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No.13「白い手」

(お題)

1「太陽」

2「映画館」

3「脅え」


 執筆時間【1時間30分】


 今回は色々と反省点が多い……





 私は子供の頃から映画が大好きだった。





 その当時に住んでいたアパートから、歩いて10分ほどの距離に小さな映画館があった。



 公開される新作映画のラインナップは常に二ヶ月ほど遅れていて、世間の話題から常にズレているような弱小館だったけど、学校の帰りにちょっと寄っていったり、暇を持て余してはフラッと立ち寄ったり出来て、そんな手軽さが私は好きでたまらなかった。



 くるくる回転するスナックの自動販売機やレトロな瓶入りコーラの自動販売機も置いてあったりして、その手の佇まいを愛好するマニア層の客もしょっちゅう出入りしていたらしい。



 いわゆる、地域に愛された映画館。を体言している場所だった。



 そんな映画館で私は、不思議な出来事に遭遇したコトを今でも鮮明に覚えている。









 中学3年生の頃、私は夏休み中のある日、冷房の無い自分の部屋の暑さから逃げ込む為にキンキンに冷えたこの映画館へと駆け込んだ。



 その時、映画館ではヴァンパイアが主人公のアクション作品が公開されていて、私はそれに夢中になりながらポップコーンをほおばっていた。



 その時、劇場内には私以外観客のいない貸し切り状態だったので、周りを気にせずシャクシャクと音を立ててポップコーンをかじり続けていた私だったが、その内の何個かを床にポロポロと落とし散らかしてしまっていた。



 映画が少し退屈な場面にさしかかった時、私は足下がポップコーンまみれになっていることに気が付いて、これはいけない! とかがみ込んで散らかしたポップコーンを拾い上げようとした……



……その時だった。



 ヌッ……! と……



 飛び出してきたのだ……



 前の席と床との隙間から、真っ暗な映画館に強いコントラストを作る……



 『真っ白な腕』が……



 その手を見た私は一瞬だけ背中の上に小さな車のオモチャが走り回るような感覚に襲われたが、不思議とスグにその状況に慣れてしまっていた。



 その理由の一つに……その腕が床に散らばったポップコーンを一つ一つかき集めていたことにあったのかもしれない……



 ひょっとして……



 私はとある確信をもって、椅子の下から這い出る白い手の平に、落としていない3粒ほどのポップコーンをそっと握らせてみた。



 すると白い腕は「ヒュッ」と隙間の奥へと身を隠したと思えば、再び手のひらを大きく広げて姿を現した。



 やっぱりそうだ……



 私の考えは正しかった。この白い腕の持ち主は、単純にお腹が空いていただけだったのだ。



 それからは私は面白がって次々とポップコーンを与えてみた。すると白い手はその好意に全力で応えるように、ポップコーンをヒョイヒョイと隙間の奥へとひっぱりこんで何度も「おかわり」の催促をしてきたのだ。



 私はさらに面白くなってその催促に答え続けていた。



 そしてとうとうスクリーンに映された映画を見届けることなく、公開時間を終えてしまっていた。



 しまった! と私は思いつつも、白い手の正体は誰だったのか? と疑問を抱き、明るくなった館内を見渡してみた。



 しかし、その腕の持ち主と思われる人物の姿を見つけることが出来なかった。



 あれは何だったんだろう? 



 その後、何度か映画館に足を運ぶも、その腕には二度と遭遇することは出来なかった。



 そしてそのまま月日が経ち……



 私は地元を離れて就職して23歳になっていた。



 お盆休みを利用して帰郷した私は、その道程で例の映画館を発見した。



「まだあったんだ……! 」



 あの日のまま、思い出の場所として記憶されていたこじんまりな映画館は、未だに健在だった。



 私はワクワクを抑えきれずに館内に飛び込むと、そこには受付で退屈そうに映画のパンフレットに読みふけっていた青年の姿があった。



 小さな映画館だからといって怠慢すぎるだろ! と心の中で憤るもそれを抑え、私はその青年に話しかけてみた。



「あの……今日の公開スケジュールってどうなってます? 」



 私がそれとなく質問してみると、青年は上目遣いで私の顔をじろじろと見つめると、突然驚いたように立ち上がって後ずさりしてしまった。一体なぜだ? 



「どうかしましたか? 」と私が質問すると、青年は二度三度細かく瞬きをした後、意を決して口を開いた。



「あなた……もしかして……昔よくここに来てた人……!? 」



「あ……! そうです! しょちゅう来てましたよ! 」



 どうやら彼は私のことを知っていたらしい……となると、この映画館の経営者とつながりがある人なのかもしれない。



「そ……そうですか……まさかあなたがまたココに来るだなんて……」



「お会いしたことありましたっけ……? 」



 そう私が尋ねると、青年は気まずい表情を作りながら、Yシャツの長袖をめくって腕を見せてくれた。



「……あ! 」



 その腕は……ミルクをこぼしたかのように真っ白な腕だった……とすると……



「あの時の……? 」



「はい……」



 青年はそのまま私にその当時のことを語ってくれた。









 青年は10代の頃まで太陽の光に皮膚が過敏な反応を起こしてしまう体質に悩まされ、毎日日光に脅える日々を過ごしていたらしい。



 外で遊ぶことが出来ない彼にとって、叔父が経営する映画館が何よりの遊び場であり、館内に忍びこんで暗闇の中で悪戯をすることが何よりの楽しみだったそうだ。



 私は偶然彼の悪戯の被害に遭っていたらしい。



 そして彼はこう語っていた。



 ある時、床に散らかったゴミを拾い集めていた彼は、一人の女の子からポップコーンを手渡されたことがあり、それがたまらなくうれしかったのだとか……


 いつもなら気味悪がられたり、怒られたりしていた彼にとって、とても特別な体験だったのだそうだ。



 そして後になって、その正体が常連の私であることが分かると、どうにかしてもう一度私と絡んでみたいと思いつつ、何故か緊張してそれが出来ずに毎日を過ごす日々を送っていたというのだ……



 そして彼自身、忘れかけていたところに、この私が突然現れたというワケだ。それは確かに驚くかもしれない。









「またこうして出会えるなんて……」



 彼は照れて真っ白な肌を紅潮させていた。その姿がどうにも愛くるしく見え、私の気も落ち着かなくなっていた。



「それにしても君……どうしてあの時、映画が終わったら逃げちゃったワケ? そのままいてくれればよかったのに」



「それには深い理由があるんです……なぜなら……」


「なぜなら? 」



「ボクはあの時……床に伏せて椅子の隙間に入り込み……あなたの姿を見上げていた……」



「それがどうかしたの……? 」



「つまり、あなたの『足の根本』を見ていたんです……」



「…………ほう……つまりはアレだね……君はあの時……」



「はい…………ボクはあの時、あなたのパンツを………………」



 次の瞬間……彼の真っ白な頬には、ハッキリとしたコントラストのカナダ国旗が描かれたことをここに報告しましょう。





THE END

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