綺音(アヤネ)
私が大学の研究室の専門として研究することは伴侶動物についてだった。そのため研究室では犬を飼っている。その犬の散歩を今日は一人ですることになっていた。
「ハル、そっち行かない」
私は犬のハルと公園を歩いた。ハルが公園のベンチの足元に咲くたんぽぽに鼻を付けて匂いを嗅いでいたので、私はしばらく待っていた。たんぽぽは摘むとすぐ枯れちゃうけど、昔は好きでよく家に持って帰ったなと思い出し、一輪摘み取った。
「ハル、そろそろ行こう」
リードを引っ張り再び歩き出すと、砂場で男の人が何かを探しているようだった。その男の人の足元にハルは鼻を近づけた。
「ごめんなさい」
私は咄嗟に謝った。
「いえ、いいんですよ。かわいいコですね」
男の人はハルの頭を撫でてそう言った。
「ありがとうございます。大学で飼ってるんです。」
そのとき、いつも大人しいハルがワン、と吠えた。
「どうしたの?ハル」
ハルの前にキラリと光る何かを見つけた。男の人がそれを拾い上げると、シルバーの指輪だった。
「ハルちゃんありがとう」
男の人がハルの頭をもう一度撫でながら、私に言った。
「この指輪、探してたんです」
「そうなんですか。見つかってよかった」
「本当にありがとうございました」
「いえいえ」
男の人は立ち上がり、私の手にあるたんぽぽを見た。
「たんぽぽ咲いてるんですね」
「はい、これもベンチの近くでハルが見つけて」
「ハルちゃんはいい子だなぁ」
男の人はそう言って、ベンチの方へ歩いて行った。その後ろ姿を見送って、ハルに問いかける。
「大学に帰ろうか」
ハルと私は再び歩き始めた。