第7部
「何もなければ、家賃はただなんでアルバイトしてでも、せめて少しでも金を残すよ」
藤代は笑って言った。
「そうだな、金が命綱だよな」
「昼間、酒飲んでぼーっとテレビ見てるとさ、いかにも苦労なんかしてなさそうな
金持ちエリートなコメンティターが、リストラで一家心中した男を評して。『金が全ての
世の中じゃない、もっと他に道があったはずだ』とか偽善者ぶったこと言うんだよ。
金がないって現実が分かんないんだろうな、反吐がでるぜ」
藤代が吐き捨てるように言った。
そう金が無ければ喰うことも寝る場所もない。
そんな惨めな人生なんか関係のない人間がまだごまんといるのだ。
私たちは日頃の鬱憤を思い切りぶちまけた。
かと言って酔っぱらうわけではない。
そんな金など無い事はお互い承知なのだ。
無頼なくらい酔えればいいと思う。
幸せな明日はこないのだ。
「これ、少ないけどな」
店を出てから私は、恥ずかしいかぎりではあるが、少額の金が入った封筒を差し出した。
「えつ」
藤代が驚いたような顔をした。
「少ないが受け取ってくれ」
「でも、、おまえ」
そのあとに続くはずの言葉が、嬉しくもあり悲しかった。
しばらくの沈黙のあと藤代は大事そうに胸の内側のポケットにしまいこんだ。
「ありがとう」
こんな時。
友の旅立ちに私はわずかな餞別しか渡せず、おまけに気を使わせている。
私が職に就いていたら、こんな気分にはさせられないだろうに。
友と別れ夜道を風に吹かれて歩く。
どんな夜も月は変わらず煌々と輝いている。
会社からの帰りにきつい残業が続いても、いつか幸せになれると思い見上げた月。
その時の月の光と変わりはない。
けれど私は年老いて、何も得ず、、ただからっぽになって行くだけだった。
なんの約束もハッピーな未来もない。
まじめに働くと言うことが幸せの条件ではないことを知らなかったのだ。
「幸司、おかえり」
家の茶の間を黄ばんだ電球が照らしている。
希望を見いだすことの出来ない黄昏の風景。
「ただいま」




