第3話 再会
ユウの目の前でミトは、みるみるうちに姿を変えていった。
小さな五歳ほどの子供と思っていたものが、どんどん大きくなり、むさ苦しくなり――
中年の男へと、姿を変えていった。
「ミト……!?」
「変身魔法さ……。お前はどこから来た? 魔法のない世界か? こんなに簡単に騙されるとはな」
取られた手から、生気を吸い取られていく……。
防御結界が効いていない。
この男の能力と、ユウの能力では、相性が悪いようだ。
力が抜けていく……。
身の危険を感じたが、意識が朦朧としていく。
男は涎を垂らすように薄気味悪く笑い、力を失っていく少女のユウをその場へ押し倒した。
藤紫色の長い髪が、地面へ広がる。
「お前を見た時から、好みだと思っていた……。心配するな、俺の手で可愛がってやるさ……」
八歳の少女に向かって、何を言っているのだろう……この男は。
朦朧とするユウの上へ、覆い被さるように男は身体を広げ、少女のユウの細い腕を武骨な手で地面へ押し付けた。
そして、息荒々しく顔を近付けて来る。
――気持ちが悪い。
大体この男は、何故こんな街中の昼日中に、欲情しているのだろうか。
確かに街外れで今は誰もいないが、広場中央の噴水近くだ。
誰かが通れば、すぐに気付く。
こういう時は、せめて草叢とか、暗い木の陰とかに連れ込んだりしないものだろうか。
男は顔を近付けて、ユウの頬を長い舌でべろんと、顎から額まで舐めた。
――本気で気持ちが悪い……。
もう、我慢の限界だ――
ユウは目を閉じる――
それを見て、男は観念したと思い、にやりと勝ち誇った。
大人の男の力に、少女が勝てる訳がない。
しかし……男が次に見たものは……。
――冷酷な殺意を秘めた、無情の瞳――
男は目を見開いた。
愛らしい少女の瞳とは思えぬ恐怖が男を襲い、身体が硬直する。
――急に寒くなってきた。
いや、気温は変わらない。
日も照っていて、温かい日差しが背に当たっている。
なのに……寒い……。
急激に血の気が引いてくる。
男は凍り付くように歯を鳴らせ、おかしな汗がだらだらと出てきた。
「そこまでにしておけ、この変態が」
低く澄んだ声が、男の背後から聞こえて来た。
男は少女の殺気で身体が硬直していて、後ろを振り向けない。
すると背後から、何者かに頭を鷲掴みにされた。
そのまま……ゆっくり上へ上へと移動させられ、ついには足が地につかなくなる。
正面には、冷酷な殺意の瞳を向ける少女。
後ろには――。
「大丈夫!?」
金髪の子供が少女のユウへ走り寄り、抱き起す。
ユウはその子供を見て、驚いた。
「……その前に、この変態は処分だな」
声の主は少し考え――
男の頭を、まるでボールを投げる如くに建物へ向かって投げつけた。
当然、男の身体もそれについていき、男は頭から石造りの建物の中へと突っ込んで行った。
深々と突き刺さった男は、動かない……。
命の波動が失われた事は、ユウの感知能力ですぐに判った。
少女のユウを抱き起している、金髪の子供……。
そして、男を撃退した声の主――
「ゴードン……リーダー!?」
「よう……ユウ、可愛いじゃないか。やっぱり”魔女”って、お前だったんだな」
「そういう……リーダーは…………どうして」
日を背に、ふてぶてしく高い背丈から見下ろすリーダーは、麗しい美女となっていた。
上半身は、身体にぴったりとした服を着ている。
女性の象徴である胸部には、何か丸い非常食でも入れているのだろうか。
物凄くボリュームがあった。
袖は短く、細く見える腕――
しかし大人の男を、頭を握って投げつける握力と腕力だ。
スカートは腰から足元まである、ユウよりも長いものを履いていた。
あまりの変貌ぶりにユウは、ぽかーんと口を開けてリーダーらしき女性を見る。
リーダーらしき女性は、ユウの言いたい事を察して、うざったそうな顔をした。
「言いたい事があるなら、はっきりと言え」
「……な、なんで、そんな…………」
「顔なら元が良いからだ。この胸は自前だ、お前が思っているような非常食は入っていない」
「……本当? 触っていい?」
力を失ってゴードンに支えられている少女のユウへ、麗しい美女のリーダーは近付き、ユウの手を取り自分の胸へ押し当てる。
物凄い、ボリュームのある胸……。
しかし手を動かしてみると、確かに肉付きの柔らかい感触が得られた。
「本物……? なんでそんなに大きいの……邪魔じゃない?」
「知るか」
声は確かにリーダーだ……低く透る声……。
多少補正が効いているのか、微妙に女性らしさが見えた。
リーダーの美女振りに驚いてばかりで、忘れるところだった。
少女のユウを支えているのは、確かにゴードンだ。しかし……。
「ゴードン……だよね……?」
「そうだよ。ユウは……可愛くて、吃驚した」
そういうゴードンは、何も変わらない――
ユウの知っている、そのままの……男の子のゴードンだった。