ある男3
この男も地道に暮らしていたのだ。
しかし、バブル崩壊以後、会社は人を紙くずのように捨て、金持ちと貧乏人を二極化すべきという経団連の方針で、
地道にこつこつ働いて来たもの達をも地獄へ突き落とした。
いろいろな事情をかかえホームレスになった人があの公園で暮らしているらしい。
俺も一歩間違えば同じ境遇になってしまうだろう。
胸の締め付けられる思いで、老婆の話を聞いた。
世界は冷酷で矛盾と差別で出来ている。
テレビや学校で教える平等など全くの虚構でしかない。
政治家や官僚や企業家は自分の取り分のみに血道をあげ、タンス貯金を吐き出させようとがんばっている。
老人がやっと貯めた金を吐き出させようと必死だが、こんな不況の中だれが出すのかも考えない。
その金を吐き出させるために、多くのホームレスを生み出しても平気なのだ。
時代は混沌として、未来は明るいものではない。
この年齢ではいくあても、再生も日本では許されていない。
バスから降りて我が家へ向かう道はこれまでになく遠く、足が重く感じられた。
こうやって絶望の中いつまで生きて行くのだろう。
通り過ぎる商店街のショーウインドウに自分の姿を見る。
くたびれた中年の男の瞳には何の光も宿ってはいない。
未来のない暗い顔がある。
我が家と言っても公団住宅の一室が今の住まいだ。
いつかは一戸建てと無理を承知で母は願っていたが、今は夢さえ見ることができない。
家賃が安いのが救いだ。
「おかえり、どうだった」
ドアを開けると母がパートから帰っており朗報はないかと駆け寄ってくる。
「いや、駄目だった」
「良く捜したの?」
「ああ」
「いい年の男がぶらぶらして、早くお嫁さんも貰わないとならないのに」
母は矢継ぎ早に言いたいことをぶつけてくる。
「うるさい」
怒鳴りつけることも初めはあったが、今はそんな気力もなく、母の言葉の飛礫を聞き流す。
こんな境遇でやけになり、パチンコやアルコールに逃げるわけでもないのだから、少しは労って欲しい。




