双子の美姫に拾われた孤児の弟の初恋
よく似合ってるわよ!すごくカッコいいじゃない!
姉達の上手い言葉に乗せられ身をまかせ流されるままに着せ替え人形になっていたが。
賑やかな夜のダンスホールへ単身送り出されてからようやく気づいた。自分は場違いだ。
仮面で素性はわからないとはいえ、いや、だからこそ些細な挙動で育ちがどうしても出てしまうもの。踊りは駄目でもせめて食事マナーだけでも見苦しくないようにと、思っていたのだがそれも叶わなかった。マナーの戦場にいざ行かん、と意気込んで周りを見てなかった。人にぶつかった拍子にテーブルに手をつき、そばに置いてあったグラスが倒れ、服に盛大にかかってしまった。
給仕が慌てて飛んできて机や床を掃除し始める。
「お怪我はございませんか?」
「……大丈夫、ありがとう」
周りの貴族がクスクスと笑う。ぶつかったのは偶然ではなく人為的なものだったか。小さな笑い声が頭の中で飽和して響く。この場にいることが恥ずかしかった。
姉達に選んでもらった服を拭こうとする給仕から布巾を受け取り、その場を離れた。
人のいないバルコニーへ出て、上着を脱いだ。
外は涼しく心地よい風が吹いている。
正統な血筋ではなく養子縁組で拾われてきた俺みたいな存在をよく思わない者も貴族の中には多い。姉達が特殊なだけで、簡単に異物を受け入れられる人間ばかりではないことはわかる。場違いな自分が悪いのだ。壁にもたれてため息をついた。
「御機嫌よう」
ふと見ると赤いドレスを身に纏った小柄な女性がバルコニーに出てきていた。
咄嗟に壁から離れて居住まいを正す。
黙って、まっすぐ立って、軽く微笑んでさえいればいいのよ!姉のアドバイスがよぎる。
「ごきげ」
「まったく品がないわね」
「……、申し訳御座いません」
「貴方じゃなくて連中のことよ」
女性は舞踏会が続いている煌びやかな部屋の中を指差した。先程のあれの目撃者だったのか。
「気分を害したでしょう?」
「いいえ…」
「海より広い心をお持ちで素晴らしい」
「不注意な私が悪いのです」
「それもそうね。気をつけた方がいいわ、身体も大きいんだから」
「し、失礼致しました」
「冗談よ」
冗談の笑いどころがわからない。
これ以上目の前の女性を怒らせる前にこの場を去ろう。
「しばらくここに居てもいいかしら?」
「ええ、どうぞ」
場を空けて、室内に戻ろうと歩みを進める。が、何か引っかかるものに歩みを止められた。振り向くと女性がジャケットの裾の端を握っている。
「何故そう……、一緒にお話ししましょう」
「私とですか?」
「貴方よ。貴方に興味があるの。貴方がどんな人間なのか知るためにここに居たいの」
繊細な細工の施された仮面の奥に翡翠のような瞳が輝く。そのキラキラ光りを放つ瞳は彼女が身につけている他のどんな装飾品よりも美しく見えた。
「綺麗な目をしているのね」
自分が考えていたことと同じことを言うので、恥ずかしさが一周して笑えてきてしまった。
「何か変なこと言った?」
「とても綺麗な瞳の方に褒めていただき光栄です、ありがとうございます」
「どういたしまして」
当然と言わんばかりににっこりと微笑んだ。
舞踏会からもう1週間経つが毎日同じことを考えている。彼女の瞳の色と微笑みが頭から離れない。何をするにも上の空で、名も知らぬ相手のことを思い出しては笑みがこぼれ落ち、自分の失礼な態度も同時に思い出され苦悩する。
姉達はそんな様子に気づいているが、何も言わない。
メモにあったもの。タイトルの設定の話を書きたいです。