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No.21「葉月ちゃんの復讐2~君にセーラー服を着て欲しい~」





「葉月、頼みがあるんだ」



 授業が終わり、帰宅や部活動の準備に励む生徒達で賑わう教室の片隅にて、君嶋盛次(きみしませいじ)は一人の女子生徒にひっそりと話しかける。



「やめて! 教室で話しかけてこないでよ! まだ“あの時”の失態からあんまり経ってないんだから! 」



 女子生徒は、遊び気の全く感じさせないメガネのズレを直しながら露骨に迷惑そうな口調で彼の言葉に答えた。



「それなら連絡先教えてくれ! 今度からメッセでやり取りするから」



「絶対嫌! あなた、私のアカウントを凍結にまで追いこんだ前科がありながら、よくもまあそんなコト言えるね! 」



 女子生徒の名は「葉月葉子」。かつてSNSで上でセクシーな自撮り写真をアップして人気を博していたが、君嶋に関わったことでアカウントが炎上してしまい、凍結に追い込まれてしまった過去がある。彼女は彼のことを一切信用していない。



「葉月……お前こそ俺の立場をメチャクチャにしやがったんだぞ……全裸拘束された姿を大勢の生徒に見られちまったんだ! その償いはさせてもらうぞ! 」



「それは、私のアカウントを台無しにしたこととチャラになってるハズでしょ? 」



「釣り合わないんだよ! お前は身バレしないまま終わって、俺は霰もない姿を晒されて廊下を歩くたびに周囲からヒソヒソ言われるんだぞ! 」


「私だって、今まで地味で目立たなく学校生活を送ろうと思ってたのに、あの一件から派手目の女子グループから目を付けられちゃったんだからね! あなたを裸にひんむいたクソ女って言われてんの! どうしてくれるの! 」



「全部自業自得だろ! 」



 という具合に、二人はここのところ毎日のように教室で口論してしまい、周囲からは「そういう仲」として呆れた顔で見守られてしまう始末だった。



「とにかく! もう私に話しかけないで! 君嶋くんにはもう用は無いの! 」



「……それなら……」



 君嶋は葉月の耳元に顔を近づけて、誰にも聞かれないような小声で喋る。



「君嶋盛次としてではなく……“マキシュ”としてお願いしたいんだけどな……」



 彼のその言葉に、葉月は目を大きく見開いて心を踊らせた。先ほどとは打って変わって、好意的な口調で返事をする。



「……わ……わかった。私に何をして欲しいの? 遠慮しないでなんでも言って」



 君嶋盛次は“マキシュ”という名前でネット小説家として活動している裏の顔がある。葉月は彼の作品の大ファンだった。



「とりあえず化学室に来て欲しい」



「わ……わかった」





 そして二人は人目を避けながら化学室へと移動する。



 そしてその場にたどり着いたやいなや、君嶋は突然化学準備室の奥に積まれた段ボール箱の一つを取り出して床にドサッと下ろした。その音から、箱には相当重量のある物がしまわれていることを葉月は察した。



「何が入ってるの? 」



「まぁ見てくれ」



 君嶋が箱を開けると、その中には単行本ほどのサイズの冊子がぎっしりと積められている。葉月がそれを手に取ってパラパラとページをめくると、200ページ相当の分量の小説なのだと分かった。真っ黒な表紙には“マキシュ短編集”とタイトルが付けられている。



「これってもしかして……! 」



「ああ、俺が書いた短編をまとめたんだ。夏の同人イベントで出品する」


「うそ! すごいじゃないの! 自分で作ったんだ! 」



「ああ、昨日印刷所から届いたんだが、置き場所に困ったのでここに隠しておいた」



「何冊あるの? 」



「ざっと……2000部……」



 その言葉に葉月は反射的に、相手が自分の贔屓にしている作家だということも忘れ……



「バ……バッカじゃないの!!? 」と答えた。



 漫画ならまだしも、表紙に購買意欲をそそられるイラストすら描かれていない小説を、夏の同人イベントで2000部も用意することがどれだけ無謀かを葉月は知っていた。



 作家マキシュは作り出す作品は素晴らしくとも、その作者本人にそれほどパワーを持っているかと聞かれると、疑問を抱く。



 超有名作家ならいざしれず、アマチュアでほとんど無名の作家であれば、10冊売れれば御の字というレベルなのだ。



「だから葉月にお願いがあるんだよ! 」



 君嶋は葉月の両肩に手を置き、真剣な眼差しで懇願した。



「お願いだ! 俺のサークルの売り子をやってくれ! 」



「はぁ? 」



「5桁のフォロワーがいたお前なら、大勢の客を引きつけられる魅力があるだろう! だからお願いだ! 当日は俺の為に“スクール水着”を着て短編集を売りさばいてくれ! 」



「ことわる」



 葉月は即答して踵を返そうとした。君嶋は慌てて回り込んで彼女の目の前で土下座する。



「すまん! お願いだ! 俺の短編集にスクール水着を凶器にした女子高生の連続殺人犯が出てくる話があるんだよ! だから……コレを着てさ……? 」



 君嶋はスクール鞄から由緒正しい、典型的なスクール水着を取り出して葉月に突き出すと、葉月は汚物を見るような視線を作ってしまう。



「なんで現物を持ってきてるの!? 学校だよ? あなた何を考えてるの!? 」



「俺は本気だ! だから……だから頼むよ! 」



「う……」



 床に頭をこすりつけてプライドをかなぐりすてた態度をとる君嶋。それがあまりにもあわれだったもので、葉月はとうとう根負けしてしまったようだ。



「わかった……売り子……やったげる」



「え! ほ……ホントかい! 着てくれるのかい? スク水を!! 」



「スク水はダメ!! そこは譲れないの! その作品には女子高生が出てくるんでしょ? それじゃセーラー服とかじゃダメなの? 」



 スク水はダメだがセーラー服ならOK。それが葉月の妥協案だった。



「う……それじゃ……しょうがない……じゃあ、このセーラー服を着てもらって……」と言って鞄からセーラー服を取り出した君嶋に「なんでソレも持ってきてるの!!? 」と葉月は声を荒げた。



「それじゃあ試しに着てみてくれる? 」



「は? 」



「俺、準備室出てるからさ! 着替えるの待ってるから」



「あのねぇ……」



 尽きるコトの無い君嶋のアブノーマルな要求に辟易する葉月だったが、ここで悪魔の閃きが脳に沸き上がった。



「う~ん……着てもいいけどさ……私一人だけってのはフェアじゃないよね? 」



「というと? 」



「私はセーラー服を着る。その代わりにあなたにはそのスク水を着て欲しいの」



「わかった」



「ええっ!? 」



 君嶋は即答だった。まさかこんなメチャクチャな要求を呑むとは思ってもいなかったので、葉月はセーラー服に今すぐ着替えるという彼の願いを断れなくなってしまう。



「しょ……しょうがないよね……くっ……! 」



 葉月は渋々準備室で着替えることに。普段のブレザーからセーラー服へと衣替えするのは新鮮ではあった。そして何故か衣装のサイズが自分の体にぴったりだったことに戦慄も覚えた。



「着替えたよ……ってブフォッ!! 」



 準備室のドアを開けた瞬間、そこにはサイズの合わないスクール水着をピチピチと肌に密着させている君嶋の姿があった。それを見て吹き出さない。という辛抱は葉月には不可能だった。



「うん、葉月……やっぱりイメージ通りだ、かわいいよ」



 葉月のリアクションなど全く意に介さずに、セーラー服の彼女を見て満足な反応を示す君嶋。



「え……そりゃどうも……」



 その言葉にまんざらでもない葉月だったが、一つ不安もあった。



「私……自分で言うのもなんだけど……スタイルには自身あるのね……でもさ……顔が地味だから……あんまりお客さん、こないんじゃないかな……? 」



 君嶋は葉月に「フフ……」とほほえみ、ゆっくりと彼女のメガネを外して「大丈夫、君は自分で思ってる以上に可愛い顔をしてるから」と嘘偽り無い感想を述べた。



「え……! そんな……そんなコト言わないでよ……恥ずかしいよ……君嶋くん……



 葉月は彼の言葉に自身をもったのか、自然と笑顔を作り出す。目の前の男はスク水姿の変態ではあるが、同時に自分の好きなコトには正直な人間でもあった。



「葉月……」



「君嶋くん……」









 ジリリリリリリリリ!!!!!



「え!? 」「なんだっ!? 」



 ロマンチックな雰囲気になりかけた二人に水を差すように、突然学校内に警報ベルが響きわたる。それは校内で火災が起こったことを意味している。



「な……なんで!? 」



「ちょっと待て葉月……あれを見ろ! 」



 君嶋の指差す先には、同人イベントで出品する予定の短編集。その山のような書籍の表紙が焼け焦げて、モクモクと煙を上げていた! 



「もしかして……」



 嫌な予感を感じ取って窓際に目をやると、そこには葉月のメガネ。運の悪いことに、そのレンズが太陽光を集めて虫眼鏡の要領で太陽光線を照射してしまい、真っ黒な表紙の君嶋の書籍に引火してしまったのだ。



「やば……」



「また葉月ルーペかよ! 」



 とにかく咄嗟に化学室に備え付けられた消火器で火災は消し止めたものの、大勢の人間が化学室へと集まってくる気配を感じ取り、二人は全身に脂汗を流した。



 一人はいかがわしいお店で買ったような作りのセーラー服に身を包み、もう一人はピチピチのスク水を身にまとっている。



「どうする……葉月……」



「そうだね……それじゃあまた……やりますか? 」



「そうするか……」



 もはや二人に言葉はいらない。この状況を打破するアイディアをアイコンタクトで伝え合った。



「よっしゃああああ! 」



「こいやぁ! コラァッ!! 」









 その後、葉月と君嶋は二人でガッチリと肩で組み合い、プロレスの真似事をしていたという体裁でその場を乗り切った。



 しかし、二度にも渡って火災報知器を誤作動させたことでとうとう停学処分を受けてしまった葉月と君嶋。



 同人誌は焼け焦げ、マキシュ先生のサークルは夏の同人イベントを辞退するハメになってしまった。





THE END

(お題)


1「遠慮」


2「学校」


3「同人誌」



 執筆時間【1時間32分】


 まさかの続編(;´∀`)

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