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ある男  作者: トリカブト
3/10

ある男3

この男も地道に暮らしていたのだ。

しかし、バブル崩壊以後、会社は人を紙くずのように捨て、金持ちと貧乏人を二極化すべきという経団連の方針で、

地道にこつこつ働いて来たもの達をも地獄へ突き落とした。

いろいろな事情をかかえホームレスになった人があの公園で暮らしているらしい。

俺も一歩間違えば同じ境遇になってしまうだろう。

胸の締め付けられる思いで、老婆の話を聞いた。

世界は冷酷で矛盾と差別で出来ている。

テレビや学校で教える平等など全くの虚構でしかない。

政治家や官僚や企業家は自分の取り分のみに血道をあげ、タンス貯金を吐き出させようとがんばっている。

老人がやっと貯めた金を吐き出させようと必死だが、こんな不況の中だれが出すのかも考えない。

その金を吐き出させるために、多くのホームレスを生み出しても平気なのだ。

時代は混沌として、未来は明るいものではない。

この年齢ではいくあても、再生も日本では許されていない。

バスから降りて我が家へ向かう道はこれまでになく遠く、足が重く感じられた。

こうやって絶望の中いつまで生きて行くのだろう。

通り過ぎる商店街のショーウインドウに自分の姿を見る。

くたびれた中年の男の瞳には何の光も宿ってはいない。

未来のない暗い顔がある。

 

我が家と言っても公団住宅の一室が今の住まいだ。

いつかは一戸建てと無理を承知で母は願っていたが、今は夢さえ見ることができない。

家賃が安いのが救いだ。

「おかえり、どうだった」

ドアを開けると母がパートから帰っており朗報はないかと駆け寄ってくる。

「いや、駄目だった」

「良く捜したの?」

「ああ」

「いい年の男がぶらぶらして、早くお嫁さんも貰わないとならないのに」

 母は矢継ぎ早に言いたいことをぶつけてくる。

「うるさい」

 怒鳴りつけることも初めはあったが、今はそんな気力もなく、母の言葉の飛礫を聞き流す。

 こんな境遇でやけになり、パチンコやアルコールに逃げるわけでもないのだから、少しは労って欲しい。

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