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ある男  作者: トリカブト
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最終部

こんな人間を許す世の中で、いいのだろうか?

私は何故だかこれが私の使命のように感じた。

この間違いを糾すことがやるべきことなのだと。

わけのわからない義憤が脳を支配する。

昔買って使わなかったナイフを引き出しの奥から出した。

そっと握るとずしりと重い。

刃は鋭い光を放っている、

これで世間の矛盾に思い知らせるのだ。

私がこの腐った世界に一石を投じなければならない。

何もない人生に意味を持たすのだ、

親父狩りをする少年達を見つけ、彼らを叩きのめす、、否刺し殺す。

また私が殺される可能性もある。

私が殺された場合でも意義があったということを知らせるため、胸のポケットに決意書を書いていれた。

私は獣を追う猟師のような気分で家を後にした。

風が冷たい。

ポケットのナイフが重い、その重みが私に力をくれるようだ。

映画の中にでもいるような、なにか晴れがましい気分で私は日の暮れかけた繁華街やその付近を彷徨いはじめた/

何度か髪の毛を染めた派手な少年達を見たが、彼らは集まってはばらばらになり何処かへ消えていく。

何の事件もなく世が更けて、ついに駅前通りの店も全て閉まった。

寒々とした夜の空間には私だけが佇んでいた。

深夜になっても少年達の姿はなかった。

あったとしても、コンビニで買い物をするだけで立ち去っていく。

意気込んだ思いが風船のようにしぼんでいく。

風が身にしみた。

途端に自分のしていることが、あまりにばかばかしく思えた。

結局、私のすることはこの程度なのだろう。

手の中のナイフを握りながら暗い道をとぼとぼと家路に向かった。

夢がさめ滑稽な自分があまりにもみじめに思えた。

古ぼけた団地が我が家が見えてきた。

壁にはヒビがが入り、ところどころ廊下の電気が切れている。

エレベーターの前に、私は母の姿を見つけた。

私の帰りが遅いのを心配し、ずっと待っていたのだろう。

カーデガンを羽織る小さな肩が震えている。

「母さん」

「どこ行ってたの?心配するじゃない」

私はこの時気がついた。

私は独りではない、母がいるのだと。

こうして待ってくれている母を最後まで看取ってやらなければならないのだ。

私は自分よりはるかに小さくなった母の肩に手を添え、家にかえろうと言った。

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