第三話 宿命の再会
この間の魔獣事件は最初のモノほど大きく取り上げられることはなかった。郊外という立地がそうさせたのか?? はたまた早くも人間が魔獣に慣れてしまったのか?? 原因は分からないがとにかくそれほど取り上げられなかった。しかし、それは被害を未然に防げていた証明でもあり一概に悪いことではない。ただ、少しばかり妙な点があったことも事実である。
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その頃、ライトと星奈は都内の衣料店を訪れていた。というのもライトが持っている服は今着ているRPG風の服だけである。これから地球で暮らす上でこのままでは大変不便であろう。そう考えた星奈がライトを連れてきたのだった。
「コレとかいいんじゃない??」
「....もう、わからん....」
かれこれもう一時間以上経っているが服は未だに決まらない。ぶっちゃけあまり乗り気ではないライトの心はもう折れている。ライトにはファッションが分からぬ。よって要望は一つだけである。
「....とりあえず..動きやすいヤツ..頼みます....」
力ない声でライトは伝える。イスに座ったその姿はまるで敗戦ボクサーである。しかし、そんなライトに構うことなく星奈は何着もの服を持ってくる。そしてそのたびにライトはうなだれながら試着室へと赴く。
「おぉ〜 それもいいねぇ!! じゃ つぎコレ!!」
「....」
終わる気配のないこの服との戦闘。ライトはもう何も考えないようにした。だが..
「ん〜 もう一軒行ってみる??」
「やめろぉぉぉぉ!!!!」
それはそれは力強い、心からの言葉だった....
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「いや〜 いい買い物ができたっ!!」
時計の針が二時を指す頃、二人は買い物を終え都心の雑踏を縫うようにして進んでいた。ライトの両手には今しがた買ったばかりの服が入った袋が提げられていた。
「服を買うのはこんな大変なのか....」
そんなことをボヤきながらライトは歩いていた。
「もうケガも大丈夫そうだね」
唐突に星奈が話しかける。この間の戦いからまだ二日しか経っていないが驚くことに負った傷は全て完治していた。
「寝たからな」
沈んでいたテンションを戻しライトは答えた。あの戦いの後、星奈を家まで送り届けるとそのままライトは深い眠りについた。そして目が覚めた頃には傷は完治し、その代償として二日という時間が経っていた。なので今のライトはまだ寝起きである。
「いや普通治んないよ」
さも当然のようにライトが言ったので星奈はツッコミを入れた。おまけに体はともかく服まで元通りになっていたのだから驚きである。
「うらやましいか??」
「まぁ.. ちょっとは」
そんなたわいもない会話を繰り広げていると、
「あれ?? もしかしてセイちゃんじゃない!!」
誰かに話しかけられた。セイちゃんと呼ぶその女の人の顔を見ると星奈の頭にある人物が思い浮かんだ。
「もしかして.. ナナちゃん!!」
どうやら正解したらしくナナちゃんと呼ばれたその女の人は満面の笑みを浮かべる。
「良かった〜 覚えててくれたんだ〜」
「忘れるわけないじゃんっ ナナちゃんのこと」
ナナちゃんこと藤野美奈は星奈が小学二年の時まで一緒に過ごした親友である。親の都合で引っ越し、それ以降は疎遠になっていた。ちなみにあだ名のナナは幼稚園時代の星奈が〈ミナ〉と言えず〈ナナ〉となってしまったことに由来する。
「そっちにいる人は.. もしかしてっ」
悪い笑みを浮かべながらナナちゃんは尋ねる。
「えっ.. いやいやそういうのじゃないよっ!!」
意図を理解した星奈は慌てて否定する。一方ライトは理解できず頭にハテナマークを浮かべる。
「大人になったんだねぇ セイちゃん」
間違った方向へナナちゃんは向かう。顔のニヤニヤが隠せていない。
「いやだからぁぁ」
星奈は訂正を試みるがうまくいかない。そもそもライトの本当の素性を説明したところで信じる人はそうそういない。
「じゃあお二人さん あとは仲良く」
結局、最後まで誤解が解けることはなくナナちゃんは去ってしまった。
「結局アイツはなんだったんだ」
「ほんと 変わってなかったなぁ」
二人は口々に感想を述べ、再び歩き出した。そして親友と再会を果たしたことで自然と話は友達についての事となった。そんな中で星奈が尋ねる。
「ライトって友達とかいるの??」
「いない」
ライトは即答、その返しは剣速よりも早かった。気まずさを覚えた二人の間に長い沈黙が続いた。どれほど続いただろうかナニカを見つけ、不意にライトが足を止めた。
「あれ どうし..」
星奈は言葉を詰まらせた。今まで見たことない形相をライトがしている。その顔は星奈を戦慄させた。
「持ってろ..」
そう言って荷物を押し付けると、車が行き交う大通りの反対側へ駆けていく。流石の身のこなしで車をかわしてあっという間に反対側へと渡ってしまう。クラクションと急ブレーキの音がこだまするもそれらを無視してひたすら走り続ける。
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しばらく走り続けるとライトは裏路地にたどり着いた。一見辺りに人影はない。
「出てこいよ!!!! いるんだろ!!!!」
感情をむき出しにしてライトは叫ぶ‼︎
「あらら 見つかっちゃったか」
そう言うと、全身真っ黒の服で身を包み、左目には眼帯をつけた人物が微笑を浮かべ、影から姿を現した。
「やっぱりお前だったのか!! シャドウ!!!!」
「久しぶりだなライト 元気そうでなりよりだ」
怒りに震えるライトに対して微笑を崩さずシャドウは答える。何を隠そう、コイツこそがこれまで地球で魔獣を召喚していた張本人である。
「お前.. 生きてたんだな」
「ハハッ 何を言う。 お前が生きているんだ、ボクが生きていてもおかしくないだろう」
「だったら、今ッ ここで!!」
ライトはついに剣を構える。それを見てシャドウは言った。
「つれないなライト、まぁせっかくの再会だ。 祝砲を放ってやるよ」
シャドウは懐から青黒い球を取り出す。光を放つと球は大通りへ飛んで行った。
「シャドウお前ッ!!!!」
「早く行ってやったほうがいいんじゃないか??」
人々の悲鳴が聞こえてくる。魔獣はすでに暴れ始めている。それを止められるのはライトしかいない。仕方なくライトはシャドウを諦め、大通りへと戻って行く。するとその混乱の中心で体中に棘を生やした不気味なサボテンのような魔獣が大暴れしている。
「千棘魔獣スピクタス!! 面倒なヤツを!!」
怒り収まらぬまま、ライトはブレードショットを放つがスピクタスは体から棘を飛ばしそれを相殺する。さらに爆煙から無数の棘が襲いかかり、それが地面に着弾すると爆発を起こした。あたりには大破し炎上した車が多数、転がっているがそれもこの〈爆棘〉によるものだ。
「好き勝手暴れやがってッ」
しかし言葉とは裏腹にライトは攻めあぐねていた。理由は二つ。一つは下手に動くと逃げる人々に爆棘が当たるかもしれなかったから。もう一つは近づけば近づくほど爆棘の回避が難しくなるからであった。この爆棘がスピクタスの最大にして唯一の武器である。刺さったら爆発するという極めてシンプルな性質をしているが一発でも食らえば致命傷になるほど凶悪な威力を秘めている。
ーーヒュン ヒュン ヒュン ヒュンッ.....ーー
ーードドドドドッッッッーー
そんな武器を無限に放ってくるのだから非常にタチが悪い。一応、水を大量に浴びせれば棘もスピクタス自体も無力化できるのだが今、その手法を使うのは難しい。ならば策は一つしかない。
「足踏みしてても仕方ねぇ!! ブレードショットッ」
ライトは覚悟を決めた。光の刃を飛ばすとライトもスピクタスに突っ込んで行く。爆棘と光の刃が衝突し爆炎をあげるも構うことなくライトは進み続ける。しかし、すでに第二陣の棘が放たれていた。棘の雨はライトに襲いかかる。
「光 剣 連 斬ッ」
ーーズガガガガガガガガガッッッーー
棘を全て弾き返しスピクタスの正面に立ったライトは剣を一閃させた。
ーーギギギギッ バカッッーー
その一撃を受け、スピクタスは真っ二つに切断され、そして絶命した。もう一つの策、それは“真正面から突っ込む”だった。半ば賭けであったがライトは見事勝利した。
無事、強敵を撃破したライト。だが喜んでばかりではいられない。宿敵との再会、それはこれからも続く魔獣との戦い、そして波乱を示唆していた。ライトの地球での物語はまだまだ終わらない。