第7話 新しい生活
不思議な三人の生活が始まった。
家族でもない……以前の世界で形成されていた、部隊でもない。
ユウを中心に、気心が知れた”転生”メンバーで構成された三人組だ。
ゴードンの実力は今もって謎だったが、この平和な世界に戦う力など必要はない。
ただ、探査能力に付随する遠視能力、透視能力、感知能力などの能力は、ユウ一人しか使えない。
治癒能力も同じくだ。
念動力やテレパシーは全員が使える。
リーダーのテレパシーは強力過ぎて、隠し事が一切出来ない。
やりたい放題の世界で暮らしてきた三人だ……。
一般人だったゴードンはともかく、人里に降りるとリーダーが危険過ぎる。
意に反する事があれば、すぐ命を奪おうとする。
しかも、力尽くの残虐性の高い方法で……だ。
ユウとゴードンで、なんとか説き伏せ――
”緊急事態”以外は、命を奪う事はしないと約束させた。
もはや、どちらが保護者だか判らない。
体力という面では一番力のない少女のユウが、一番しっかりしているように見えた。
なにせこの世界に、ゴードンやリーダーよりも一か月も早く降り立ったユウだ。
一人で苦労もしている。
ユウが築いた基盤に、乗っかっただけのリーダーやゴードンは楽なものだ。
今日もリーダーとゴードンが食料調達へ出掛ける。
森へ植物や果物を採りに行き、うまく獲物に出くわせば肉GET。
動物の殺戮などはリーダーがお手の物だ。
ユウはすっかり主婦のようになり、コテージの管理は全てユウの管理下だ。
むしろリーダーやゴードンにやらせると、ロクなことにならない。
散らかされるわ、破壊されるわ、後始末の方が大変過ぎる。
畑なんかも用意してみた。
勿論、念動力で整地し、耕し、種を撒く。
能力三昧だ。
ただし、ここまで家庭的なユウも万能ではない。
今迄、破壊しかして来なかったのだ。
何かを育むことは憧れだが、そう上手くいくものではない。
雑草すら枯れる。
一体どうすればそこまで失敗するのか不思議なほど、何も生えて来なかった。
リーダーとゴードン、ふたりが帰って来る。
結界性を高めた防御結界が常時張ってあるユウのコテージに入れるのは、防御結界の発動主ユウが承認許可をした、この二人だけだ。
今日は大型の肉が手に入ったらしい。
既に”肉”となって、調理するだけになっていた。
一度室内で大規模にリーダーが捌いて、こっぴどくユウに怒られたせいだろう。
少女とはいえ家主だ。
追い出されると面倒だった。
「旅に出る?」
「うん……少し前から考えていたんだ。星が滅亡したんだろ? それなら、他にもどこかに誰かがいるのかもなぁって……」
晴れ渡る空の下、テーブルを外へ持って来てのランチ……外には洗濯物が大量に干してある。
テーブルの上の肉料理とサラダは、殆ど焼いただけ、洗って並べただけの料理とは言えないものだ。
いくらユウが頑張っても、調味料もなければ経験もレシピもない……流石にこれでは、どうしようもなかった。
「どうやって探す?」
「感知能力で……。僕たちと同じ世界からなら、なんとなく判ると思うんだ……」
「あの変態野郎の正体に気付けなかったお前が、何を言っているんだ」
「あれは別の世界だし……魔法って言ってたな、他にも仲間がいるみたいな事も……」
「危険じゃない? お前女の子だろ、もっと自分を大事にしろよ」
「だからだよ。もしもレイカやハルカが来ていたらと思うと……あんなのに出会ったら……」
「俺らが女になっているんだ、元女は男になっているんじゃないのか」
「ゴードンが男のままだからね……よく判らないよ」
話しているうちに、綺麗さっぱり食べ物はテーブルの上からなくなった。
ユウはまだ、サラダしか手をつけていなかった。
リーダーの食べっぷりが無情過ぎる。
「ユウが行くところは俺も行くよ。どこでも……。ユウは俺が守る」
「ほ――う、言うじゃないかクソガキが。面白そうだから同行してやろう」
森の中での生活は平穏だったが、退屈でもあった。
”転生”前の、地下施設での生活は――
いつ殺すか……殺されるかの連続だった。
そのギリギリに常に身を置いてきたリーダーにとっては、この穏やか過ぎる生活は、理想郷ではなく苦痛に近い。
「旅に出ると言うか……瞬間移動で、すぐにここへ帰って来れるしね、荷物は最小限で良い」
要するに、感知能力で調べた疑わしい街や村を、実際に行って探して帰って来るだけの日帰りコースだ。
対象は街や村などの人がいる場所でなくても良い。
ユウのように、人里離れた場所を敢えて選んでいる場合も有り得る。
感知能力なら、しらみつぶしに探せるので漏れはないだろう。
既に幾つか候補はある。
会いたい人は限られる――。
レイカやハルカ……親衛隊のサーラやシンジだ。
”転生”しているかどうかも判らない。
だから知りたい。
ユウやリーダーのように、性別が変わって新しい人生を謳歌しているかもしれない。
それならそれで、構わない。
合流して、どうこうしようという訳ではない。
ただ……会ってみたい。それだけだった。
――考えてみれば、星が滅亡したのだ。
おやっさんや”桔梗乙女”、ユウ達を散々苦しめてきたヒャッハーと叫ぶ奴等もいる可能性がある。
気付いた相手がレイカやハルカではなく、ヒャッハーだったらどうしよう……という気もしてきた。
「だから同行すると言っているんだ。お前はツメが甘い。平和ボケも入っている。お前が死んだ原因を忘れたのか」
「原因って……能力値の異常高上昇の発作でしょ? それは無いって自称”神様”が言ってたよ」
「無くなったんだ……良かった」
テーブルの上へ何気なしに置かれていた少女ユウの手に、ゴードンは自分の手を乗せて微笑んだ。
もう片方の手で、ユウは水を飲む。
もうすっかり小さな恋人同士のようだ。
ユウはあまり変化がなく、受け入れているだけのようだったが。
リーダーは美女の姿で、けっ、と唾を吐き捨てる。
黙っていれば麗しき美女でプロポーション抜群な姿なのに、中身がこれでは勿体ない……。
本人が望んで女性になった訳ではないので、仕方がなかったが。




