No.01「ミートボールファクト」
(お題)
1「真実」
2「肉団子」
3「指輪」
※残酷描写があります。
無機質な取調室に三人の男がいた。
テーブルを挟んで二人の刑事が睨みつける先には、手錠で拘束された中年の男。
ガッチリとスポーツ選手のような屈強な体つきと、五分刈りに整えられた中年男は一見精悍に見えるが、その表情をのぞき込むと、真っ赤に怒り狂うワケでなく、かといって青ざめた絶望の表情を浮かべているワケでもない。
この取調室のコンクリートの壁と同じように、無機質で、感情の無いマネキンのような様相だった。
「柴田宗平……今から自分のしたことを話すことができるか? 」
闘犬を思わせる厳めしい顔つきの刑事は、ゆっくりと、だが語気のある言葉で中年男に訪ねた。
「……ええ」
中年男はあたかも声に反応するオモチャのように、事務的に返事をする。
「それでは、教えてくれ。キミが自身の妻である、柴田真実を死に至らせた経緯を……そして、どうしてすんなりと自首する気になったのかを」
刑事の質問に、宗平は少しだけ間を空けた後、ゆっくりと頬肉を動かした。
「……ほんの……些細なことがキッカケだったんです」
その時……三日前の晩ですね……僕は妻の真実とケンカをしました。真実が大事な指輪を失くしたと言い出したことが発端です。
その指輪は、僕が真美にプロポーズした際に送った婚約指輪です。自分にとってはかなり高価で、何より思い出が詰まった大切なモノでした。
それを安直に失くしたと言うものですから、当然僕は穏やかな心を保つことは出来ませんでした。
そんな大切な物をどうして!? などと詰め寄りながら家中を探すも見つからず、妻はどこで紛失したのか見当がつかないと一点張り。
思い出の品を失ったことで平常心を失った僕は、ここで愚かにも「ある一つの可能性」を頭によぎらせ、残酷な言葉を投げつけてしまったのです。
「真美……もしかして指輪を売ったのか? 」と……
僕達は夫婦で中華料理店を営んでいますが、正直ここ数年は経営に苦しみ赤字続きです……
そんな中、どうにか家計をやりくりしようと、真美が指輪を売ってしまったのではないか? そしてすっとぼけて失くしたことにしてしまおうと思ったのではないか? そう思ったのです。
そして、僕の疑いの言葉にショックを受けた真美は、泣きながら僕を突き飛ばしてきました。
真美は「そんなことするワケないじゃない! 」と何度も怒りながら潔白を主張するも、その時の自分はどうしようもなく心の余裕がありませんでした。
妻の怒声、突き飛ばされて体を打ち付けられた痛み、そして連日の徒労が重なりストレス漬けになっていた僕は……とうとう「キレて」しまいました。
気がついたら目の前には血塗れで倒れて魂を失った真美の姿。そして自分の右手には重い中華鍋が握られていました。
ああ……やってしまった……と……思いました。
僕は大切な調理道具を妻に叩きつけて殺してしまったのだと……
しばらく途方に暮れ、手当をするワケでもなく、救急車を呼ぶワケでもなく、ただただボーっと真実の亡骸を眺め続けた僕は、その後あろうことか、とんでもなく卑怯で残忍な発想に及んでしまいました。
「早く真実の死体を隠さないと」
そう思った僕は、調理場の包丁で真実の体をバラバラに切断し、ミンサーを使って妻の身体をミンチにしてしまったのです……骨も……内臓も……細かく……細かくして……
妻を大量の挽き肉に変えてしまった僕は、次にこの肉をどうやって処分しようかと考え、これで肉団子を作って客に食わせてしまおうと思いつきました。
頭が狂ってる。と刑事さんは思っているでしょう? でも、その時の自分にはそれが最良の判断だと確信していたのです。
そして夜が明けて昼になり、店をいつも通りに開いた僕は、常連客に真実の肉団子で作った料理を提供しました。こうやって少しずつ減らしていけば、真実の死体は完全に消えて無くなるなどと考えていた僕でしたが……程なくして常連客が怒りの声で僕に呼びかけた瞬間……ようやく……
ようやく僕は……平常心を取り戻しました。
「マスター! この肉団子、なんか金属みたいなのがが入ってるぞ! 」
その客から肉団子を手渡され、混入されていた物を確認した瞬間……
全身の力が抜け……
涙が止まらなくなってしまいました……
その金属は……妻が失くしたと言っていた……婚約指輪だったからです……
妻は指輪を売ってなんかいなかった。おそらく、スープの仕込みの最中に指から抜け落ちてしまった指輪を、まかないで食べたラーメンと共にすすり飲んでしまったのでしょう……そりゃ見つからないワケですよ……
妻の胃の中にあった指輪もろともミンチにして、偶然お客様に肉団子として出してしまったということです。
僕はその時、ようやく自分がとんでもないコトをしてしまったと気がつき……全ての罪を告白してその報いを受ける覚悟を決めました……
僕は……同時に思い出したんですよ……
真実がスープの仕込みをしていた日は……僕達の結婚記念日だったんです……
THE END
執筆時間【1時間3分】
また頑張るぞい!