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第1話 異世界転生

 白い……白い、闇の中――……。


 白さを闇と言うのも可笑しなものだが、目に映るのは白しかなかった。

 それは光なく、黒き闇の中にいるのと同じ感覚――白しか見えない。


 むしろ「目」は、まともに機能しているのだろうか。

 疑問に思い、ユウは両てのひらを見る。


 確かに見えている。

 見慣れた、自分の手……。


 ちゃんと足もある。身体も……無事だ。

 自分では見えない頭や顔を、手で触ってみる。

 特に変わった様子は見られない。


 何故、こんな所に自分がいるのか、判らなかった。


 ぼんやり記憶を辿ってみる――

 新型リダクションデバイスを所持する対”スカーレットコロナ”戦において、おとり作戦をしていたのは覚えている。


 リーダーの指示通り、おとりとして空の目立つ位置に身をさらし、その上でシステムを構築する端末を探査能力で…………。


「……?……」


 腕を組んで考え込んだまま、首を傾げた。

 その後の記憶がない。


『あなたはその時、死んだのですよ……ユウ』


 どこからともなく【声】が聞こえた。

 鈴を鳴らしたような、どこまでも透る凛とした【声】――……。


「どこにいるの? 誰?」

『私は……そう、あなたのところで言う神様……』


「……自分で、”様”ってつけるの?」

『……あなたも”ユウ様”って呼ばれていたじゃありませんか……』


「僕が自分で言ってた訳じゃないもん」


 神様と名乗っている存在にも、容赦なかった。


 むしろユウの世界に”神”など存在しない。

 お伽噺ではあったが、その名を崇めても意味のない世の中だ。

 神への崇拝など、ある訳がない。


 ユウは軽くうつむいて、少し、寂しそうな顔を見せた。


「……死んじゃったの? じゃあ……ここにいる僕は?」


『ここは”あの世”……魂だけの世界』

「肉体があるけど?」


『そう見えるだけです』

「どうして死んじゃったの?」


 ”神様”は、ユウが命を落とすことになった経緯を、映像にして見せた。

 まるでよく出来た映画の一部のように、目の前へ広がる。


 おとり作戦決行中に能力値異常高上昇の発作を起こし、意識を失ったユウ。

 防御結界も、空に浮いている能力も効果を失い、何の力も持たない子供と同じ状態になった。

 そのユウを、敵”スカーレットコロナ”の結界が捕らえ、八つ裂きにされた。


 即座にリーダーが結界を破壊し、ユウを救出したものの、失血が酷く――

 挙句、先日のシステムエラーで、万が一の為に取ってあったユウの保存血液が失われていた。


 目の前の映像には……

 床一面に広がるユウの血に、足を捕らわれ転んで全身ユウの血にまみれたゴードンが、白く冷たくなったユウへすがって泣く姿が映し出されていた。


 映像からは声は聞こえなかったが、大声で泣いていたのだろう……。

 大人がいなくなり、それでも動かないユウを揺さぶって、何度も起こそうとする。


 二度と目を覚まさない――

 動かない、冷たくなったユウを……何度も、何度も……。



「そして僕は、ここにいる……の? どうして……?」


『彼らを守る為に、貴方は尽力しました……。僅か八歳という少ない人生……本当は、もっとたくさん生きられた筈なのに……』

「本当は? でも、死んじゃったんでしょう?」


『そこで! 貴方にボーナスです!』

「……ボーナス……?」


 途端に目の前が開ける。

 映像も、白い闇も消え、広がるのは緑多き美しい大地。


 空からは眩しい光が降り注ぎ、青い空、白い雲。

 それは、まるで夢に見たような、理想郷……!


 あまりの美しさに、ぽかんと口をあけ、驚きの表情でユウはそれを見る。


『ここで! 第二の人生を送るのです!』

「……ここで? だって死んじゃったんでしょう? 第二って?」


『だからボーナスなんです! 死んだその時の八歳からスタート! 今、流行りの異世界転生ってやつですよ!』


 途端にユウは胡散臭そうな顔をした。


「今、流行り……?」

『更にボーナスです! 異世界転生にはチート能力が付きもの! 貴方は何を望みますか?』


 この自称”神様”……何を言っているのか、段々判らなくなって来た……。


 先程までの、自分が死んでしまった経緯へのしんみりした感情を打破するこのノリについていけず、ユウは物凄く不審そうな顔をして答えた。


「……なにも要らない。普通の子供として生きていきたい。むしろ何故、八歳からスタートなの? 普通の家庭に、普通に生まれさせてよ」


『判りました! 貴方の能力は既にチートクラスなので、そのまま引き継ぎとします!』

「ちょっと! 聞いてる!?」


『勿論、生前あった異常上昇の発作などはありません! あ、おまけに精鋭部隊の制服で得られる最高二倍効果も、素で付けておきますね! つまり、生前の倍以上! ええいオマケです、この際三倍で!!』

「聞いてる!? 僕は普通の子になりたいの!!」


『判りました! 貴方のその性格に合った、可愛い女の子にしてあげます!』

「待って……どういう事!?」


『これは楽しい人生が待ってる予感んんんんん!! イエイ!!』

「イエイじゃないよ! ちゃんと僕の話聞いてよ!!」


『さぁ、第二の人生……楽しんでおいで、ユウ!』

「ちょっ……」






 ――気が付くと、先程見た……理想郷のような場所に、ユウはいた。

 勿論、八歳の姿で。


「……どこが転生なの、これ……?」


 現実のものなのか確かめるべく、足を踏みしめてみたり、軽く飛び跳ねてみたりする。

 ――確かに実感がある。


 どうやら本当に肉体を持って、この理想郷へ降り立ったようだった。



 ……気になるのは、自分がスカートを履いている事だ。



 長いふんわりとした布が多く使ってある、膝下まであるスカート。

 その上に、前掛けのように長く白い生地を付けている。

 お洒落に、刺繍まで施してある。


 振り向いてみると、目の端に映る、長い髪。

 ……見慣れた色……まさか……。


 ユウは周りを見回す。

 特に鏡になるようなものは、何もない。

 美しい緑と、青い空、白い雲が広がっているだけだ。


 能力は、あると言っていた。

 何もない子供だったらまた違うが、使い慣れた超能力で空へ浮かんでみる。

 ――問題なく使える。


 少し上空まで行き見渡してみると、すぐ近くに湖があった。

 あそこなら、姿を鏡のようにして見る事が出来るだろう。




「………………」


 ユウは頭を抱え、地面へ屈していた。

 静かな湖面に姿を映して見たものの……力を失い、その場にうずくまる。


 八歳は八歳でも……愛らしい少女が映っていた。


「僕……こんな、可愛く……ない…………」


 八歳という年齢は、既に性を意識し始めている年齢だ。

 男の子は男の子として凛々しく、女の子は女の子として愛らしく。


 確かにユウは、あまりそういう意識は大きくはなかった。

 性として見るよりも、人として見る方が大きかった為だ。


 だからといって、何故、女の子になっているのか。


『どうです!? 可愛いでしょう! 元々あなたは中性的で女の子寄りな所があったので、超似合っていますよ!』

「自称神様!? どこにいるの? 戻してよ!!」




 さわさわと風が頬を撫でるだけで、反応は返って来なかった。

 自称神様の声に反応して立ち上がり、空を見上げてみた格好のまま、ユウは止まっていた。


 青い空……白い雲……。


 光溢れるこの世界は……ユウが今まで暮らしてきた所とは、全く違っていた。

 空を見上げて、こんな気持ちになった事は一度もない。


 ゆるやかに動いて行く、遠くの白い雲。

 頬に当たる風は、かぐわしい緑溢れる植物の香り。


 目を閉じると、遠視能力で周囲の状況が見て取れた。

 先程、空から見たのと同じ……自然に満ち溢れた世界……。


 ゆっくりと……瞼を開ける。


 悪くないかもしれない……そんな、気になった……。


 微笑んで、ふと湖面へ目がいく。

 そこにはやはり、愛らしい少女の姿が映っている。


 藤紫色の腰まであるロングストレート。

 髪をまとめる為か、頭の周囲に巡らされた髪飾り……。


「髪飾り……」


 思い出しても、意味を成さない記憶……。

 何故、”転生”なのに、持っているのか。

 自称神様の言う事は、謎だらけだ。


 それでも、戻れる訳じゃない――

 ここで生きていくしか、なかった。


「……八歳の子供に、どうしろと?」


 確かに理想郷ではあるが、生活基盤をイチから構築しなければならない事に気が付いた。

 何故、一般家庭に普通の子供として、赤ん坊から始めさせてくれないのか不思議に思った。


「今、流行りって、何の事だろう……」


 森の中の澄んだ湖の前で、独り言をつぶやくユウがいた――……。







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