ある男2
何の収穫もなくバスに乗り家路に着いた。
バス代もばかにならないが、しかし頼りといえばそこしかない。
ただ沈鬱な思いと、ひしひしとした絶望に抑えつけられながら、すぎて行く景色を見ていた。
通り過ぎる人々は皆、平穏な日常を営んでいるように見える。
私のような苦しみはあの人々には無縁なのだろうと思うと、絶望と羨望で胸が痛くなる。
あるバス停で、松葉杖の老婆が乗車しようとするのをみかねて、男が補助していた。
私も思わず駆け寄り老婆の手助けをしたのだが、他の乗客や運転手は知らぬふりだった。
「それじゃ、お願いします」
男は乗車せずに私に老婆をゆだねた。
彼の態度は礼儀正しく好感の持てる態度だったが爪は真っ黒く、背広も薄汚れた風で異臭を放っている。
その時彼がホームレスだと気がついた。
「ありがとうございます」
老婆はしきりに頭を下げ、席に腰掛けるとほっと息をついた。
「親切な人ですね」
ホームレスの行為に感動した私は、思わず老婆に話掛けた。
「いつもあの方に助けていただくんですよ」
老婆の話によると、バスが老婆に気づかずに、通りすぎることが幾度かったと言う。
バス停の近くの公園に寝泊まりしているホームレスの男がみかねて、老婆が来るとバスを停めて乗せてくれるそうだ。
「あの方は本当に親切なんです、なのに世間はどうなっているのか」
老婆はバスを待つ間に彼と話すらしい。
先ほどの男は、突然のリストラに合ったらしい。
会社に勤めてたころに、家を買ったそうだ。
安くててごろだからローンの返済も楽に思えたらしい。
だが、リストラされてからは仕事がなかった。
アルバイトや派遣もボーナスをあてにしていた返済計画のために、金が足りない。
家を売ったが二足三文でローンが残った。
生活していけなくて結局妻や子と別れ自己破産したのだ。
離婚すれば妻子は生活保護にかかれる。
バイトや派遣をしてなんとかローンを返済していたが、身体を壊して病院代がかさみ
入院中に家賃が払えないために借家も撤去されていた。
住所もなく身体も癒えてない彼はホームレスとよぎなくされた。
こんなはずではなかったと誰もが思うだろう。
みんな幸せになろうと努力を続けて来た。
一部の人間と企業だけが景気がいいといいながらも、底辺の人間は切り捨てられ、
さらなる不況が人を殺していく。




