第5話 会いたい気持ち
ユウの拠点である小さなコテージへ、リーダーとゴードンは招かれていた。
勿論、街で手に入れてきた大量の布地も一緒に。
まだ回復していないユウはベッドの上へ置かれ、病人のように半身を埋める。
「キッチンに食料と水があるから……適当に食べて」
ユウが言う前から、リーダーはキッチンを漁って果物を頬張っていた。
「肉はないのか」
「この世界では出来るだけ殺生はしてないんだよね。……さっきリーダーが人殺しちゃったけど」
また”魔女”の名を持つ、少女ユウのせいにされてしまうのかなぁ……そう思うと頭が痛かったが、どうしようもない。
どこへ行っても、悪名高きユウだ。
せめて誤解は解きたいものだが、方法はない。
ベッドにいるユウの横へ、椅子を持ってきてゴードンが寄り添うように座っていた。
さっきからずっとユウの傍を離れようとしない。
ユウには見慣れたゴードンの姿は、安心出来る。
リーダーは美女の姿にお構いなく、食料を次々と平らげていく。
三、四日は大丈夫と思っていた食料が、みるみるうちに無くなって行き、今夜の分も怪しくなってきた。
心配そうにベッドの上からキッチンをみつめるユウを、ゴードンはみつめ続ける。
その視線に気付いて、ユウはゴードンへ目を移す。
目と目が合うと、ゴードンは頬を染めて……そして俯いた。
「俺さ……、ずっとお前に会いたかったんだ……。目の前でお前が死んで……お前がいない部屋でずっと……ユウが帰って来るのを待っていた。
帰って来る筈なんて、ないのに……」
涙が溢れてくる――。
ゴードンは隠そうともせず、ぼろぼろとそのまま涙を零した。
ユウも映像で見ていた……。
白く冷たくなったユウの身体に、縋って泣くゴードンを……。
ゴードンは愛おしそうに少女のユウの手を取り、両手で包み込むように温める……。
男の攻撃のせいで生気が足りないユウは、ゴードンよりも手が冷たい。
……ユウが死んだ、あの時を思い出すように……。
「今度は、俺がお前を守る。ユウは強いけど、今は女の子だ。しかもお前……結構抜けている所があるから、目を離せないよ」
「抜けているって、なに……酷いな」
「そのクソガキの言葉通りだ。あんな雑魚に後れを取るなんざ、精鋭部隊所属が聞いて呆れる。平和ボケか」
物凄いボリュームの胸を揺らしながら、美女のリーダーが最後の果物を頬張りながら戻って来た。
というか……最後……、今夜どうしよう……。
「心配するな、今から食料調達に行ってやる。体調戻しておけ。ユウ、お前が調理しろ」
「良いけど……リーダーとゴードンは?」
「俺と、このクソガキが出来る訳がないだろう」
噂で聞いた大量の家畜や畑の作物、川の魚を全滅させるほど食い散らかした時は、どうしていたのだろう。
……まさか、ナマという訳ではあるまい……。
「ねぇリーダー……なんて呼べば良い……?」
高い背丈でベッドにいるユウを見下ろすリーダーは、先程まであった食料がどこに入ったのか判らない程――見事なプロポーションをしていた。
ボリュームのある胸、くびれたウエスト……しかも美女だ。
”転生”前の、男の代名詞みたいな――
筋肉質で見るからに強靭な肉体のリーダーとは、正反対だ。
じ……っと、みつめ続けるユウの視線に耐え切れなくなってきたリーダーは、顔を顰める。
「……なんだよ?」
「姉さ……母さん?」
「誰が母さんだ!」
「だって、その姿……」
「お前だって、女だろう!」
「じゃあ……お母様?」
「俺が二人もガキがいるように見えるのか!」
「呼び名だよ。僕達の保護者って事になるんじゃない?」
「今迄通り、リーダーと呼べ。今更過ぎて気持ちが悪い」
不思議と……何故か、既視感を感じた。
リーダーは瞬間移動で、食料調達へ出掛けた。
ユウのコテージは常時、結界濃度を高めた防御結界が張り巡らされ――
異空間のような扱いになってはいたが、一度訪れてしまえば、場所は判別出来る。
更にユウの意識下での承認許可があれば、いつでも出入りが自由だ。
異空間のような扱いになっているとはいえ、外の音は聞こえてくる。
葉と葉が摺り合わされる、さわさわと森が奏でる風の音が聞こえる。
うまく設計されたコテージには、柔らかい日の光が注がれていた。
「ゴードンは……死ぬとき、怖くなかった……?」
星が滅亡したと聞いた。
その前兆が出る前に死んでしまったユウには、どんな恐慌があったのか想像も出来ない。
「よく覚えてないな……最後は地下施設内の警報が壊れたみたいに、ずっと鳴り響いていた。ひっきりなしにアナウンスが入って……。
でも、俺は一人で部屋にいたから」
「……どうして? 誰かと一緒にいた方が安心するんじゃない?」
「安心してたよ……俺が死んだら、またお前と会えるって……。死んだら同じところへ行くのなら、きっとまたユウと会えるって信じてた……。
まさか女の子になってるなんて、思いもよらなかったけど」
大事に、大事に……包み込んで離さないユウの手は、段々と温かくなってきた。
どんなに握り締めても、どんなに両手で包んで温めても――
冷たいまま二度と動かなかったあの時とは違う、ユウの手……。
生きている温もりをゴードンに伝え、そっと握り直せば、ぴくりと動く。
きちんと反応が返って来る――……。