第十二話 とっ散らかってますな
八月も終盤に突入したある日のこと....
「さぁ始めようかライト!!」
「おー....」
頭巾とエプロンを着けた星奈が言った。旅館から帰って昨日の今日だが色々とっ散らかってるので季節外れの大掃除をすることとなった。
「よし、じゃあとりあえずライトも着替えてよ、その服も洗うから」
「いつものを着ればいいんだな??」
“いつもの”というのはRPG風な服のことである。星奈がうなづいたのでライトは上着に手をかけた。
「ポッケの中身出してね」
「言われなくても分かってる」
ライトはポケットの中身を取り出しそれを一旦テーブルの上に置いた。
ーコトッ..コトッ..コトッ..ゴトッッー
「......前から気になってたんだけどさ....そのやけにでかいやつは何??」
並べられたモノの中に一際大きなカプセルがある。他に置いてあるクリスタルはゴルフボールくらいの大きさだがそのカプセルはテニスボールくらいはある。
「言ってなかったっけ?? これは宇宙船だ」
そう言ってカプセルを手に取った。
「詳しい仕組みは伏せるけど...スイッチ入れるとそこそこなサイズの光の玉になるんだ、それが宇宙船」
「よく分かんないけど..赤い玉的な感じかな??」
「いや色は白いけど..」
細かいことはさておきこのカプセルが宇宙船で取扱注意である事は決定事項だ。というかライトの持つモノは基本的に全て取扱注意だ。
「絶対勝手に触るなよ..絶対」
本当に大事なことなのでライトは釘を刺した。一応セーフティはかけてあるが万が一のことがある。
「ちゃんと管理してね....」
星奈としてはただただそう祈るばかりであった。
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〈30分後〉
「ねぇねぇライトこれ見て」
「....掃除はいいのか??」
「一旦休憩、ホラ」
そう言って星奈はスマホの画面を押し付ける。画面にはある親子の写真が表示されていた。
「コイツらは...クラスターの時の奴らか!!」
「そうそう、今日退院するんだって」
そう写真の親子とはライトが地球に来て初めての戦いの時にその場に居合わせた親子であった。母親の方が脚の骨折が原因で入院していたのだが、順調に回復し今日退院することになったことを星奈に報告したのだ。
「そうか..そりゃよかった!!」
「にしても..結構経ったんだね、ライトと会って」
ライトと星奈のファーストコンタクトから一ヶ月以上が経っていた。その間に目まぐるしく起こった出来事が時間の感覚を麻痺させていたが、客観的な事実が経った時間の長さを気付かさせた。
「そうだなぁ....それにしてもなんだかんだお前には色々助けられてるな」
「えへへ、まぁ私達も助けられてるし、持ちつ持たれつってやつよ」
「..持ちつ持たれつ....か..」
「そ、持ちつ持たれつ...というわけで休憩終了!! 続きを頑張ろー!!」
いい話をしているが周りは乱雑としている。思い出に浸るのもいいが今は掃除が優先だ。
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「おい、この紙はゴミか??」
「あぁー!! 失くしたと思った課題!! なんで今更...」
普段動かさないものを動かすと色々なものが出てくる。ヘアゴム、靴下の片っぽ、シャーペンのキャップなどなど.... そして中には出て来て欲しくないものも出てくる。
「おい、コイツはゴミか??」
「ん??」
ーカサカサカサカサ ゴキッー
「....キャァァァアア!!!!」
「..ゴミでいいな」
「いやっ、袋に入れんな!! 外に捨ててぇぇぇ!!」
星奈の叫びを聞き入れ、ライトはソイツを窓の外へ投げ捨てた。
「捨てたぞ」
「手ぇ洗って!! ありがとぉぉおお!!」
トラウマを抉られ、妙なテンションになった星奈、そんな星奈を半ば呆れた目でライトは見ていた。
「ほんとお前虫嫌いなんだな.. 余裕でお前の方が強いだろ」
「そういう問題じゃないの....」
疲れ果てた星奈が小声で言った。星奈が虫嫌いになった経緯については長すぎてここに書くには書き足りないので割愛させていただく。
「情けないな...あの時はそれに助けられたけど」
「アイツか....ほんとアイツは無理..トラウマ....」
アイツとは星奈にトラウマを刻み込んだ魔獣、栄えある第一位に君臨する鋭刃魔獣エッティズだ。フォルムから羽音、何から何まで虫嫌いに不快感を与えるそれはもはや芸術的だ。ちなみに星奈が嫌いな魔獣トップスリーはこうなる..
第一位、鋭刃魔獣エッディズ(殿堂)
第二位、炎魔獣バルフレア
第三位、鋼殻魔獣クラスター
「ハァ....再開しようか......ハァ...」
「安心しろ、まだ出たらオレが処理するから」
ため息をつく星奈をライトは慰める。しかし、星奈としてはゴキもエッディズも、もう出てくるのさえ嫌だ。ところで星奈はふと思った。
「ライトにはさ、嫌いなモノとかないの??」
「.......そうだな、特にはないな....」
「ほんとにぃぃぃ??」
「....うん」
別にどうしても知りたいわけではなかったのでそれ以上の詮索を星奈がする事は無く、二人は掃除を再開させた。
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二時間以上掃除を続けあらかた終わった頃、スマホに着信があった。そのメッセージを見た星奈の口元に笑みがこぼれた。
「なんだ何かいいことでもあったか??」
「フフ、ナナちゃんから」
「ナナちゃん?? 誰ソレ??」
「いやライトも会ったでしよ、ホラ服買った時の」
「あぁぁ....思い出した、あの子か」
ナナちゃんこと藤野美奈は星奈の親友である。ライトも服を買いに行った帰りに一度だけ会っていたが、その後のシャドウとの再会にかき消されてすっかり忘れていた。
「来週のどこかで会おうだって、楽しみだなぁ」
「へぇ〜」
浮かれる星奈と対照的にさして興味のないライトは気の抜けた返事を返した。
「とっとと終わらそうぜ、掃除」
「おー」
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そして日が暮れる頃..
「よし、終わった終わったお疲れさん」
「意外とめんどくさいのな掃除って...」
特に何事も起こらず二人はようやく掃除を終え、星奈は頭巾とエプロンを洗濯機に放り込んだ。
「いやでも去年よりはマシだよ、去年は一人だったから」
「そうなのか??」
「うん、だから助かった!! ありがとね..ライト」
「こちらこそ..改めて....ありがとう」
顔を背けながらライトは言った。なんやかんやいって星奈には世話になっている。安全な休息場所の提供に始まり、地球の文化、風習を教え、時には戦いで勝つ鍵にもなっている。また、明るい性格もライトの傷を癒している。
「....良かったよ....お前に会えて....」
聞こえないようにライトは小声で呟いた。そして心の底から思った、絶対にこの宇宙を守ってみせると!!