第四話 ライトのおつかい
七月も後半に差し掛かり連日のように真夏日が続いていた。蝉の声も一層とやかましくなり、いよいよ夏も本番の様相を見せていた、そんなある日のこと。
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「えー 今日はカレーを作りたいと思いますっ」
「カレー?? なにそれ..」
星奈の突然の宣言にライトは目を白黒させた。
「カレーっていうのはね、地球で人気の食べ物だよ」
ライトでもわかるように星奈はカレーについて簡単に説明した。おかげでライトもカレーが食べ物であるということだけは理解することができた。
「へぇー.. まぁ頑張れよ」
とりあえず自分には関係ない、ライトはそう思っていたのだが、そうはいかなかった。
「でさ、できれば材料を買ってきて欲しいんだよね」
「え、オレに!?」
「そ、ライトに」
まさかすぎる発言にライトは本当に自分がなのかと確認するが、本当にそうだった。当然いろいろと気になることがある。
「お前じゃダメなのか??」
「私、今日帰り遅いから....」
言外に助かるんだよねを匂わせ、星奈は答えた。それに気づいたのかいないのか、ライトは了承した。とはいえ....
「オレで大丈夫かな??」
さっきまでカレーという単語すら知らなかったのに、というか実物はまだ見たことすらないのにちゃんと買えるのか?? そんな率直な感想を述べた。
「まぁなんとかなるよ そんなに材料多くないし、それにカレーなら多少間違ってもなんとかなるし!!」
「なぁんだ、そうなのか」
「だから安心してね」
そう言ってライトを勇気付けた後、カレーに必要な材料、スーパーまでの道のりを伝え、それらをメモした紙をライトに渡した。
「困ったらそれでなんとかなるから」
「よし まかしとけ!!」
財布と鍵を受け取り、いよいよライトはじめてのおつかいがスタートした。
「じゃあ、頑張って!! 私も試験頑張るから」
そう伝えると星奈は駅へと向かって行った。一方ライトは足早にスーパーへと向かった。ここからスーパーまでは徒歩で約十五分、何も起きなければ一時間もしないうちにおつかいは終了する。
「確か“道なりを左”、だったな ..ミチナリってなんだ?? まぁ.. とりあえず左に行けばいいか」
一応は言われた通り、ライトは道を辿っていく。ここまでは..
「で、確か“三つ目の信号を渡ってしばらく真っ直ぐ歩いたら目的地”か、なんだ楽勝だな!!」
すると間も無く一つ目の信号が見えてくる。ちなみに信号については前回の戦いの後、星奈に教わったので十分理解している。しかし、問題はここで発生した。
「えぇと、一、二、三、四.... ここがそうか」
無論、ここはまだ一つ目の信号である。だが、ここは割と大きめの交差点であったため信号は四基、設置されていた。つまり、ライトはこの四基の信号のうちのどれかが三つ目の信号であると解釈した。
「さて.. どれが正解だ??」
全部不正解である。強いて言えば直進なら正しい道を辿れる。
「渡れるのは前か右だな.. 待てよ、ずっと真っ直ぐならわざわざ“渡って”なんて言わないな。 ということは.. 正解は右か!!」
一応、理にかなってはいる。問題はそれ以前だが..
「あとは真っ直ぐ歩くだけか」
自分が間違っているとはつゆ知らず、律儀に左右の確認をしてライトは信号を渡る、そして進む。ただひたすら真っ直ぐに。
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「おぉ、着いた着いた」
そして歩くこと....二時間。奇跡的にあった同名のスーパーにライトは到着した。途中、いくつかスーパーはあったがそれらを華麗にスルーし、ここに到着した。
「さて、どこだ。 意外と広いな」
何が必要なのかは分かっている、問題は場所だ。しかし、意外にもこの問題は早くも解決した。
「なぁ コイツらはどこだ??」
近くにいた人に場所を訪ねるとそれが幸運にも店員だった。よってライトはすぐに材料を手に入れ代金を払い、スーパーを後にした。あとはもう来た道を歩くだけである。二時間....
「親切な人がいるもんだ」
助けてくれた店員への感謝を述べ、ライトは歩いていく。ちなみに星奈が作るカレーはオーソドックスなカレーである。よって材料は..
「ニンジン、ジャガイモにタマネギ、なるほどカレーか??」
「ああそうだ。 ....!? シャドウ!!!!」
ライトに話しかけた声の主はシャドウだった。これにはライトも驚いた。
「おつかいか?? ご苦労なこった」
完全に小馬鹿にしたような態度でシャドウはライトを労う。相変わらずその顔には微笑が浮かんでいる。
「そうだ、だから今はお前を相手にしている時間はない!!」
毅然とした態度でライトは答える。その態度にシャドウは眉をピクリと動かす。そして、懐に手を入れながらライトに告げる。
「ライト、お前はまだ大事なことを忘れている」
「大事なこと?? 材料なら全部買ったぞ」
「フッフッフ.. はじめてのおつかいにはな。 ハプニングがつきものなんだよ!!」
そういうと青黒い球を掲げる。球が光を放つと魔獣が召喚された!!
「さぁ行け 尾刺魔獣デーマンダー!! アイツをスライスしろ!!」
その命令に答えるかのようにデーマンダーは甲高い鳴き声をあげる。尾刺魔獣デーマンダー、これまでの魔獣と違いトカゲのように四足歩行である。尾刺魔獣という名が示す通りその尻尾は大剣となっており、それを支えるために体躯もライトの倍以上大きい。もはや、トカゲと言うよりは恐竜に近い。
「..マジか....」
思わぬハプニングに見舞われたライトは心底嫌そうな顔を浮かべた。しかし、魔獣を無視するわけにはいかない。ライトは買い物袋を剣に持ち替え構えた。
「とっとと終わらしてやる!!」
二つの剣はぶつかり合い火花が散り、あたりに金属音が響く。そのまま押し合いが始まるが両者のパワーはほぼ互角だ。埒があかぬとみたライトは剣を傾け相手の大剣を受け流すと、剣を振るい大剣を持つ尻尾を斬り落とし、ついでに相手の腹に蹴りを入れる。
ーーズバッッ ドゴォッーー
これにはデーマンダーもたまらずうめき声をあげた。だが、そのうめき声は痛みを感じたからあげたのではなかった。
「グガァァァァ」
ーーズボォォォーー
その声に呼応し、切断面から新たな尻尾が生えた。さらにデーマンダーの体表が赤く染まっていくにつれて体表の温度はどんどん上がっていき、ついには発火した。尻尾の大剣も炎の大剣と化す。
「ガァァァァ!!!!」
全身を燃え上がらせたデーマンダーが迫る。ライトは距離をとって対処しようと試みたが..
ーーヒュオッ ボオオオオッッッーー
デーマンダーが大剣を振るうと炎の波が押し寄せる。これを避けるためにライトは跳躍した。それを待っていたかのようにデーマンダーはその体躯で信じられないほど高く跳び、体を回転させライトに大剣を振り下ろす。
ーーガギッ ドゴォォンーー
剣で攻撃を防ぐも勢いまでは防ぐことができず、ライトは地面に叩きつけられた。そんなライトにデーマンダーはのしかかりを仕掛ける。
「うおっ 危ねっ!!」
すぐさま跳ね起きると危機一髪でそれをかわした。だが、デーマンダーの猛攻は終わらない。すぐさま大剣を振るい炎の波を発生させる。そしてその波にライトは飲み込まれてしまった。
「ゴォアアアアアァァ!!」
勝利を確信したデーマンダーは雄叫びをあげる。しかしそんな中、炎の中にシルエットが浮かび上がってくる。
「まだ喜ぶには早いぜ」
なんとライトは耐えていた。そしてその背中には翼が生えていた。ライトは攻撃を食らう直前に翼を装着し、それで自身を覆うことで炎の波を防いでいたのだ。
「今度はこっちの番だ!!」
翼を羽ばたかせるとあたりには強風が巻き起こった。その強風によりデーマンダーの炎は吹き飛ばされてしまった。そして、その強風はデーマンダーの巨体を浮き上がらせた。
「今だッ!!」
ーーパキンッ ドスッッーー
ライトは翼を外し、すかさず落ちてくるデーマンダーを全力で蹴り上げた。
「光」
剣を右手だけで振り斬ると、今度は左手を主に剣を振り腹部を斬り裂く!!
「剣」
そのまま体を一周させながら斬撃を浴びせ、首に蹴りを入れる!!
「連」
落下しながらも剣の動きは止めずに何度も何度も何度も何度も剣を振るう!!
「斬ッ!!」
エネルギーを込めた渾身の一撃を叩き込む!!
光剣連斬、この連撃を受けたデーマンダーはスライスされていた。そして間も無く大爆発を起こし塵となった。
「さて、帰るか」
無事にハプニングを乗り越えたライトは再び剣を買い物袋に持ち替え帰路に着いた。
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「いや〜 ほんとありがとねライト」
しっかりと仕事を果たしたライトに星奈は感謝を述べる。
「別に大したことなかったな それよりまだか??」
「もうできたよ〜」
いよいよカレーの登場である。初めて見る食べ物にライトも興味津々である。早速、一口食べてみる。
「どう?? 大丈夫??」
そんな星奈の問いにライトは答えた。
「おぉっ 力がみなぎる!!」
終わり良ければすべて良し、ライトはじめてのおつかいは大成功で幕を下ろした。