第23話 愛の語り
珍しく、肉にも手を出して食事するユウは、ふと手を止めて不思議そうな顔をする。
そのまま止まって、じっ……と考えてから、ゴードンへ質問をした。
「ねぇ……本当に、なにがあったの? ゴードン、なにをしたの?」
「だから俺の愛だって」
「それじゃ判らない」
「なんで、そんなに知りたい訳?」
シャムシャムと、サラダらしい……
その辺に生えていた、毟って来ただけの草を、ユウは小動物のように食べる。
美女のリーダーが、物凄い勢いで肉を食い散らかしている。
無くなる前に、もう一切れ、抓んだ。
「ずっと蓄積されて来た、身体への負担がなくなっているんだよね……。また同じように少しずつ、蓄積されて来ているけど」
「蓄積?」
「能力値が高過ぎて、発作みたいな症状を出しているけど、同時に内臓への負担も大きくて……。
この間、喀血したの覚えているでしょ? あの辺りで、ヤバイなぁ……もう長くないかもなぁ……って、実は思っていたんだよね」
「……え!?」
……そういえば、よく聞き取れなくて聞き直したのに、同じ言葉を二度続けては言ってくれなくて、「なんでもないっ」と誤魔化した、ユウを思い出した。
「僕には、時間がないから……とか言ったんだろ」
「なんで知ってるの!? リーダーあの時いなかったのに」
「ゴードン、お前の意識なんざ、深層まで簡単に詠めるっての」
リーダーのテレパシーは強過ぎる……。
ゴードン自身が聞き取れなかった言葉まで、深層意識から引き出した。
「ユウに……時間が、ない……!?」
「……と、思っていたんだけど、この世界へ来たばっかりの時みたいに、楽になっているんだよね」
「また、蓄積されているんだろ?」
「そうそう、ちょっとずつね……。なんでリセットされたんだろ……。ゴードンの愛って、なにをしたの? また出来る?」
「……え? どうだろ……必死だったし」
「ユウを失いたくないんだろ。やれよ」
「え!? どうやったんだっけ……」
「なんかよく判んないけど、この際だから言うね。意識を失う他に、蓄積タイプの負担があって、喀血し出すと、そろそろかなって感じ。
何故かリセットされているみたいだから、その先は、どの位もつか判らないんだけど」
「……なにそれ……!?」
「……能力値が下がれば良いんだけどね――せめて二万位に……。今、たぶん四万を超えてそう」
「増えてない!?」
「元々、一万二、三千あったんだよね……その三倍だから、四万弱……で、最近また少し上がって来ているから、四万強」
「なんで、そんなに多いの……。普通は二、三千位じゃなかったっけ……」
「自称”神様”のせいだよ」
という事は……。
また少しずつ、ユウは具合が悪くなっていく。
どんどん積み重ねるように、その体調の悪さは、日を追って、目に見えて……。
そして、それほど遠くない未来に、また、命の危機に陥るのだ。
ゴードンは愕然とした。
これでまた、平和に愛を語り合う生活へ戻れると思っていたのに……。
夢の、愛する人と一生を共にする生活を送れると思っていたのに……。
「あのさ……。前から思っているんだけど、ゴードンはこの世界へ来る時に、あの自称”神様”へ、なにを願ったの?」
「……え? えーと…………。またユウに会いたい、会って今度は俺が守るって。二度と失いたくないって」
いつも言っている台詞で、当たり前のようにゴードンは答えた。
ユウは硬直して、少し頬を染め、目線を外した。
「もしかして……それかな……」
「え? なに?」
「鈍感な奴だな。お前が失いたくないと思っているうちは、ユウは死にたくても死ねないんだよ」
「……え!?」
「ゴードンと……その……あの……。愛を語り合った後って、すごく身体が楽なんだよね……」
「え……!?」
「だから言っただろう。絶対お前、コイツの精気吸っているだろうって。毎日語り合えば良いだろうが」
「……うん」
顔を真っ赤にして俯く少女のユウは、とても艶めかしい色香があった。
とても八歳とは思えない魅力に、ゴードンは胸を高鳴らせる。
つまりは自称”神様”によって、もたらされた――
この世界へ来る時に得た”チートスキル”という謎の特殊能力によって、少女のユウはゴードンに愛されている限り、エンドレスの再生から死に掛けを繰り返す事になる。
……まるで拷問だ。
唯一、死に掛けまで行かない方法として、考えられるのは――
毎日愛を語り合い、熱烈なゴードンの愛を受け続ける……という事になる。
ユウに蓄積されていく身体への負担は、加算ではなく乗算されていく。
ゴードンの愛で消し去る事が出来るのは、良いところ、その日一日分か、一日半程度。
再誕し、リセットされた今がチャンスだ。
毎日、熱烈ラブラブコースしかない。
「んじゃ……邪魔者は消えるか」
「ちょっと……リーダー!? 特訓は!?」
「んなもん明日からで良いだろ。ユウは弱ってんだ、激烈にリア充爆発して来い」
「なに、その謎の……。呪文か、なんか……!?」
慌てふためくゴードンを前に、美女のリーダーは突然姿を消し、瞬間移動で去った事を知らせる。
リーダーは、いつも来るのも突然、いなくなるのも突然だ。
「ゴードン、あのね……前に、リーダーと話していたんだけど……」
ユウは、ふんわりとした白く……所々に血の跡がついたネグリジェを着て、少し緊張気味に……
手を、腕を……前にして、はにかみながら言葉を紡ぐ。
「この世界って、実年齢と肉体年齢が同期していないんだよね……。つまり、実際の年齢に関係なく、自分が望む事が出来る、肉体をもつっていうか……」
「……望む肉体……?」
「……うん。子供も作れるよ、きっと」
「……え……!?」
さらさら……と……。
藤紫色の長い、しなやかな髪を流れさせるように軽く、首を傾げて……
ユウは、愛らしい乙女そのままに、微笑んだ。
まぶしいくらいに……
まるで、天使か、女神のように……。
ゴードンにとって、ユウは唯一の「愛する妻」――
「……愛してる……。ずっと、私の傍にいて……」
「……私……!?」
「……うん……。子供……作ろっか」
芳しい香りのユウは、艶めかしく潤う瞳でゴードンをみつめる。
大きな瞳に映るのは、二人の未来――
忘れられない過去を越えて、築き上げていく。
まだ幼く小さな存在であるユウとゴードンは、ただ年を重ねても得られないものを、沢山知っている。
その深さは、大人にも負けない。
――業も、愛も、命も――
二人で分かち合って、生きていく……。
口付けを交わし、愛を語り合う。
……もう言葉は、要らなかった。
お読み頂きまして、ありがとうございます。
これで一旦の終了となりますが、後程、番外編がありますのでブックマークはこのままで……!




