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第20話 未来の夢

 瞬間移動で、湖へやって来る。

 樽のような、大きな入れ物を持って……。


 勿論、樽の移動は念動力だ。

 湖の中心の、深く澄んだ水を汲み上げる。

 定期的に行っている事だが、ユウが一人で来ることは珍しい。


 水を汲む作業は、極めて短時間に終わった。

 これから、冬になる……湖も凍ってしまうだろう。

 別に、氷を念動力で削って、ごっそり持って帰って、コテージの近くへ置いていても構わない。


 ”転生”前の、地下施設とは違う。

 水も、食べ物も、何もかも……自分で、手に入れなければならない。


 能力を使えば、三人分位なら何とかなるだろう。

 ……リーダーの食べっぷりが、脅威だが。


 そのリーダーは、最近あまり帰って来ない。

 リーダーの分の食料も用意しておくべきか、少し悩む。

 なければないで帰って来た時、在庫を喰い切られてしまうのも、困りものだ。


 水をいっぱいに入れた樽を湖の岸辺へ置いて、湖を見ながら、ユウは思いにふける。



 ――ゴードンとの生活は楽しい。

 とても大事にしてくれる。


 このまま……

 ふたりで幸せな家庭を築くのも、きっとステキなことなのだろう。


 ゴードンに似た子供、ユウに似た子供を間にして、大人になっていく……。

 そんな姿を、思い描いてみた。


「……僕らが、まだ子供なのに」


 片手を口に当てて、くすっと笑った。

 その仕草は、とても愛らしく……女の子らしい。


「僕……”私”って、言った方が……良いのかな?」


 ぼんやりと考える、”女の子”としての自覚……。


 ゴードンを、異性として”愛してる”と言っても、良いだろう……。


 その位に、最近は自覚が出てきた事に、気付いている。

 少女のユウにとって、ゴードンが居ない生活は、もう考えられない。


 先日は――

 叩きのめしてしまった事を、後悔している。


 いや、同じ事があったら、今度は容赦しない。

 ……殺さない自信はある。


 今が、幸せである事を――

 ぼんやりと考え、心を満たすように微笑んだ。




 ……――急に意識が、遠のいていった。



 油断した、大丈夫だと思っていた……!

 ――ゴードン――!









 ……ユウが、コテージに帰って来ない。

 すぐに帰ると言ったのに。


 プリンもクッキーも出来上がるほど、時間が経っているというのに……まだ、帰って来ない。


 ――不安になった。

 胸を掻きむしられる程、嫌な気持ちがして堪らない。


 ゴードンには、瞬間移動は出来ない。

 迎えに行って、行き違いになるかもと思って待っていたが……どうにも嫌な予感がして堪らない。


 ――あまりにも、遅い。

 何度もテレパシーを送ってみたが、通じない。


 ゴードンのテレパシーは弱い……。

 範囲が狭い街中ならまだしも、コテージと湖では離れている。

 ユウがその気で、受け取る気でいなければ、届かない。


 つまり……ユウに受け取る気が、ないのだ。

 いや、受け取れない可能性がある。


 それは即ち、意識がない――

 いつもの発作を起こした、可能性だ。


 この寒い中、湖の近くで倒れていたりしたら、それこそまた体調を崩してしまう。

 本当の病気になってしまうかもしれない。


 ユウなら高出力治癒能力で瞬時に治せるだろうが、そういう問題ではない。


 ゴードンは念の為、メモを残し、急いで湖へ向かった。

 いつも行く場所は、決まっている。

 全力で走って行けば、日暮れ前には着くだろう。



 ――だが、湖に着いても、ユウはいなかった。



 いつもの場所には、湖の畔に、水のたっぷり入った大きな樽が幾つもあるだけで……

 ユウの姿は、どこにもなかった。


「……ユウ……!?」


 どんなに強くテレパシーを送ってみても、反応がない。

 いくらゴードンのテレパシーが弱いといっても、こんなに近くまで来たなら、全力で送れば届く筈だった。


 ……ここではない、どこかで倒れている可能性がある。


 ユウは女の子だ。

 畔の近くにいた小動物に、心惹かれて近付いて行ったのかもしれない。


 もしかすると、夕飯用の果物や野菜を、探査能力で近くにあるのをみつけて、採りに行ったのかもしれない。


 ……そうだ、探査能力……。


 もしもゴードンにもあったなら、すぐにユウをみつけられるのに。

 何故、自分にはないのかと、悔しい気持ちにもなった。


 先日話していた、魔法でも良い。

 絶対に、習得するべきだ。


 未来を……未来を……未来を――

 ……引き寄せる。


 ユウがいない未来など、有り得ない。


 必ず、すぐにでも探査能力に似たちからを手に入れよう。

 どんな困難でも……必ず。


 ――そう、心に決意しながら、ユウを探す。


 だが、どこにもいない。

 大声で呼びながら、湖を一周したが、みつからない。

 はやる気持ちが、不安を、恐怖に陥れていく。


 もう二度と失いたくない……もう二度と……!


「ユウ――!!」







次回は――クライマックス!

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