No.06「ベジタブルフレンズ」
俺の身体に一体何が起こった?
確か……古文の授業サボって保健室で寝てたんだよな……そしたら天井から緑色でヘンテコな蜘蛛……がツツーって糸を伝って降りてきて……
そいつを右手で振り払った瞬間……全身が痺れたみたいになって目の前が真っ暗になった。
とにかく落ち着け……俺の名前は「芽花星屋」16歳、身長173cm……体重65kg。B型、誕生日は2月6日……
よし大丈夫だ。意識はハッキリしてる。だんだん手足の感覚が戻ってきた。そろそろ真っ暗な視界に光をこじ入れることも出来そうだ。
「う……」
俺はゆっくりと瞼を開き、置かれた状況を確認した。
真っ白な天井、消毒液っぽい匂い……そして自分の身体は清潔そうなベッドに横たわっていることが確認できた。多分ここは病院の一室なんだろう。
「……お、目が覚めたか。大丈夫かい、聖屋くん」
俺の視界に突然メガネの中年男がヌっと割り込んで、話しかけてきた。
「ああ……あんた医者か? 」
メガネ男は白衣を着ていた。なのでコイツは意識を失った俺を治療した医者の先生なんだろうと憶測は出来たが、とりあえず話の流れを作る為にそう問いかけてみた。
「ああ。君は相当珍しい経験をしたよ」
「なに? 」
いきなり意味深な発言をしたメガネは懐から1枚の
紙を取り出し、そこに描かれたイラストを俺に見せつけてきた。それは俺が気絶する直前に目の当たりにした緑色の蜘蛛の姿にそっくりだった。
「この蜘蛛はね『ミドリゴケグモ』って呼ばれていて、国内でも数例しか存在を確認されていない幻の蜘蛛なんだ。君が気絶した理由は、そいつに咬まれて毒を注入されたからなんだ」
やっぱりそうか。と俺は思った。まさか手で払ったその一瞬で咬まれてしまっていたとは、幻と言われるだけあって、なかなか驚かせてくれる蜘蛛野郎だ。
「で? 先生。もうその毒は大丈夫なのか? 俺はこのまま家に帰れるのか? 」
「ああ心配ない。この毒は即効性があって、一瞬で意識を飛ばしてしまうほど強力ではあるけど、直接死に至ることは無いんだ。………ただ…………」
「ただ? なんだそりゃ? 言えよ! 気になるじゃねえか! 」
ここまで言ってもメガネは言葉の先を言いよどんでいた。自分で言うのもなんだが、俺はいわゆるヤンキーと呼ばれる類の人間だ。相手が誰であろうと、凄みを聞かせてビビらせることができる自信がある。
だが、それでもメガネはそのミドリなんとかグモとやらの毒について詳しく語ろうとしない。
「おい! いい加減話せや! 前歯ブチ折るぞ! 」
「ちょ!? ちょっと待ってくれ! わかった! 言うよ! だからその……約束してくれ……」
「ああ? 」
「ミドリゴケグモの毒には……ある特性があって……それを体内に取り入れた者は、とある部分の体質に大きな変化を及ぼすんだ……それを知っても……絶対僕を殴らないで欲しい……」
体質? 変化? なんだかよくわからねえけど、とにかくヤバイ事態に陥ってる可能性があるってことか?
「いいから言え! 絶対殴らねえよ! 早く説明しろ! 」
「分かった……言うよ……っていうか、それは鏡で自分の顔を見れば一目瞭然なんだけど……」
そう言ってメガネは俺に手鏡を握らせた。
フン、顔を見りゃ分かるって? ま、よっぽどのコトがねえ限り、俺はビビってバカらしい大声を上げたりはしねえけど……
……!?
「なに……な……こりゃあ……」
「すまない星屋くん……こればかりは今の医療技術をもってしてもどうすることもできないんだ……」
「うわああああああッ!! なんだこりゃああああああああああッ!!?? 」
俺は自分の顔を見て思わずチビるところだった。だってそうだろ? 誰だってこうなる。
自分の髪型が、ブロッコリーみたいな緑色のアフロヘアーになってたら……
……誰だってこうなる。
~一週間後~
退院して再び登校した俺に待ち受けていたモノ……それは自分の存在を全否定されるような……残酷な仕打ちだった。
「お! ブロッコリーだぜ! 」
「マジでブロッコリーじゃん……ウケる! 」
「何あの頭! 流行ると思ってんの? 」
「ダメ……視界に入っただけで笑っちゃう」
ギリギリ聞こえるヒソヒソ声……退院したからは常にこんな感じだ……クラスの生徒全員が四六時中を俺を小バカにしやがる毎日……クソッ!
はじめこそ「うるせえ! 何見てやがる! 」って感じに声を荒げて威嚇するも、どうやら緑色のボンバーヘッドがそう騒いだところでギャグにしか見えないらしく、誰一人怯えることはなかった。
要するに俺は、クラス全員からナメられているってワケだ。
「クソ! おもしろくねえ! 」
昼休みになり、俺は屋上に向かった。以前なら何人かたむろして向かったその場所だったが、今ではたった一人孤独な足取りで向かっている始末……もう誰も俺に構っちゃくれねえのか?
心が寂しいまま屋上にたどり着くと、クソ……どうやら先客がいたみてえだ。
「やめてよ……お願いだから……」
真っ白な痩せっぱちが、6人の生徒に囲まれてやがる……あいつは確か同じクラスの……「宇都」って奴だったな……しかしヒデエ目に遭ってやがる。
宇都は身ぐるみ剥がされてパンツ一枚の恥ずかしいカッコにされちまってる……囲んでる奴らはそれを携帯電話のカメラでパシャパシャ取りまくってやがるな……これで弱みを握って格好のストレス発散人形にしたてあげるワケか……それによく見ると宇都の体には下品な文字が落書きされてやがる……コイツらの趣味はつくづく高尚だぜ。
「う……うっ……」
とうとう宇都は泣き出しちまった。だが、それがかえってイジメてる奴らを盛り上げちまったみてえだ。大笑いしながらどんどん写真をとりまくってる。
「宇都ちゃーん! いいよぉ! この恥ずかしい写真、クラスのグループLINEに上げてやるからな! 人気者だぞおめえ! 」
「やめて! やめてよぉ! 」
あーあ、宇都の奴……これで本当に写真を上げられちまったらもう、コイツの人生終わりだな。一生恥を背負って生きなきゃならん。
ま、俺にしてみりゃ、男の癖にこの状況で拳一つ、足一つ相手の体にめり込ませねえでいるだけで自業自得だ。つくづく弱い自分を責めるんだな。
「やめてぇー! やめて! それだけは!! 」
「へ! 悔しかったら俺たちをブン殴ってみたらどうだ!? ま、そんなの無理だろうけどな! もやしっ子のお前じゃ何やったって無駄だぜ! ハハッ! 」
こうなったのも宇都の自業自得……
さっきまではそう思ってた……
だけどよ……
アイツら……決して言っちゃあいけねえコトを言いやがったな……
「おう! お前ら! その辺にしとけ!! 」
俺は考えるよりも先に、すでに宇都を囲ってた連中の前に乗り込んでいた。
「な!? なんだてめえ……てか何だその髪! 」
「おい! コイツ噂のブロッコリー野郎だぜ! すげえ! 本当に緑のアフロだぜ! ガハハハ!! 」
好き勝手笑いやがれ……
俺はもう……
我慢の限界なんだよ!!!!
「うおおおおッ!!!!!!! 」
気がついた時。俺の足下には6人の男がケチャップまみれで横たわっていた。
やりすぎたとは思わない。悪いことをしたとも思わない……コイツらこうなるリスクを覚悟の上で、宇都をイジメていたハズだからな。
「芽花……くん……? 」
「大丈夫か? 宇都」
「う……うん……」
「全くだらしねえなおめえはよ! あんな状況になるまで黙って言うとおりになるなんてよ! ブン殴っちゃえばいいんだよ! 」
「………………ありがとう……助けてくれて……」
「……あ? ……何言ってやがる!? 」
くそ。何だよ! 今まで俺はお前みたいな奴をバカにしていた立場なんだぜ……それでも、なんでそんなに素直に感謝なんて言いやがる……
「……ごめん」
「いや……いい……」
ブロッコリー頭になって他人からバカにされる辛さが分かったからかもしれねえ……どうやら俺も……弱い側の立場が理解できるようになったのかもしれん。
弱い側の一番辛いところは……孤立してしまうことだってのが……今の俺には分かる。
「それにしても……芽花くんは……なんでボクを助けてくれたの……? 」
「そりゃあな……簡単だ」
「簡単? 」
「ああ、俺はブロッコリーで、お前はもやしだ」
「え? 」
「同じ野菜仲間がバカにされたら……キレるのは当たり前だろうが……」
「……芽花くん……」
「なんだ!? 」
「君って以外と……おもしろい人なんだね……」
「うるせえ! 」
後から宇都から聞いた話じゃ、そん時俺の顔は……ブロッコリーどころかトマトみてえに真っ赤に染まってたらしい……
俺の親友との出会い話は……これでおしまいだ。
THE END
(お題)
1「ブロッコリー」
2「ヤンキー」
3「蜘蛛」
執筆時間【1時間30分】
導入をもっとコンパクトに出来たかな?
それにしても新しく利用し始めたお題ジェネレーターは食べ物率が高いなぁ(;´∀`)




