綾人(アヤト)
俺は家についてすぐに空のペットボトルに水を入れ、一輪のたんぽぽを指した。棚の上の絢子の写真の横にたんぽぽを置いて写真の前に拾った指輪を置いた。
椅子に座り白い封筒の文字をみる。
『Dear綾人 From絢子』
綺麗な文字と俺と彼女の名前。探していた手紙のはずだ。丁寧に糊付けされた封を切り、便箋を取り出す。
『綾人へ
これを読んでいるということは、私は死んじゃったんだね。何を書いたらいいかわからないから、思うままに書いてみます。
プロポーズ嬉しかったです。大好きな人と一生一緒にいれること、この上ない幸せだと思います。
でも私が死んだら、綾人くんにはもう一度恋をして、新たな恋人へプロポーズしてほしいです。私は綾人くんの残りの長い人生を隣で過ごすことは出来ません。だから、私のことはときどき思い出してくれると嬉しいです。どうか幸せになってください。
最後の外出はプロポーズを受けた公園に行こうと思います。大好きなたんぽぽの花が咲いてるといいなぁ。公園はたくさんの人がいて、私は一人じゃないんだって思えるところが好きです。
綾人くん、大好きだよ。綾人くんに出会えて本当に良かった。いつまでもお元気で。
絢子より』
視界がぼやけた。手紙の字が滲んだ。晴れた春の夕方。西日が差し込む俺の部屋は暖かかった。その温もりの中で俺は涙が枯れるまで泣き続けた。
ひとしきり泣いた後、『公園にはたくさんの人がいて、私は一人じゃないんだって思えるところが好きです。』という絢子の手紙の一文が目に入った。今日、公園で指輪と手紙を探していたとき、俺は一人じゃなかったことに気づいた。寂しくなったら公園に行こう。また恋をしたくなったら恋をしよう。絢子の思いを胸にしまって、いつか彼女に天国で会えたとき、彼女の大好きなたんぽぽの花をプレゼントしよう。絢子の写真に振り向いた。写真の中の彼女は笑っていた。