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第9話 知らない日々

 ユウが、ゴードンではない方を見ている。

 動きを止めて、公園の入り口側を目を凝らすように見ていた。


 人の気配がする……声……聞き慣れた、声が聞こえた。


 ユウは立ち上がり、草叢くさむらの草をいっぱいつけたまま、フードも被らずに公園の入り口を見続ける。

 声は近付いてきて……二つの人影が入って来た。


「レイカ……!」


 先に入って来た人影が、こちらへ振り向く。

 それは――見慣れた顔、見慣れた声、見慣れた姿の……女の子のレイカだった。


 少女のユウは、暗い木陰の隠れた草叢くさむらから出て行き、姿を晒す――。


「……え、まさか……その声、ユウ!?」


 レイカは駆け寄って来て、少女のユウの長い髪を触った。


「うわぁ~うわぁ~本当にユウ? 可愛い~、髪長~い!」

「良かった……会えた」


 ゴードンもユウの後を追うように、草叢くさむらから姿を見せた。


「うわぁ~ゴードンも! みんなこっちに来ていたの~!」

「レイカは、女の子のままなんだね」


「うん! ハルカはね、男の子なの。吃驚だよ~!」

「一緒なの?」


「今来るよ。……ユウ、元気そうで、良かった……先に死んじゃったから」


 何も変わらないレイカを見て、ユウは愛おしそうに微笑んだ。


 ”転生”前、男の子だったユウの、一番大事な存在だったレイカ。

 ユウを恐れて、病んでしまったレイカ――……。


「……あの時はごめんね……。ユウが死んじゃって、どんなに大事だったか、よく判った……。でも、それじゃ遅いよね……」


 遅れて、ハルカがやって来た。

 ――本当に男の子だ。

 元々レイカに比べてボーイッシュなところがあったが、今は本当に、間違いなく男の子だった。


「あれっゴードン! って、まさかその女の子……ユウさま!? すご~い可愛い~!!」

「でしょでしょ? 今会って、吃驚しちゃった!」


「髪長~い! 超似合ってるぅ! ユウさま元から可愛いタイプだったけど女の子になると、こんなにも可愛いんだね~吃驚した~!」



 まるで、あの時が戻って来たように感じた。

 一部、性別の違いはあっても、この雰囲気は変わらない……。



「良かった……会えて」

「うんと……あのね、ユウ……。会いに来てくれたんだよね? でも、私……ハルカと二人で生きていく事にしたの」


 女の子のレイカと、男の子のハルカ――……。


「ずっと私を支えてくれたのはハルカだった……。みんな一緒に死んだ、あの最後の日……ずっと私を抱き締めてくれていたのもハルカだったの……。

 だから私、ハルカと一緒に生きていく。ハルカと結婚する」


「ユウさま……安心して。私がレイカを守っていくから。ユウさまの代わりじゃなくて、私が……私自身が」


 愛し合う二人のように、手を取り合う。

 ユウの知らない日々が、二人の間を強固なものにした。


 そこへ入る事は、もう誰も出来ない。

 例え、男の子の姿をしたユウがここに居たとしても――

 もう、変える事は出来ない。


 ……――帰る事は出来ない――……。



「……うん……」


 少女のユウは、少し寂しそうに……眩しそうに、微笑んだ。


 レイカとハルカは手を取り合って、手を振って、去って行く。

 この小さな町で、生きていくのだ……二人で。


 二人の姿が見えなくなっても――

 ユウはずっとその後姿を、今もまだ見えるかのように、見つめ続けていた。


 日が暮れ、夕闇が訪れる……。

 明るい日の光は既に消え、赤と紺のグラデーションを空へ敷き詰めていた。


 不意にユウが崩れ落ちた。

 ユウは地面へ座り込み、両腕で上半身を支える。


「ユウ……!?」


 ゴードンは駆け寄って、ユウの顔を覗き込む。

 日が沈み、薄暗い中では昼のようにハッキリと顔色まで確かめる事は出来なかった。


 ユウは虚ろな瞳で、浅い息をする。

 ゴードンは、すかさず両手でユウの肩を支えた。


 また発作に近い症状だ……元々、今日は体調が悪い……。


 レイカとハルカに会えて気分が高揚していた分、無理をしたのだろう。

 これ以上は、無意味だ。


 ユウはそのままゴードンの胸へ埋まるように、意識を失った。



「だから、死んだ原因を忘れるなと言ったんだ」



 いつの間にかゴードンの背後に、美女のリーダーが立っていた。


 仁王立ちしながら、なにか長い食べ物をすするようにして食べている……。

 どうやって手に入れて来たのだろう。

 交換する品物も、何も持っていないというのに。


 美女のリーダーは、片手で意識のない少女のユウを肩へ担ぎ、食べ物を咥えたまま――冷めた瞳で、ゴードンの頭を軽く叩いた。


「帰るぞ」


 誰もいなくなった公園は、暗闇に呑まれる――

 そこに今迄、誰かがいた事も、忘れる程の暗闇に…………。







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