャドウの言わんとすることをライトも察したらしく、驚愕の表情を浮かべた。
「お前....もう先が長くないんだろ。エネルギーが底をつきかけてるんだ。
そりゃあ、ケチにもなるし、リサイクルもしたくなよなぁ、無駄遣い出来ないんだから」
「..さぁ、どうだかな」
「誤魔化しても無駄だ。ボクの情報収集能力の高さは知ってるだろう?? それとも......それも忘れるほど衰えたか?? 皮肉なもんだな、お前も所詮、生物の性からは逃れられないんだから」
シャドウの演説を横で聞くライトは頭が痛くなりそうだった。
別に麻酔が切れそうとかではない。絶好調なシャドウの演説を、ただ黙って聞くアノウがどんな顔してるのか、おおよそ想像についたのだ。いや、ついてしまったのだ。
「おっと、どうやらお怒りのようですね。では御託はこのぐらいにしておきましょう....
おいライト、耳貸せ」
シャドウが手招きし、耳元で囁く。
「......分かった」
力強く返事をすると、ライトはシャドウと共にアノウに向き直った。
「..さて待たせましたね。では戦闘再開といきましょうか、アノウ様」
「今更貴様一人がそっちについたぐらいで何も変わりはしない。すぐに終わりだ」
「ハッ..何もかもが........お前の掌の上だと思うな..」
「そうだ.. それに、大切な誰かのために戦うこと、大切な誰かと共に戦うことの強さをお前は知らない。
オレたちは......孤独なお前に負けない!!」
言い切った次の瞬間には、二人は動く。声掛けも、目配せもなしに、二人は連携を取る。
-シャンッッ バシュンッッ-
ライトが双剣を振り、X状の刃を飛ばすと同時に、シャドウも矢を射る。
-カッ!! ギャルルルルッッ!!-
刃と合体した矢は、巨大な鏃を手に入れ更なる貫通力で、空気をも貫きながら一直線。
「「デッドアロー・ゴー・X!!!!」」
-ズガァァアアンッッ!!!!-
爆炎が昇った。
「「....!?」」
-ヒュンッ..ガガガガガガガッッッ!!-
まだ爆炎の晴れぬうちに、無数の光弾が打ち出されライトたちを襲う。たちまち辺りは火の海だ。
「....ならば余は、その全てを滅し、無に帰そう。もう一度、初めから宇宙をやり直すのだ」
火の海の中からライトたちは跳び上がった。炎は顔を赤く染める。
「..遅れを取るなよ、ライト!!」
「そっちこそ、援護は任せたぞ!!」
【どうせもうすぐ終わっちゃうから色々ぶっちゃけちゃう劇場】
さて、今回再登場したシャドウですが、実は連載当初の予定では途中で退場する予定でした。具体的に言うと、42話の決戦で敗れて死亡するはずでした。
だったのですが、42話の流れ的に憎しみを克服したライトがシャドウをコロすのはちょっと違うなと思ったのでギリギリのところでシャドウが生存する方向にシフトしました。
そして当初のシナリオでは、今回の耳打ちのシーンは死に際の会話になるはずでした。
が、シナリオが変わった結果、シャドウはこれ以上ないほど絶好調です。




