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ある男  作者: トリカブト
2/10

ある男2

 何の収穫もなくバスに乗り家路に着いた。

バス代もばかにならないが、しかし頼りといえばそこしかない。

 ただ沈鬱な思いと、ひしひしとした絶望に抑えつけられながら、すぎて行く景色を見ていた。

 通り過ぎる人々は皆、平穏な日常を営んでいるように見える。

 私のような苦しみはあの人々には無縁なのだろうと思うと、絶望と羨望で胸が痛くなる。

 あるバス停で、松葉杖の老婆が乗車しようとするのをみかねて、男が補助していた。

 私も思わず駆け寄り老婆の手助けをしたのだが、他の乗客や運転手は知らぬふりだった。

「それじゃ、お願いします」

 男は乗車せずに私に老婆をゆだねた。

 彼の態度は礼儀正しく好感の持てる態度だったが爪は真っ黒く、背広も薄汚れた風で異臭を放っている。

 その時彼がホームレスだと気がついた。

「ありがとうございます」

 老婆はしきりに頭を下げ、席に腰掛けるとほっと息をついた。

「親切な人ですね」

 ホームレスの行為に感動した私は、思わず老婆に話掛けた。

「いつもあの方に助けていただくんですよ」

 老婆の話によると、バスが老婆に気づかずに、通りすぎることが幾度かったと言う。

 バス停の近くの公園に寝泊まりしているホームレスの男がみかねて、老婆が来るとバスを停めて乗せてくれるそうだ。

「あの方は本当に親切なんです、なのに世間はどうなっているのか」

 老婆はバスを待つ間に彼と話すらしい。

 先ほどの男は、突然のリストラに合ったらしい。

 会社に勤めてたころに、家を買ったそうだ。

 安くててごろだからローンの返済も楽に思えたらしい。

 だが、リストラされてからは仕事がなかった。 

 アルバイトや派遣もボーナスをあてにしていた返済計画のために、金が足りない。

 家を売ったが二足三文でローンが残った。

 生活していけなくて結局妻や子と別れ自己破産したのだ。

 離婚すれば妻子は生活保護にかかれる。

 バイトや派遣をしてなんとかローンを返済していたが、身体を壊して病院代がかさみ

 入院中に家賃が払えないために借家も撤去されていた。

 住所もなく身体も癒えてない彼はホームレスとよぎなくされた。

 こんなはずではなかったと誰もが思うだろう。

 みんな幸せになろうと努力を続けて来た。

 一部の人間と企業だけが景気がいいといいながらも、底辺の人間は切り捨てられ、

 さらなる不況が人を殺していく。

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